枕石漱流

2章 食の巻 穀物

はじめに

私たちが日常食べる物は、穀物(イネ科植物とマメ科植物の種子)、野菜、果物、海藻、魚介類、家畜の肉や卵、ミルク、蜂蜜など多種多様であり、この雑食性が人を類人猿から進化させた原動力ともいえます。食の巻では、これらの食材について化学的な面から説明を加えてみたいと思います。

目次

光合成産物の行方/ 世界三大穀物と起源/ 米と小麦/ 糠/ ご飯の粘り/ パンの作り方/ トウモロコシ/ 大麦/ 雑穀/ ナデシコ目の穀物/ 豆/ 穀物以外の植物油/ サラダ油/ マーガリン/ チョコレートとココア

光合成産物の行方

穀物や野菜、果物は植物の葉で光合成により作られた有機物の貯蔵形態です。そこで先ず、光合成産物が植物の中でどのように変化するかについて簡単に説明します。光合成は葉の葉緑体が昼間に太陽の光を浴びて行われます。この反応で作られる糖質(実際はトリオースリン酸)の一部は、一旦葉緑体でデンプンに変換されて保存されます(これを同化デンプンといいます)。残りは葉緑体から細胞質ゾルに輸送されてショ糖に変換され、液胞に保存されたり、他の器官に師管を通して輸送(専門用語で「転流」といいます)されたりします。夜になると、葉緑体のデンプンの大部分は分解されてショ糖に転換され、葉から他の器官に転流されます。このように葉で光合成により作られる糖質は、最終的にショ糖の形で他の器官(根や茎、果実など)に転流され、そこでアミロプラストという細胞小器官の中でデンプンなどに合成され貯蔵されます(これを貯蔵デンプンといいます)。デンプンを貯蔵する例としては、米、麦、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモなどがあります。もちろんデンプン以外の貯蔵形態もあります。果物ではショ糖、ブドウ糖、果糖として液胞内に貯蔵されます。また、菜種やヒマワリ、大豆などの種子では脂質(植物油)に変換され貯蔵されます。

ショ糖が基本的な光合成産物の転流形態ですが、ラフィノースやスタキオースなどのオリゴ糖(後述する「機能性オリゴ糖」を参照してください)、マンニトールやソルビトールなどの糖アルコール、ガラクトース、ミオイノシトールなどを転流する植物もあります。動物では糖は血液中をブドウ糖の形で輸送されますが、植物ではブドウ糖の形で師管を輸送されることはないようなので不思議ですね。リンゴの枝ではソルビトールの形で転流され、果実の中で果糖やショ糖に変換されます。リンゴが完熟すると余剰のソルビトールが芯の付近に蜜として残るので、蜜入りリンゴは完熟の証であり、甘くて美味しいリンゴというわけです。キウイフルーツの木ではミオイノシトールとして転流されるようです。

世界三大穀物と起源

穀物にはイネ科植物の種子とマメ科植物の種子があります。ここでは先ずイネ科の方から紹介します。世界三大穀物とよばれるものは、小麦、米、トウモロコシです。現在、これらは世界中で栽培されていますが、原産地は限られた地域でした。

小麦アインコルンは遺伝子解析により、トルコ南東部の都市ディヤルバキル西部が原産であると考えられています。紀元前9,000年頃、トルコや北イラクで小麦を栽培する農耕が始まったといわれており、死海の北にあるエリコ遺跡には紀元前8,000年頃の小麦を栽培した農耕集落の跡が残されています。小麦生産はメソポタミア文明を誕生させました。

稲(米)の原産地は中国長江流域から華南にかけてであり、江西省の仙人洞(センニンドウ)遺跡や吊桶環(チョウトウカン)遺跡で紀元前12,000年頃の栽培稲の痕跡が見つかったと報じられています。これらの遺跡は洞窟遺跡であり、そこからは丸底土器の破片が見つかっていることから、土器を使って米を煮て食べていたことがうかがえます。稲作農耕が確実に行なわれていたという証拠は紀元前7,000年頃の彭頭山(ホウトウザン)遺跡から見つかっています。中国の古代文明としては黄河文明がよく知られていますが、これとは異なる長江文明が稲作農業を基盤として興ったことが、最近の長江流域の調査から明らかにされています。日本に稲作が伝来したのは、以前は縄文時代晩期から弥生時代であるといわれていましたが、最近の「プラントオパール分析法」を用いた研究により、岡山県彦崎貝塚の紀元前4,000年頃の地層から大量の稲のプラントオパールが発見され、日本の稲作の起源は遅くとも縄文時代前期まで遡ることが明らかにされています。

トウモロコシの先祖にあたるテオシンテはメキシコ高地やグアテマラ高地に自生しており、メソアメリカが原産と考えられています(「メソ」とは「中央の」という意味です)。テオシンテが突然変異してトウモロコシが生れ、メキシコ西部ハリスコ州のバルサス川流域で最初に栽培されたと考えられています。初期のトウモロコシは、穂軸の長さが2 cmほどと小さく、穀粒も50粒ほどであったため生産性は低かったようですが、数千年にわたる品種改良により現在のように大きくなり、生産性が高まりました。メキシコ中部オアハカ盆地のギラ・ナキツ岩陰遺跡から紀元前4,000年頃の最古のトウモロコシの遺存体が見つかっています。トウモロコシ栽培はマヤ文明を生み出す原動力になりました。

米と小麦

米や小麦は、糖質、特にデンプンの含量が高いため世界中の人々の主食となっています。玄米の成分は糖質約74%(食物繊維3%を含む)、タンパク質約7%、脂質約3%です。精白米のタンパク質は6%程度に、脂質は1%程度に、食物繊維は0.5%程度に低下しますが、糖質は78%程度になります。

米は精白したものを主にそのまま穀粒として食べますが、小麦は製粉して小麦粉としてからパンやピッツァ、うどん、ケーキなど様々に加工して食べます。殻付き小麦(玄穀)の成分は糖質約72%(食物繊維11%を含む)、タンパク質約11%、脂質約3%で、玄米に比べてタンパク質と食物繊維が多いことが分かります。小麦を製粉して小麦粉にすると脂質は1.5%程度に、食物繊維は3%程度に減少します。

小麦にはグルテニンとグリアジンというタンパク質が含まれており、小麦粉に水を加えてこねるとこれらが会合してグルテンという粘着性タンパク質が形成され、粘りと弾力性が出てきます。したがって小麦粉に最初からグルテンが含まれているわけではありませんが、便宜的にグルテニンとグリアジンをグルテンとよんでいます。グルテンは小麦に特有のもので他の穀物には含まれていません。小麦粉は一般的に強力粉、中力粉、薄力粉の3つに分類されますが、これは小麦の種類によります。硬質小麦、中間質小麦、軟質小麦とよばれるものがあり、これらはグルテンの量と質が異なります。グルテンの量が多く、質が強い硬質小麦から作られるものが強力粉であり、グルテンの量が少なく、質が弱い軟質小麦から作られるものが薄力粉ということになります。中力粉はその中間で中間質小麦から作られます。一般的に強力粉はパンや餃子の皮、ピッツァなど、中力粉はうどんなど、薄力粉はケーキやお菓子、天ぷらなどの料理に適しているといわれています。スパゲティやマカロニ用には、柔軟で弾力性の強いグルテンを豊富に含むデュラム小麦が使われています。

小麦粉から作る食品に麩(フ)というものがあります。作り方は簡単で、小麦粉に食塩水を加えてよく練ると粘りが出てくるので、これを布の袋に入れて水中でよく揉んでデンプンを袋から流出させるとグルテンが残ります。このグルテンを様々に加工して、生麩や乾燥麩、揚げ麩、焼き麩が作られます。麩はタンパク質含量の高い食品です(焼き麩で約30%)。

穀物を精白したときに出る果皮、種皮、胚芽などの部分を糠(ヌカ)といい、玄米や小麦からできる糠は「米糠」、「小麦ふすま」とよばれます。米糠には脂質が多く(約18%)含まれているので、これを絞って得られるのが「米油」(「米糠油」ともよばれます)です。米油ならびに以下に述べるコーン油や豆類の油、穀物以外の植物油の主成分は、中性脂肪のトリアシルグリセロール(別名トリグリセリド)です。トリアシルグリセロールはグリセリンという三価アルコールに種々の脂肪酸のアシル基が3つ結合したエステルです。表2-1に示すように、トリは3個を表す数の接頭辞です。脂肪酸はカルボキシ基(-COOH)をもち、炭化水素が直鎖状につながったものです。脂肪酸には炭素鎖に二重結合をもたない飽和脂肪酸と二重結合をもつ不飽和脂肪酸があります。脂肪酸の種類と性質を表2-2に、植物油に含まれている各種脂肪酸の割合を表2-3にまとめて示してあります。

飽和脂肪酸は、炭素鎖が長くなるほど融点が高くなります。不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸より融点が低く、同じ炭素数の不飽和脂肪酸では二重結合の数が多いほど融点が低いことが分かります。表2-3に示すように、米油には融点の低い不飽和脂肪酸のオレイン酸とリノール酸が高い割合で含まれているため、常温(日本薬局方では常温は1525℃と定められています)では液体です。また、米油にはビタミンEも多く含まれています。

米糠は、栄養価が高いことからキュウリや大根などの野菜の糠漬けにも使われています。ビタミンB1(別名チアミン)は、鈴木梅太郎により米糠から抗脚気因子として分離されました(後述する「ビタミンの発見」を参照してください)。小麦ふすまはセルロースやヘミセルロースという食物繊維を約50%含み、栄養補助食品として摂取することにより便秘予防や大腸がん予防の効果があるといわれています。

表2-1 数の接頭辞
表2-2 主な脂肪酸の性状
表2-3 植物油に含まれている主な脂肪酸

ご飯の粘り

私たち日本人が毎日食べるお米にはデンプン(別名スターチ)という多糖が含まれています。これは光合成により水と二酸化炭素から作られるブドウ糖(別名グルコース)という単糖が鎖状につながってできています。デンプンにはブドウ糖の鎖に枝分かれのあるものとないものがあり、枝分かれのあるものをアミロペクチン、枝分かれのないものをアミロースといいます。そしてアミロースの割合がご飯の粘りに関係し、アミロースが少ないほど粘りが強いことが知られています。お餅をつくるモチ(糯)米は、アミロースを含まずアミロペクチンだけでできているので、すごく粘りがあります。

普段食べているお米はウルチ米といい、品種によりアミロース含量(全デンプンに占めるアミロースの割合のことです)は異なります(1523%の範囲)。日本人の多くは粘りのあるご飯を好むので、日本人にとって美味しいお米は、アミロースが少ないものということになります。そこで日本各地の農業試験場では、美味しい米作りのためにアミロースをいかに減らすかということを大きなテーマとして研究しています。北海道では1970年代まで優良米を生産できなかったのですが、 1984年の「ゆきひかり」を皮切りに、1988年の「きらら」、2001年の「ななつぼし」、2008年の「ゆめぴりか」など優良米が続々と生産されるようになりました。特に「ななつぼし」と「ゆめぴりか」は、数多くある北海道米品種の中で食味ランキング最高位「特A」を獲得しています。アミロース含量は「ななつぼし」19%、「ゆめぴりか」1516%と報じられています。「ゆめぴりか」という名前は「日本一美味しい米を」という北海道民の「夢」とアイヌ語で美しいを意味する「ピリカ」を合わせたものだそうです。

本州最北端に位置する青森県においても優良米生産のための研究がすすめられ、2014年に初めて「特A」米が誕生し「青天の霹靂」と命名されました。この米のアミロース含量は17%と報じられています。

世界中で広く栽培されているイネはサティバという種(学名Oryza sativa)で、これはジャポニカとインディカの2つの亜種に大きく分けられます。学名とは属名と種小名の二語名で表される生物の種名のことであり、イネの種名Oryza sativaは、Oryzaが属名(イネ属)で、sativaが種小名になります。生物の分類では属の上位に科、科の上位に目が置かれており、イネはイネ目・イネ科・イネ属に属します。日本で栽培されているイネのほとんどはジャポニカであり、ウルチ米とモチ米があります。インディカ米は東南アジアや中国南部、インドなどで主に栽培されており、アミロース含量が2228%と高いためパサパサした食感がありますが、ピラフやチャーハン、パエリアなどには非常によく合います。

ここでちょっとお米の粘りと遺伝子の話しをしましょう。デンプンはデンプン合成酵素(SS)により合成されます。SSにはアミロースの合成に関与するデンプン顆粒結合型SSGBSS)とアミロペクチン合成に関与する可溶性SSSSS)の2種類があります。モチ米ではGBSSの遺伝子(ワキシー遺伝子とよばれています)は機能を失っているため、アミロースが合成されません。インディカ米とウルチ米ではワキシー遺伝子が異なっており、前者のGBSSの発現量は後者の10倍程度高いことが分かっています。GBSSの働きが強いインディカ米ではアミロース含量が高くなり、その働きが弱いウルチ米ではアミロース含量が低くなるということになります。ルフィポゴンというイネの野生祖先種(学名Oryza rufipogon)にはインディカ米と同じワキシー遺伝子が存在することから、長い稲作の歴史の中で、この遺伝子に突然変異が起こり、粘りをもったウルチ米が誕生したと思われます。ところで、同じ品種のウルチ米でも栽培する環境が異なるとアミロース含量が異なるものができることが分かっています。例えば、同じコシヒカリを登塾期間(出穂から刈取りまでの期間)に異なる気温で栽培すると、気温が高い条件下ではアミロース含量は低くなり、逆に、気温が低い条件下ではアミロース含量は高くなるということが実験的に示されています。したがって、お米の品質は天候や地域により大きく左右されることになります。

コシヒカリの突然変異から生まれたミルキークイーンとよばれる品種がありますが、この米のアミロース含量は10%程度で(コシヒカリは17%程度)、もちもち感が強いことが知られています。

パンの作り方

パン酵母はビール、ワイン、日本酒などの醸造に用いられる酵母と同じです。パンを作る際には砂糖(ショ糖)を必ず添加します。「酒の巻」の章で説明するように、酵母は小麦のデンプンを分解できないので、酵母が利用できるショ糖を加えてアルコール発酵させ、生ずる二酸化炭素でパン生地を膨らませます。エタノールも産生されるので、発酵直後のパン生地には仄かなアルコールの匂いがします。

トウモロコシ

トウモロコシは世界三大穀物の1つですが、利用割合は家畜の飼料用が64%と最も多く、次いでコーンスターチやコーン油などを製造する工業用が32%を占め、実際に人が直接食べているのは4%程度です。ただし、主食用トウモロコシと飼料用・工業用トウモロコシとは品種が異なります。乾燥トウモロコシ(玄穀)の糖質含量は約71%(食物繊維約9%を含む)、タンパク質含量は約9%です。脂質含量は約5%であり、米や小麦より高いことが特徴です。コーン油はコーンスターチを製造する過程で分離される胚芽(これには種子の脂質の85%が含まれています)から搾油して得られ、不飽和脂肪酸のリノール酸とオレイン酸が多く含まれているため(表2-3を参照)、常温では液体です。

トウモロコシを主食としているのはメキシコやアフリカ東部から南部にかけての地域であり、メキシコではトルティーヤ、アフリカではサザやウガリといった食品として食べられています。トウモロコシを主食にすると、ビタミンの一種であるナイアシン(ニコチン酸ともいいます)が欠乏し、「ペラグラ」という病気に罹りやすいといわれています。これはトウモロコシに含まれている結合性ナイアシンが消化吸収されにくいことと、トウモロコシは人の体内で合成できない必須アミノ酸の1つトリプトファンが少ないため、このアミノ酸から合成されるナイアシンが欠乏することによると考えられます。トウモロコシを主食とする地域では乾燥した種子を、石灰を加えた水で煮てアルカリ処理してから加工して食べていますが、この処理によりナイアシンが消化吸収されやすい形になるためペラグラを防ぐことができると考えられています。

大麦

世界三大穀物に次いで4番目に多く栽培されているイネ科の穀物が大麦です。大麦が最初に栽培化されたのはパレスチナ地域であると考えられており、先に述べたエリコ遺跡でも小麦とならんで大麦が栽培されていたようです。大麦はかつて主食として重要な時代もありましたが、現在では主として飼料用ならびに醸造用に用いられています。「酒の巻」で紹介するように大麦はビールやウイスキー造りの原材料として重要な地位を占めています。

雑穀

米、小麦、トウモロコシ、大麦以外のイネ科植物の種子である粟(アワ)、稗(ヒエ)、黍(キビ)は、日本の縄文時代から栽培されており、「古事記」の五穀(米、麦、粟、大豆、小豆)や「日本書紀」の五穀(米、麦、粟、稗、豆)にも登場しています。日本のおとぎ話「桃太郎」には黍団子が出てきますね。現代においては五穀というと米、麦、粟、豆、稗または黍を指すことが多いようです。中国の黄河文明は、黄河の中・下流域において粟、黍などの畑作農業を礎として興ったといわれています。現代では粟、稗、黍などは雑穀と称され、米と小麦に主食の座を奪われていますが、これら雑穀の精白粒にはタンパク質(911%)と食物繊維(24%)が多く含まれており、米にこれらを加えた雑穀米が飽食の時代の人気食となっています。

ナデシコ目の穀物

アマランサスとキヌアは、色の巻「花、野菜、果物、穀物の色」で説明したベタレインという色素を含むナデシコ目ヒユ科の植物の種子であり、南米インカ文明の重要な穀物として食用にされていました。玄穀には玄米より多くのタンパク質(1314%)と脂質(6%)が含まれており、栄養価の高い健康食品として注目されています。

ソバはナデシコ目タデ科の植物の種子であり、蕎麦粉を麺状に加工した蕎麦は代表的な日本料理の1つです。蕎麦粉にはタンパク質が多く含まれている(12%)ほか、ビタミンB1とルチンも豊富に含まれています。

マメ科植物の種子はいわゆる豆というもので、主に副食やお菓子などに使われています。私たち日本人が日頃よく食べる豆には大豆、小豆、インゲン豆(金時豆、うずら豆、とら豆など)、エンドウ、落花生などがあります。大豆は中国東北部からシベリア、日本に自生しているツルマメが原種と考えられており、山梨県の酒呑場遺跡で紀元前3,000年頃(縄文中期)の大豆栽培の証拠(縄文大豆土器とよばれています)が発見されています。小豆は日本を含む東アジアが原産と考えられており、滋賀県の粟津湖底遺跡からは紀元前4,000年頃(縄文前期)の小豆種子が出土しています。インゲン豆はメソアメリカ、エンドウはメソポタミア周辺の西アジア、落花生は南米パラグアイ周辺がそれぞれ原産と考えられています。 

マメ科の植物の根には根粒細菌が共生し、この菌が空気中の窒素をニトロゲナーゼという酵素でアンモニアに還元して固定し(これを窒素固定といいます)、植物が窒素源として利用できるようにしています。豆の大きな特徴として、イネ科の小麦、米、トウモロコシと比べてタンパク質が多いことです。タンパク質含量は大豆34%、小豆20%、インゲン豆20%、エンドウ22%、落花生26%であり、これらの豆のなかで大豆のタンパク質が最も多いことが分かります。「大豆は畑のお肉である」といわれる所以です。糖質含量は大豆30%(うち食物繊維18%)、小豆59%(18%)、インゲン豆58%(19%)、エンドウ60%(17%)、落花生19%(7%)であると報告されています。脂質含量は大豆20%、小豆2%、インゲン豆2%、エンドウ2%、落花生48%であり、豆の種類により大きく異なります。大豆や落花生には多くの脂質が含まれているので、大豆油やピーナッツ油が採取されます。大豆油とピーナッツ油には不飽和脂肪酸のリノール酸やオレイン酸が高い割合で含まれているため(表2-3を参照)、常温では液体です。

古代より日本人に馴染みの深い大豆は、そのまま豆料理に使われたり、味噌、醤油、豆腐、納豆、きな粉などに加工されて使われたりします。未熟な大豆は枝豆と称して茹でてお酒のつまみとして好まれます。大豆を水に浸してすりつぶし、水を加えて煮つめた汁を漉したものを豆乳といい、飲料として利用されます。豆乳を搾った後に残る搾りかすは「おから」とよばれ、食物繊維が豊富で、「卯の花」やドーナツ、クッキー、ケーキなどに利用されています。豆乳を煮たときに液面にできる薄い皮は「湯葉」とよばれ、生のまま(生湯葉)あるいは乾燥したもの(干し湯葉)を調理して食べます。湯葉は、化学的には大豆タンパク質が熱変性して凝固したものです。豆乳に「にがり」を加えて凝固させたものが豆腐です(にがりについては水の巻「淡水・汽水・海水」を参照してください)。

小豆には、赤小豆のほかに白小豆や黒小豆があります。小豆は餡(アン)にして、饅頭や最中、どら焼きなどのお菓子に使われます。

インゲン豆やエンドウには、若い莢(サヤ)を食べる軟莢種(ナンキョウシュ)と成熟した種子を食べる硬莢種(コウキョウシュ)があります。サヤインゲンやサヤエンドウは軟莢種であり、野菜として天ぷらや胡麻和え、炒め物、サラダなどにして食べます。完熟したインゲン豆は、煮豆や甘納豆、きんとんなどにして食べます。

インゲン豆にはフィトヘマグルチニン(PHA)というタンパク質が含まれています。生あるいは加熱不十分のインゲン豆を食べると、PHAは激しいおう吐や下痢といった食中毒を引き起こします(インゲン豆中毒、金時豆中毒などとよばれています)。PHAは十分な加熱により変性して無毒になるので、十分加熱した豆を食べるようにしましょう。

「色の巻」で紹介したクロマミンというアントシアニンを含む黒豆は黒大豆のことです。赤小豆や黒小豆、金時豆にもアントシアニンが豊富に含まれているので、その抗酸化作用による健康維持が期待できます。

 

穀物以外の植物油

先に述べたように、米糠やトウモロコシ胚芽、大豆、落花生から良質の植物油が採れますが、ここではいわゆる穀物以外の種子などから採取できる植物油について紹介します。

アブラナ(菜の花、菜種ともいいます)は、黄色一色に覆われる「菜の花畑」として日本の春の風物詩の1つに挙げられます。アブラナの種子には40%程度の脂質が含まれており、菜種油が採取されます。従来の品種には、心臓障害を引き起こす恐れのあるエルカ酸(炭素数22の一価不飽和脂肪酸)が多く含まれていたため、カナダでエルカ酸を含まないキャノーラ品種が開発され、現在ではキャノーラ油が菜種油として市場にでています。キャノーラ油はオレイン酸を58%、リノール酸を19%含んでおり(表2-3を参照)、常温では液体です。

その他の油糧種子の脂質含量はヒマワリ大粒種1020%、ヒマワリ小粒種2035%、綿実1723%、ゴマ約52%、紅花種子2040%、亜麻種子3238%、エゴマ種子約43%と報告されており、それぞれの種子から採油されたものがヒマワリ油、綿実油、ゴマ油、紅花油、アマニ油、エゴマ油として市販されています(表2-3を参照)。ゴマはゴマ油としてだけではなく、擂りゴマやゴマダレなどとしても利用されています。アマニ油とエゴマ油にはα-リノレン酸というω(オメガ)3脂肪酸が50%以上含まれており、健康志向からその価値が見直されています。後述する「ω3およびω6脂肪酸」を参照してください。

オリーブは果肉と種子の両方に脂質を豊富に含みますが、脂質含量は果肉(55%)の方が種子(13%)より多いという特徴があります。いわゆるオリーブ油は果肉から採れるもので、種子から採れるオリーブ核油より品質が優るといわれています。オリーブ油は常温では液体ですが、冬期に部屋の温度が10℃を下回ったりすると固形状態になることを経験した方は多いと思います。これはオリーブ油に、融点12℃のオレイン酸が73%と非常に多く含まれていることによります(表2-22-3を参照)。オレイン酸oleic acidの名は、オリーブ(学名Olea europaea)油から単離されたことに由来します。

アブラヤシの果肉と種子には50%程度の脂質が含まれており、それぞれからパーム油とパーム核油が採取されます(表2-3を参照)。パーム油は、果肉由来のカロテノイド色素を含むため赤色を呈し、また、飽和脂肪酸で融点の高い(63℃)パルミチン酸を多く含むため(41%)、常温では固体です。パルミチン酸palmitic acidの名はパーム油palm oilに由来します。パーム核油はラウリン酸(45%)をはじめカプリル酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸などの飽和脂肪酸を合わせて76%含み、常温では半固体です。世界で一番多く生産されている植物油はパーム油で、二番目が大豆油、三番目が菜種油(キャノーラ油)となっています。日本では菜種油が最も多く消費されています。

ココヤシの果実であるココナツ(ヤシの実のことです)は、内部に大きな胚乳があり、周縁部の固形胚乳と中心部の液状胚乳に分けられます。未熟果の液状胚乳はココナツジュース(ココナツ水ともよばれます)として飲用されます。成熟果の固形胚乳を乾燥したものはコプラとよばれ、脂質が約60%含まれており、ヤシ油の原料になります。ヤシ油にはパーム核油と同じようにラウリン酸が多く含まれており(43%)、また、カプリル酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸などを合わせると飽和脂肪酸が83%を占め(表2-3を参照)、常温では半固体です。ココナツジュース(糖質3.7%、タンパク質0.7%、脂質0.2%)に酢酸菌の一種であるナタ菌(アセトバクター・キシリナム)を加えて発酵させると、凝固してゲル状物質の「ナタ・デ・ココ」(フィリピン発祥といわれています)になります。ナタ・デ・ココはセルロースからなる食物繊維を含み、コリコリとした食感を楽しむことができ、また、特定保健用食品としても利用されています。

サラダ油

サラダ油とは、低温下でも長時間結晶化しないように精製された植物油であり、サラダドレッシングやマヨネーズの原料に適しています。表2-2に示すように飽和脂肪酸は融点が高く、常温では固体です。したがって、飽和脂肪酸を多く含む植物油はサラダ油には不適です。一方、不飽和脂肪酸は融点が低く常温では液体なので、不飽和脂肪酸を多く含む植物油はサラダ油に適しています。菜種油(キャノーラ油)、大豆油、コーン油、米油などはサラダ油の原材料として用いられています。

マーガリン

マーガリンは植物油を原料とした加工食品であり、バターのようにパンに塗って食べるために常温で固体にしています。多くの植物油は不飽和脂肪酸を多く含むため常温では液体です。そこで、不飽和脂肪酸を水素添加反応(水素化)により飽和化して飽和脂肪酸に変え、植物油を硬化させるわけです。この水素化の過程でトランス形の二重結合をもつトランス脂肪酸が生成され、これが冠動脈疾患や認知機能の低下の一因となる可能性が指摘されています。現在は、飽和脂肪酸であるパルミチン酸含量が高く、常温で固化しているパーム油を材料にしたマーガリンが製造されています。油脂含有率80%以上のものがマーガリンであり、80%未満のものはファットスプレッドとよばれています。市販のマーガリンの多くは実際にはファットスプレッドのようです。

チョコレートとココア

カカオの種子であるカカオ豆は、チョコレートやココアの原料になります。カカオの学名はTheobroma cacaoであり、属名のカカオ属Theobromaはギリシャ語で「神theosの食べ物broma」という意味があるそうです。カカオはメソアメリカと南米の熱帯地域が原産といわれています。現在では中南米(エクアドルやブラジルなど)や西アフリカ(コートジボワールやガーナなど)、東南アジア(インドネシアやパプア・ニューギニアなど)で栽培されています。カカオの果実の中に3040個ほどの種子が入っており、種子には4050%の脂質が含まれています。脂質はカカオバターあるいはココアバターとよばれています。焙煎したカカオ豆を粉砕し、外皮と胚芽を取除き、更に磨砕機で直径0.1 mmくらいにまで磨り潰すとカカオマスが得られます。カカオマスにはカカオバターが約55%含まれており、これをプレス機で絞り取った残りを粉砕して粉末状にしたものがココアパウダーです。ココアパウダーにはカカオバターが20%程度含まれています。カカオバターの組成は、飽和脂肪酸のパルミチン酸やステアリン酸が約60%、不飽和脂肪酸のオレイン酸が約33%を占めており、融点は3236℃くらいで常温では固体です。

カカオはメソアメリカ最初の文明であるオルメカ文明の時代(紀元前1,200年〜紀元前400年頃)から栽培されており、マヤ文明を経てトルテカ文明やアステカ文明に至るまで、カカオ豆を磨り潰して得られるカカオマスの飲み物(いわゆるホットチョコレート)が愛飲されていました。アステカ文明の頃、カカオはクリストファー・コロンブス(1502年)やエルナン・コルテス(1528年)によりスペインに持ち込まれ、カカオマスに砂糖や香辛料を加えて飲みやすくしたチョコレートがスペインからヨーロッパ各地に広まり、王室や上流社会でもてはやされるようになりました。

オランダ人のヴァン・ホーテンは、1828年にカカオマスからカカオバターをプレス(圧搾)して除去し、ココアパウダーを造る製法を開発しました。ココアの誕生です。ココアは、カカオマスより脂質が少ないのでお湯やミルクに溶けやすく、飲みやすくなりました。一方、カカオマスに砂糖や粉乳、カカオバターなどを加えてよく練り上げ、型に流し込んで冷却することにより固形のチョコレートが誕生しました。このようにしてチョコレートは「飲む物」から「食べる物」に変わったのです。固形のチョコレートができたポイントは、カカオマスにカカオバターを加えて脂質含量を高めたことです。ホワイトチョコレートはカカオバターに粉乳を配合して作るため、ココア成分(非脂肪カカオ分)は含まれていません。