枕石漱流

4章 水の巻

目次

はじめに/ 水の性質/ 硬水と軟水/ 水のpH/ 酸性雨/ 酸性湖に生息するウグイ/ 淡水・汽水・海水/ 塩湖 大地溝帯のアルカリ性塩湖/ 海氷/ オホーツクの流氷/ ホッキョクグマと海氷/ 氷河と氷床/ 氷期/ 縄文海進/ 水の力と発電/ 水力発電/ 火力発電/ 原子力発電/ 地熱発電/ 温泉/ 参考文献

はじめに

地球に存在する水の97.4%が海水であり、残りのわずか2.6%が陸水です。陸水のうち氷雪が最も多く約76%を占め、南極氷床やグリーンランド氷床のほかに、ヒマラヤ山脈、アルプス山脈、ロッキー山脈、アンデス山脈、アフリカのキリマンジャロ山やケニア山など標高の高い山脈や山の氷河などとして存在しています。その他の陸水には地表水と地下水があり、湖沼や河川などの水は地表水に含まれます。 

水の巻では、台所やトイレ、お風呂などで私たちが普段何気なく接している水について勉強し、その恩恵を改めて考えてみたいと思います。

 

水の性質

標準気圧(1気圧)1,013 hPa(ヘクトパスカルとよみます)において、水の凝固点(融点あるいは氷点ともいいます)は0℃(精密には0.0025℃)であり、沸点は100℃(精密には99.97℃)です(hPaのパスカルPaは圧力の単位であり、ヘクトh102倍のことです。「表1-1 単位の接頭辞」を参照)。これは1気圧のときに限ったことであり、気圧が高くなると凝固点は下がり、沸点は上がります。例えば、2気圧のときの沸点は120℃、85気圧では300℃にもなります。圧力鍋はこの原理を利用して、食材を100℃より高い温度で、通常より短時間で美味しく調理する器具です。逆に高い山では気圧が1気圧より低くなるため、水の沸点が下がります。富士山頂(標高3,776 m)の気圧は約635 hPaであり、沸点は88℃くらいになります。

写真4-1は、十和田八幡平国立公園内にある十和田湖から流れ出る唯一の河川である奥入瀬渓流の銚子大滝が1月下旬頃に凍結し始める様子を収めたものです。読者の皆様にも是非当地を訪れ、冬の十和田湖・奥入瀬の壮麗な景色を満喫していただければと思います。

水は4℃(精密には3.984℃)において最大密度1 g/cm3(精密には0.99997 g/cm3)を示します。水は0℃で凍りますが、この温度における氷の密度は0.9168 g/cm3であり、水の密度0.9998 g/cm3より小さいため、氷は水に浮きます。後述する海氷や氷山が海に浮くのはこのためです。

写真4-1 凍てつく奥入瀬渓流「銚子大滝」

硬水と軟水

私たちが日常使う水には、カルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)が含まれています。これらの無機質が多い水を硬水、少ない水を軟水と一般的によんでいます。硬水と軟水を区別する基準として水の硬度が用いられます。世界保健機構(WHO)や日本、米国では、硬度は水に含まれているカルシウムとマグネシウムの量を炭酸カルシウム(CaCO3)の量に換算した値です。炭酸カルシウムの分子量が100.09Caの原子量は40.078Mgの原子量は24.305であることから、水の硬度はカルシウムとマグネシウムの濃度を測定し、次式により求めます。 

硬度(mg/l=カルシウム濃度(mg/l)×2.497 + マグネシウム濃度(mg/l)×4.118

WHOの飲料水水質ガイドラインでは、軟水は硬度<60 mg/l、中程度の硬水は60 mg/l≦硬度<120 mg/l、硬水は120 mg/l≦硬度<180 mg/l、非常な硬水は180 mg/l≦硬度となっています。日本では、おいしい水の要件として、硬度は10100 mg/lとされています。日本の水道水の硬度は3060 mg/lで軟水に分類されます。ヨーロッパの水道水は場所にもよりますが、硬水が多いです。フランス産のミネラルウォーターのエビアン(硬度: 300 mg/l)やコントレックス(硬度: 1,500 mg/l)は硬水ですが、ボルヴィック(硬度: 60 mg/l)は軟水です。

水の硬度は紅茶の水色(スイショク)や透明度、味に影響を及ぼします。紅茶の水色(色の巻「紅茶の水色」を参照)は、軟水を使うと紅色や琥珀色ですが、水の硬度が高くなるほど黒ずんでいきます。好みにもよりますが、紅茶には軟水が適しているようです。

健康面で気を付けなければいけないのは、硬水を飲み慣れていない日本人が、硬水を一度に大量に摂取すると胃腸を悪くしたり、お腹を壊したりします。ですから、自分の体調を見ながら一度にたくさん摂取しないように、徐々に体を水に合わせていくことが必要です。

洗剤を使うときに注意しなければいけないことは、硬度の高い水は、泡立ちが悪くなることです。これは洗剤の成分がカルシウムやマグネシウムと複合体を形成し、いわゆる金属石鹸という水に不溶性の物質になるからです。金属石鹸は洗浄力がないばかりでなく、それ自身が汚れの元になってしまいます。浴室用品などにこびりつく石鹸かすは金属石鹸です。

 

水のpH

水は次式のようにごく僅かに電離しており、同じ濃度の水素イオン(H+)と水酸化物イオン(OH-)が存在します。 

H2O H+ + OH-

このため水もごく僅かに電気を通す性質があります。超純水の電気伝導度を正確に測定することにより、25℃における水の電離度は1.8×10-9と求められています。水の分子量は18ですので、水のモル濃度(水1リットル中の水のモル数)は1000/18=55.56M)となります。従って、H+OH-のモル濃度(これを[H+]および[OH-]と表します)は次式により、

H+=OH-=55.56×1.8×10-9=1.0×10-7M

と求められます。

ここで、[H+]と[OH-]の積を水のイオン積Kwといい、

Kw=H+]×[OH-=1.0×10-7)×(1.0×10-7=1.0×10-14M2

となります。25℃において水のイオン積は、中性の純水([H+=1.0×10-7 M=OH-])でも、酸性水溶液([H+]>1.0×10-7 M>[OH-])でも、塩基性水溶液([H+]<1.0×10-7 M<[OH-])でも、常にこの値であるという性質があります。例えば、0.1 Mの塩酸HCl水溶液のように、[H+]が0.1 Mすなわち1.0×10-1 Mの酸性水溶液中の[OH-]は1.0×10-13 Mであり、0.1 Mの水酸化ナトリウムNaOH水溶液のように、[OH-]が0.1 Mすなわち1.0×10-1 Mの塩基性水溶液中の[H+]は1.0×10-13 Mとなります。

中性、酸性、塩基性(アルカリ性ともよばれます)を表すのによく使われるpHは、

pH=-logH+

と定義されています。中性の水のpHは、pH=-log1.0×10-7=7となります。酸性はpH7であり、塩基性はpH7です。pHは[H+]の対数ですので、pH1違うと[H+]は10倍違うことに注意してください。例えば、pH78の水溶液では、[H+]はそれぞれ10-7 M10-8 Mであり、pH 7の方がpH 8より[H+]は10倍高いのです。

胃液には約0.01 Mの塩酸が含まれているので、胃液のpHは約2を示します。海水は塩基性を示し、pH8.1くらいです。

 

酸性雨

雨水は大気中の二酸化炭素を吸収して炭酸(CO2 + H2O H2CO3)として含んでいるため、pHは約5.6の酸性を示します。近年、pH5.6より低い雨が降るようになり、これを酸性雨とよんでいます。酸性雨ができる原因は、工場や火力発電所、自動車、飛行機などによる化石燃料(石炭や石油、天然ガスなど)の燃焼により生ずる硫黄酸化物(SOX:ソックスとよびます)や窒素酸化物(NOX:ノックスとよびます)が、大気中で光化学反応をおこして硫酸や硝酸などの強い酸に変化し、これが雨に取込まれるためです。また、火山の噴火により放出される火山ガスが原因で酸性雨になることもあります。

酸性雨の影響としては、針葉樹林や広葉樹林など樹木の立ち枯れ、公園などにあるブロンズ像の腐食、コンクリート構造物の劣化、橋梁などに用いられている鉄の腐食、河川や湖沼の酸性化による魚介類の生息への脅威などがあります。酸性雨は国境を越えて影響が出るので、国際的な問題となっています。

酸性湖に生息するウグイ

青森県むつ市の下北半島にある霊場恐山に、宇曽利湖(ウソリコ)というカルデラ湖があります。この湖水のpHは約3.5で、強い酸性を示します。これは、湖底から硫酸を含む水が噴出していることやpH3以下の強酸性の川が湖に流入していることに起因すると考えられています。

このような酸性の湖にもウグイという魚が生息しています。酸性環境下でのウグイの生息を可能としている要因として、①ウグイのエラに多く存在する塩類細胞が水素イオン(H+)を湖水側に排出し、重炭酸イオン(HCO3-)を血管側に排出して血液の酸性化を防いでいること、②全身の組織でアンモニアや重炭酸イオンが産生され、中和剤として利用されていることが東京工業大学の広瀬茂久らにより明らかにされています。アンモニアや重炭酸イオンはアルカリ性を示すので、酸の中和剤となるのです。胃薬の成分である重炭酸ナトリウム(料理で使う重曹のことです)は、水に溶けると重炭酸イオンとなり胃酸を中和してくれるので、胃がすっきりします。

ウグイは繁殖の時期になると、湖に流入する中性の河川に遡上して産卵します。生まれた稚魚は、ある程度成長すると酸性環境下で生きることができるようになり、宇曽利湖に下って住みつきます。

 

淡水・汽水・海水

淡水と汽水と海水は水中の塩分(塩濃度)により分類され、淡水は塩分<0.5 g/l、汽水は0.5 g/l≦塩分<30 g/l、海水は30 g/l≦塩分とされています。海面の塩分は場所により異なり、北極海の約30 g/lから地中海の約40 g/lまで幅がありますが、平均すると約35 g/lとなります。

淡水と海水が混じり合ってできる汽水をたたえた湖を汽水湖といい、後述する内陸部の塩湖とは区別されます。国立天文台編「理科年表 平成29年」によると、日本には4 km2以上の面積を有する湖沼(ダム湖は除きます)が56湖沼あり、そのうち汽水湖が26湖沼あります。代表的な汽水湖は、面積が広い順にサロマ湖(北海道)、中海(島根県・鳥取県)、宍道湖(島根県)、浜名湖(静岡県)、小川原湖(青森県)などです。淡水に生息するマシジミやセタシジミ、ならびに汽水域に生息するヤマトシジミについて食の巻「シジミ」のところで説明していますので、参照してください。

海水の平均塩濃度は約3.5%であり、主な陽イオンとしてはナトリウムイオン(Na+: 10,800 mg/l)、マグネシウムイオン(Mg2+: 1,300 mg/l)、カルシウムイオン(Ca2+: 410 mg/l)、カリウムイオン(K+: 390 mg/l)が含まれ、主な陰イオンとしては塩化物イオン(Cl-: 19,400 mg/l)、硫酸イオン(SO42-: 2,649 mg/l)、炭酸水素イオン(HCO3-: 140 mg/l)が含まれています。海水に最も多く含まれている塩は塩化ナトリウムNaClであり、塩類の約78%を占めています。食塩は海水から、蒸発法や膜濃縮法で濃縮後、釜で煮詰めて作ります。塩を作った後の絞り汁を「にがり(苦汁)」といいます。にがりには塩化マグネシウムが最も多く含まれており、食の巻「豆」のところで紹介したように、豆乳から豆腐をつくるときの凝固剤として使われています。

 

塩湖

内陸部にあり、湖水の塩濃度が3 g/l0.3%)以上の湖を塩湖(あるいは塩水湖)といいます。世界で最も湖水面積の大きい湖であるカスピ海(日本の国土面積とほぼ同じです)は、平均塩濃度が約1.2%の塩湖であり、流入河川はロシアのヴォルガ川やテレク川、カザフスタンのウラル川、アゼルバイジャンのクラ川など130本ほどありますが、流出河川がないのが特徴です。カスピ海には多くのチョウザメ類が生息しており、その卵を加工したキャビアは世界三大珍味の1つです。

イスラエルとヨルダンの両国に接する死海は、塩濃度が非常に高い湖(約35%)として有名です。死海への流入河川はヨルダン川のみであり、流出河川はありません。気温は比較的高く、乾燥した気候であり、湖水から蒸発する水の量がヨルダン川や降雨により供給される水の量を上回っているため、高い塩濃度が生まれたと考えられています。死海の水位は毎年1 mのペースで低下しているといわれています。

米国ユタ州にあるグレートソルト湖も、塩濃度が高い湖として知られており、季節や水域により変動がありますが、825%の塩分があります。この湖にはアルテミアという節足動物の仲間が生息しています。アルテミアは甲殻類の一種で、ブラインシュリンプ(brine shrimp)ともよばれ、ブラインとは濃い塩水という意味です。

南米ペルー南部とボリビア南西部の東アンデス山脈と西アンデス山脈にはさまれた標高およそ4,000 mの大平原は、アルティプラーノとよばれており、そこには大小様々な湖があります。アルティプラーノの北部に位置するチチカカ湖は、水面標高が3,812 mという高所にある淡水湖で、多くの在来あるいは外来の魚類が生息しており、水産業が盛んです。アルティプラーノの南部には広大なウユニ塩原(面積約10,000 km2)が広がっています。雨期(12月〜3月)には水が溜まり、塩湖の様相を呈しますが、乾期には湖は干上がり、真っ白な塩の大地となります。ウユニ塩原およびその周辺は、かつて巨大な湖に覆われており、西アンデス山脈にある多くの火山の噴火によりもたらされたナトリウムと塩素が湖水に溶け込み塩湖となり、その後の乾燥化により湖は縮小し、膨大な塩の結晶が堆積したと考えられています。塩原には塩のみならず、ノートパソコンや携帯電話、デジタルカメラ、電気自動車、国際宇宙ステーションなどの電池に利用されているリチウムが世界の埋蔵量の半分ほどもあると見積もられており、ボリビアの貴重で重要な資源となっています。

 

大地溝帯のアルカリ性塩湖

アフリカ大地溝帯(グレート・リフト・バレー)の谷底には、トゥルカナ湖(ケニアとエチオピア)やボゴリア湖(ケニア)、ナクル湖(ケニア)、マガディ湖(ケニア)、ナトロン湖(タンザニア)、エヤシ湖(タンザニア)など多くのアルカリ性塩湖があります。湖水のアルカリ性(pH 910.5)は大地溝帯がもたらす炭酸ソーダNa2CO3に起因します。塩濃度は湖により異なりますが、ボゴリア湖では約10%、ナトロン湖では約8%といわれています。

スピルリナ(シアノバクテリアの仲間)はボゴリア湖やナトロン湖などのような塩濃度が高く、pH 9以上のアルカリ性の環境を好み、繁茂しています。スピルリナはコフラミンゴの主食であり、大地溝帯のアルカリ性塩湖はコフラミンゴの一大生息地となっています(色の巻「カラフルな鳥」を参照)。スピルリナはヒトの健康食品としても役立っています。

アフリカ大地溝帯は「人類のゆりかご」とよばれており、大地溝帯の形成により乾燥化が始まり、森が消えて草原が広がることにより、チンパンジーなどの類人猿から猿人、原人へと進化し、ホモ・サピエンスが誕生したと考えられています。原人の一種であるホモ・エルガステルの子どもの全身骨格(約170万年前のもの)がトゥルカナ湖畔で発見されトゥルカナボーイと名付けられました。ホモ・エルガステルはホモ・エレクトス(いわゆる北京原人やジャワ原人の仲間)、ホモ・ハイデルベルゲンシス、ホモ・サピエンスへと進化しており、現在の人類の祖先と考えられています。

海氷

海水は上述したように、Na+K+Mg2+Ca2+Cl-SO42-HCO3-などのイオンを含むため、凝固点は−2℃で、純水より凍りにくい性質があります。純粋な水などの液体に塩類などが溶けていると、純粋な液体のときより凝固点が低くなる現象を「凝固点降下」といいます。海水が氷結してできるものが海氷です。海水が凍るときには塩類は排出され、ほとんど水だけの氷の塊ができます。海氷から排出された低温で塩濃度が高く、密度の高い水はブラインとよばれ、海面から下方に向かって沈んでいき、鉛直方向の海水の流れを形成します。

海氷は、北極域では北極海を中心にベーリング海、オホーツク海、ハドソン湾などに分布し、南極域では南極海に分布します。北極域の海氷域面積は2月末に最大となり、9月半ばに最小となります。北極域で夏にも海氷が残るのは北極海の極点付近のみであり、他の海域の氷は夏には融けて消えてしまいます。南極域の海氷域面積は、北極域とほぼ逆で2月末に最小となり、9月末に最大となります。

海氷の下端部周辺ではアイスアルジー(または海氷藻類)とよばれる微細藻類(珪藻や渦鞭毛藻など)が繁茂し、海氷生態系を支えています。海氷域に生息する小さな動物のクリオネは、水族館の人気ものです。クリオネは巻貝の仲間で、幼生期には殻がありますが、成体になるとなくなります。幼生期には植物プランクトンを濾過捕食し、成長すると肉食性に変わり、ミジンウキマイマイなどを捕食します。成長したクリオネは、半透明の体に赤い内蔵が透けて見え、翼足を動かして泳ぐ姿が愛らしいことから、「氷の妖精」あるいは「流氷の天使」などとよばれています。

オホーツクの流氷

モンゴル高原に源を発し、中流域ではロシアと中国の国境を流れ、全長4,000 kmを超えるアムール川は、サハリン島(樺太)とユーラシア大陸との間にあるタタール海峡(間宮海峡ともよばれ、北はオホーツク海、南は日本海に通じています)の最北域に流れ込んでいます。アムール川の河口から流れ出る水の約9割はタタール海峡を北上してオホーツク海に、残りの約1割がタタール海峡の最狭部のネヴェリスコイ海峡を南下して日本海に入るといわれています。アムール川の河口付近の海域では、11月下旬頃から凍り始め、次第にタタール海峡全域が氷に閉ざされていきます。オホーツク海に流入した大量の淡水は、海水表層に塩分の低い層を形成し、これがシベリアから吹き付ける-40℃という猛烈に冷たい寒気にさらされることにより氷結すると考えられています。作られた海氷は、風に流されて流氷となり南下し、1月下旬から2月にかけて北海道のオホーツク海沿岸などに接岸します。

ホッキョクグマと海氷

ホッキョクグマはヒグマと共通の祖先から分かれ、極寒の地に適応して進化しました(色の巻「ホッキョクグマ」を参照してください)。北アメリカ大陸北部やユーラシア大陸北部、グリーンランド、北極海のスヴァールバル諸島などに生息しています。餌はアザラシが9割を占めるといわれています。海中でアザラシを捕まえることはほとんど不可能ですから、海氷に開けられたアザラシの呼吸用の穴で待ち伏せしたり、氷上で休んでいるのを狙ったりして捕食します。北極圏(北緯6633分以北の地域)の海氷は8月くらいから10月にかけて著しく減少するため、狩りがほとんどできなくなります。その間、ホッキョクグマは絶食に耐えなければなりません。北極圏が再び氷で覆われる11月頃から翌年の7月くらいまでが、アザラシを捕まえて食べることができる期間となります。そのため、ホッキョクグマはヒグマと異なり冬眠はしません。ただし、妊娠したメスは海岸から数kmほど内陸に入ったところで、雪や土に巣穴を掘り、冬ごもりをします。11月下旬〜1月上旬に巣穴の中で出産し、乳固形分50%、乳脂肪分35%(ヒトの乳脂肪分4%より9倍も高い)という非常に濃いミルクで子育てをします(食の巻「ミルク(乳汁)の成分」を参照)。春を迎え4月頃に巣穴から出て、アザラシを捕食するために子どもを連れて海岸に向かいます。巣穴での生活の間、母グマは絶食状態が続きますので、体重は著しく減少します。

カナダ北東部にあるハドソン湾は、ホッキョクグマが生息する南限になります。ハドソン湾は北極圏より低緯度にあるため、湾内が凍り始めるのはかなり遅く、11月中旬くらいからです。チャーチル川という大きな河川の淡水が湾内に流入しているため、ハドソン湾はこの川の河口付近から凍り始め、12月下旬頃には湾内全域は海氷に覆われます。これは上述したアムール川の淡水が流れ込むオホーツク海が氷結するのと似ています。ハドソン湾周辺には1,000頭ほどのホッキョクグマが生息しているといわれていますが、10月下旬頃になると、湾内で最も早く氷結するチャーチル川の河口付近に大集合するようです。最近の地球温暖化で、ハドソン湾の結氷が遅れ、融氷が早まる傾向にあります。その結果、ホッキョクグマの絶食期間が長期化し、餓死する例が増えているようです。

 

氷河と氷床

氷河は標高の高い山岳地帯の雪線以上のところで氷結した万年雪が、自身の重さで圧縮されて巨大な氷の塊となり、低地へと谷を流れ下っていくものです。ヒマラヤ山脈やアルプス山脈、ノルウェー、アイスランド、米国のアラスカ州、カナダのカナディアンロッキー山脈、ロシアのカムチャッカ半島、チリとアルゼンチンにまたがるパタゴニア、ニュージーランド、アフリカのキリマンジャロ山やケニア山などに氷河が存在します。これらはいわゆる山岳氷河とよばれるものです。なお、日本の富山県立山連峰にある立山ならびに剱岳にも小規模の氷河が存在することが明らかにされています。

氷河はしばしばその先端部分で融けた水が貯留して氷河湖を形成します。地球温暖化により氷河が融けて、氷河湖が増えていると報告されています。氷河湖が決壊すると大洪水が起こり、下流域の人命だけでなく、農業や水力発電の施設などに壊滅的な被害をもたらすことが懸念されています。

氷床は何万年にも亘って大陸に降り積もった雪が圧縮されてできた平均の厚さが2,000 mに達する巨大な氷の塊のことです。現在では、南極大陸とグリーンランドに氷床が見られ、大陸氷河ともよばれます。南極大陸の氷床は陸地の約98%を覆っているといわれ、氷床の厚さは4,000 mに達するところもあり、平均すると2,450 mほどになるようです。グリーンランドは、陸地の約80%が氷床で覆われており、氷床の厚さは沿岸近くで1,500 m、内陸部で3,000 mに達するといわれています。山岳地帯にできた氷床の氷は、氷河となって海へと流れ下っていきます。

氷床より規模が小さく、標高の高い山岳地帯を中心に氷塊が見られる領域は氷原とよばれます。これには米国アラスカ州南東部のジュノー氷原やカナディアンロッキーのコロンビア氷原、チリとアルゼンチンにまたがるパタゴニア氷原などがあります。これらの氷原からは、多数の氷河が流れ出しています。

氷床が内陸部から海岸線に押し出され、海に浮かんだ状態になることがあります。このように陸地とつながったままで海に浮かんだ部分の氷床を棚氷(タナゴオリ)とよびます。南極大陸の周辺には、ロス棚氷、ロンネ・フィルヒナー棚氷など氷床由来の多くの広大な棚氷が発達しています。

氷山は、氷河または棚氷から分離して海に流れ出た大きな氷塊です。氷山は陸地が起源であり、海洋が起源の海氷とは異なります。棚氷からできる巨大なテーブル型氷山は、何年も漂流することがあります。氷山の密度(0.920 g/cm3)は海水の密度(1.025 g/cm3)より小さく、海面上に出ている部分は氷山全体の10%程度しかなく、90%は水面下に潜んでいます。ものごとの全体像が不明で、一部だけが明らかになっている状態を「氷山の一角」と表現することがあります。

豪華客船タイタニック号が処女航海において、北大西洋上で巨大氷山と接触して沈没した事故(1912414日深夜)は有名です。

氷期

一般的に氷期(氷河期)は、南北アメリカ大陸やヨーロッパ大陸に氷床が拡大した寒冷期をいいます。氷期は約4万年と10万年の周期で起こっています。115千年前に始まり12千年ほど前に終わった最終氷期には、現在も存在している南極氷床やグリーンランド氷床以外に、北米のカナダ全域と米国の五大湖周辺までを覆ったローレンタイド氷床、イギリスからスカンジナヴィア半島、ロシア西部までを覆ったスカンジナヴィア氷床、南米チリとアルゼンチンにまたがるパタゴニア地方を覆ったパタゴニア氷床などが存在していたことが知られています。これらの氷床を造った雪は、海から供給される水蒸気に由来するわけですから、莫大な量の水が海から陸に移り、海面は現在より120130 mも低下したと考えられています。

最終氷期においては、日本海に通ずるタタール海峡(最大水深8 m)や宗谷海峡(最大水深70 m)は陸橋(海面低下で大陸や島が陸続きになったところ)になり、ユーラシア大陸とサハリン島ならびに北海道の間で人や動物などの移動が可能になりました。上記2つの海峡のほか、対馬海峡(最大水深100 m)も陸橋になり、朝鮮半島と九州の間で人や動物などが行き来しました。しかしながら、津軽海峡は最も浅い所でも140 mあり(青函トンネルはこの下に造られています)、本州と北海道は陸続きにはならなかったと考えられています。このことを証明するものとしてブラキストン線があります。これは津軽海峡に引かれる生物分布境界線で、日本に生息するニホンザルやツキノワグマなどはこの線を北限としており、ヒグマやシマリスなどはこの線を南限としています。最終氷期には日本海に通ずる上述した4つの海峡のうち3つは陸地になっていたため、日本海は津軽海峡(津軽川といった方がいいかも知れません)のみで太平洋と繋がった湾になっていたと考えられます。

ベーリング海峡(水深3050 m)も最終氷期には陸橋になっており、人類はそこを通ってユーラシア大陸から北アメリカ大陸へ移動したと考えられています。人類は北アメリカ大陸から南アメリカ大陸へと南下を続け、11千年前頃には南アメリカ大陸の最南端に到達していたといわれています。

縄文海進

最終氷期が終焉を迎えた12,000年前頃から、地球は段々と温暖化に向かいました。大陸を覆っていた氷床は徐々に融けて、水は陸から海へと戻り、その結果、海水面は徐々に上昇しました。

日本では、約6,0005,000年前の縄文時代に、海水面は現在よりも510 mほど高く、東京湾は関東平野の奥にまで入り込んでいたと考えられています。これは当時の貝塚の分布から推定されています。このような現象は縄文海進とよばれ、東京湾のみならず、日本全国で起こりました。著者の住んでいる青森県の県庁(青森市にあります)の標高は2.6 mであり、現在の青森市街地のほとんどは海面下にあったと思われます。縄文時代の5,9004,200年前に栄えた三内丸山遺跡の標高は約20 mであり、現在の陸奥湾の海岸線からは3 kmほど離れたところにありますが、当時は遺跡のすぐ近くまで海が来ていたと考えられます。三内丸山遺跡が衰退した4,200年前以降、再度寒冷化が進み、現在の海面の高さになっています。

 

水の力と発電

電気は現代文明になくてはならないものです。電気はまるで私たちの身体を流れる血液のように、家庭、学校、会社、工場、デパート、スーパーなど社会の隅々に流れています。テレビや冷蔵庫、エアコン、洗濯機、照明器具、コンピューター、電車、エレベーターなどは電気で作動しており、電気は私たちの生活に密着しています。もし電気が長期間止まるような事態になれば、私たちの生活は大混乱に陥ってしまいます。電気は今や、空気のように有って当たり前の時代なのです。

電気を生み出すことを発電といい、水力発電、火力発電、原子力発電、風力発電、太陽光発電、地熱発電など多くの発電方法があります。これらの発電の原理は、アメリカ合衆国のジョセフ・ヘンリー(1830年)とイギリスのマイケル・ファラデー(1831年)がそれぞれ独立に発見した電磁誘導というものです。ただし、太陽光発電は電磁誘導ではなく太陽電池を用いて発電します。身近な発電機としては、自転車のローラー発電機を思い起こしてください。自転車のタイヤの側面にローラーを押し当てて、タイヤが回転することでローラーが回り、連動した発電機(ダイナモ)で電気を作ります。ここでは水の力を利用した発電について、基礎的なところを勉強しましょう。

水には固体、液体、気体の3つの状態があります。このうち液体と気体の水を利用して、発電が行なわれています。洪水や津波は、流れる水のエネルギーが私たちの生活に壊滅的破壊をもたらすことを如実に示しています。しかし、この水の流れる力をうまく利用すれば、私たちに恩恵をもたらしてくれます。それが水力発電です。また、蒸気機関車(写真4-2)や蒸気船を動かす力のある水蒸気を利用して、火力発電や原子力発電、地熱発電などが行なわれます。

 

写真4-2 昭和の時代に活躍したD51型蒸気機関車(デゴイチの愛称で親しまれました)

水力発電

水力発電は、水が高いところから低いところへ流れるときのエネルギーで水車を回し、水車と連動した発電機で電気を起こします。大きく分けると、流れ込み式(自流式)とダム貯水式があります。自流式は小規模発電で、急流河川を流れる水を貯めないで、そのまま発電に使う方式です。ダム貯水式は規模の大小がありますが、ダムにより河川水をせき止めて貯水池を造り、ダムから流れ落ちる水を直接利用して発電する方式やダムの水を水路で適当な落差のあるところまで導き発電する方式があります。わが国には2,000以上のダムがあり、それらの内にはダム湖百選に認定され、観光資源として活用されているところもあります。わが国で最も電気出力の大きい水力発電所は福島県と新潟県にまたがる奥只見発電所で、560 MW(メガワット)の最大出力があります(ワットWは電力の単位であり、メガM106倍のことです。「表1-1 単位の接頭辞」を参照)。したがって、560 MW560×106 W、すなわち56千万Wということになります。奥只見湖はダム湖百選に選ばれています。ダムは発電のみに利用されるのではなく、洪水調節や灌漑、上水道、工業用水道など多目的に利用されています。

水力発電のエネルギー変換効率(水の位置エネルギーを電気エネルギーに換える効率)は約80%といわれており、後述する火力発電や原子力発電の熱効率に比べると非常に高いことが知られています。また、当然のことながら、化石燃料を使う火力発電に比べてCO2の排出量が極めて少ないという特徴があります。ただし、水自体からのCO2排出はありませんが、設備・運用に他の電力を使うため、計算上は水力発電もわずかにCO2を排出することになります。

環境エネルギー政策研究所の「自然エネルギー白書2016サマリー版」によると、2015年度におけるわが国の総発電量に占める水力発電の割合は8.8%で、世界平均の16.6%より低くなっています。水力発電の割合が高い国は、ノルウェー(96.6%)、アイスランド(70.3%)、オーストリア(61.4%)、カナダ(58.9%)などがあります。

 

火力発電

火力発電には、汽力発電やガスタービン発電、ガスタービン・コンバインド・サイクル発電などがあります。

汽力発電では、まずボイラーで燃料の重油や石炭、液化天然ガス(LNG: 気体の天然ガスを極低温の-162℃に冷却して液体にしたもので、容積は気体の約600分の1になります)などを燃やして水を沸騰させて高温・高圧の蒸気を作ります。その水蒸気の圧力で蒸気タービンの羽根車を回転させ、タービンに繋いだ発電機を動かして電気を起こします。水蒸気は復水器で冷やされて水に戻り、ボイラーに送られて再度水蒸気に変わるというサイクルを繰り返します。復水器では蒸気を冷やすために大量の水が必要なため、火力発電所は海に近い場所に設置されています。なお、天然ガスの主成分はメタンで、その他にエタン、プロパン、ブタンなどが含まれており、産出される場所により成分の割合は異なります。

ガスタービン発電は、灯油や軽油、LNGなどを燃焼させてできる高温・高圧の燃焼ガスを使ってガスタービンの羽根車を回し発電する方式です。この方式では水は使われません。

ガスタービン・コンバインド・サイクル発電は、ガスタービン発電と汽力発電を組み合わせたものです。まず初めに燃料の軽油やLNGなどを燃やしてガスタービンを回して発電します。ガスタービンから出た排気ガスはまだ高温であるので、次に、排熱回収ボイラーで水を沸騰させて蒸気を作り、蒸気タービンを回して発電するという仕組みです。

火力発電の熱効率(燃料の熱エネルギーを電気エネルギーに換える効率)は、ガスタービン・コンバインド・サイクル発電が約55%と最も良く、次いで汽力発電が約43%、ガスタービン発電が約35%となっています。

東北電力の八戸火力発電所(青森県八戸市)では、東日本大震災(2011311日)後の電力不足を補うために、新たに5号機が建設され、軽油を使うガスタービン発電が20127月から開始されました(発電出力: 274 MW、熱効率: 34%)。その後5号機は、軽油を使うガスタービン・コンバインド・サイクル発電に変更され、20148月から394 MWの出力、熱効率49%で運転が開始されました。さらに使用燃料を軽油からLNGに転換する工事が行なわれ、20157月からは出力416 MW、熱効率57%と非常に性能がアップした火力発電が行なわれています。このように火力発電は、発電方式や燃料を換えることにより環境負荷を低減し、経済性の向上したものに進化しています。

東日本大震災の津波による福島原子力発電所の事故をうけ、わが国の原子力発電はほとんど停止状態にあり、2015年度における総発電量に対するLNGや石炭、石油などを用いた火力発電の割合が約84.6%を占めています(環境エネルギー政策研究所「自然エネルギー白書2016サマリー版」)。

原子力発電

物質を構成する基本的粒子である原子は、プラスの電荷をもつ原子核とマイナスの電荷をもつ電子でできています。原子核は陽子(プラスの電荷をもちます)と中性子から構成されており、陽子の数が原子番号になります。中性子は陽子と電子からなり、電気的に中性すなわち無電荷です。

原子力発電の原理は、汽力発電のボイラーを原子炉に置き換え、化石燃料を燃やすのではなく、ウランを核分裂させて得られる熱エネルギーで水を沸かし、蒸気の力で蒸気タービンを回して電気を起こすというものです。ウラン(元素記号U)は原子核に陽子を92個もつので、原子番号は92番です。ウランには中性子を142個、143個あるいは146個もつものがあり、それぞれウラン234234Uと表します)、ウラン235235U)、ウラン238238U)とよばれます(ウランの後ろの数字は質量数を表し、陽子と中性子の数の和です)。このように陽子の数が同じで、中性子の数が異なるものを同位元素(アイソトープ)といいます。これらのウランはすべて放射性核種であり、ラジオアイソトープとよばれます。自然界には核分裂を起こしにくいウラン238が最も多く存在し(99.2742%)、核分裂を起こしやすいウラン2350.7204%しか存在しません。残りの0.0054%はウラン234です。原子力発電の燃料には、核分裂を起こしやすいウラン235の含有量を35%に高めた濃縮ウランが使われます。

原子炉内でウラン235の原子核に中性子を当てると、原子核は2つに分裂し、新しい原子が2つできます。このとき新たに中性子が23個発生し、別のウラン235を核分裂させます。このようにして核分裂が連続的に起こり、その際に膨大な熱エネルギーが発生します。核分裂により生じる新しい原子の種類は極めて多いのですが、その中にヨウ素131131I)やセシウム137137Cs)があります。これらの原子は原子力発電所の事故で環境中に放出される放射性核種として問題となります。

放射性核種は自発的にα線、β線、γ線などの放射線を放出して放射性壊変し、それぞれα壊変、β壊変、γ壊変とよびます。α壊変とは、α線というヘリウム(4He)原子核(陽子2個と中性子2個からなります)の放射線を放出して、原子番号が2小さく、質量数が4小さい核種に変わることをいいます。β壊変とは、放射性核種がβ線(電子線)という放射線を放出して、質量数は変わらず、原子番号が1つ大きい核種に変わることです(原子核にある1個の中性子が、電子を放出して、陽子に変わるからです)。γ壊変とは、α壊変やβ壊変などにより生成した励起状態にある原子核がγ線(波長が10 pm=10×10-12 mより短い電磁波)を放出して、より低いエネルギー状態に移ることで、質量数や原子番号は変わりません。

ヨウ素131(原子番号53番)は、β壊変とγ壊変によりキセノン131131Xe)(原子番号54番)に変わります。体内に入ったヨウ素は甲状腺に蓄積する性質があるため、放射性ヨウ素を体内被爆すると甲状腺がんの発症の危険性が高くなります。安定ヨウ素剤の服用により甲状腺がんのリスクを低減できるので、原子力規制委員会により定められた「原子力災害対策指針」ならびに原子力規制庁によりとりまとめられた「安定ヨウ素剤の配布・服用に当たって」に従い、原子力発電所などの原子力施設から概ね5 km以内の住民には万一の事故に備えて安定ヨウ素剤が配布されています。

セシウム137(原子番号55番)は、β壊変とγ壊変によりバリウム137137Ba)(原子番号56番)になります。セシウムは生体内でカリウムKと似た振る舞いをし、骨格筋や心臓などに取込まれやすいといわれています。心筋に取込まれた放射性セシウムは、心筋障害や不整脈などの心臓疾患を引き起こす危険性があります。

ウラン238が中性子を捕獲するとウラン239239U)ができますが、これは速やかにβ壊変して原子番号93番のネプツニウム239239Np)に変わります。ネプツニウム239は、もう一回β壊変して原子番号94番のプルトニウム239239Pu)に変わります。元素名ウラン(ウラニウムともよばれます)は太陽系の惑星である天王星(ウラヌスUranus)に由来します。そして、ネプツニウムは天王星の外側の海王星(ネプチューンNeptune)に、また、プルトニウムは海王星の外側の冥王星(プルートPluto)に由来します。原子炉内で新たに生成されるプルトニウム239も核分裂しやすいものであり、実際に発電量の3040%程度はプルトニウムの核分裂エネルギーによるといわれています。

核分裂で発生する熱エネルギーで水蒸気を発生する原子炉には2種類あります。1つは沸騰水型炉で、もう1つは加圧水型炉です。沸騰水型原子炉は、原子炉の中で直接蒸気を発生させ(圧力は7.0 MPaくらいで、蒸気温度は約280℃になるそうです)、蒸気タービンを回して発電するものです。蒸気には放射性物質が含まれるので、タービンや復水器の放射線管理が必要になります。加圧水型原子炉は、一次系統と二次系統の二重強制循環方式になっており、まず原子炉内の圧力を沸騰水型炉より高くして非沸騰性の高温高圧水(圧力: 15.4 MPa、温度: 325℃)を作ります(一次系統の水は放射性物質を含みます)。次いで、一次系統の水を蒸気発生器の伝熱管へ送り、二次系統の水に熱を伝えて蒸気を作り(圧力: 6.0 MPa、温度: 276℃)、タービンを回して発電します(二次系統の水には放射性物質は含まれません)。沸騰水型炉も加圧水型炉も、タービンを通過した蒸気を復水器で冷やして水に戻すのに大量の水が必要であるため、原子力発電所は火力発電所と同じように海に近い場所に設置されています。復水器で冷却用に使われた海水には放射性物質は含まれていないため、海洋を放射能汚染することはありません。

原子力発電では、核分裂で発生する熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱効率は約33%で、火力発電より低いといわれています。

地熱発電

地熱発電は、地球内部のマグマの熱エネルギーで高温になった熱水・蒸気を蒸気井(ジョウキセイ)で取り出して、火力発電や原子力発電と同様に水蒸気で蒸気タービンを回して発電するものです。化石燃料やウラン燃料を使わないので、クリーンな発電です。主に、シングルフラッシュ、ダブルフラッシュ、バイナリーの3つの発電方式が用いられています。

シングルフラッシュ方式は、蒸気井から出てくる高温・高圧の熱水と蒸気を気水分離器(セパレーター)で分離し、蒸気でタービンと発電機を回して発電します。残りの熱水は、還元井(カンゲンセイ)で地下に戻し、地下水の枯渇を防ぎます。タービンを通過した蒸気は、復水器で冷却水を用いて温水に戻します。この温水は、冷却塔で空気冷却した後、復水器の冷却水として用いたり、地下に還元したりします。日本の地熱発電所のほとんどが、この方式を採用しています。東北電力の葛根田(カッコンダ)地熱発電所(岩手県雫石町)では、シングルフラッシュ方式(蒸気圧力0.34 MPa、蒸気温度147℃)の1号機(出力50 MW)と2号機(出力30 MW)を備え、合計80 MWの発電能力があります。

セパレーターで高圧の蒸気と分離された熱水は、まだ非常に高温であるため、これを減圧器(フラッシャー)に導き圧力を下げます。圧力が下がると沸点が下がるので(「水の性質」を参照)、熱水が沸騰して蒸気が発生します。セパレーターで分離した高圧の一次蒸気とフラッシャーで得られた低圧の二次蒸気の両方を用いて、タービン・発電機を回して発電するのがダブルフラッシュ方式です。フラッシャーで得られた残りの熱水は、還元井で地下に戻します。シングルフラッシュ方式をダブルフラッシュ方式にすることにより、発電出力は約20%増加するようです。九州電力の八丁原(ハッチョウバル)発電所(大分県九重町)は、わが国最大の地熱発電所で、ダブルフラッシュ方式の1号機(一次蒸気: 0.49 MPa158℃)と2号機(一次蒸気: 0.59 MPa164℃)がそれぞれ55 MWの出力を有し、合計出力は110 MWになります。

バイナリー発電は、フラッシュ発電には利用できない比較的温度・圧力の低い熱水・蒸気を活用して、水より沸点が低い媒体(例えば、ペンタンやアンモニア、代替フロンなど)を加熱して気化させ、得られた高圧の媒体蒸気でタービン・発電機を回して発電する仕組みです。加熱源と媒体の2つの熱サイクルを利用して発電するので、バイナリー発電とよばれています。上述した八丁原発電所構内に、熱源として噴出勢力が減衰した蒸気井(0.304 MPa143.1℃)を有効利用した国内初のバイナリー発電施設(媒体: ペンタン、媒体蒸気圧: 1.09 MPa、媒体蒸気温度: 133.2℃、発電出力: 2 MW)が20042月に設置され、2年間の実証試験運転を経て、20064月から営業運転を開始しています。

日本全国には沢山の温泉がありますが、高温温泉(70120℃)の場合は直接入浴することはできません。冷水でうすめるとせっかくの成分が薄まってしまうので、「湯もみ」などを行い入浴に適した温度(50℃程度)にまで湯を冷ましています。このような高温温泉の余剰な熱エネルギーを活用するのが温泉バイナリー発電です。温泉地としては、高温温泉を発電に利用して泉温を下げることができ、適温になった湯を入浴用に利用できるというメリットが生まれます。小浜温泉(長崎県雲仙市)の熱水(泉温: 105℃、日量: 15,000トン)を利用した小浜温泉バイナリー発電所が20159月より事業運転を開始しています。出力72 kWの発電機が3機設置されており、合計出力は216 kWになります。また、土湯温泉(福島県福島市)でも139℃の熱水を利用して、出力400 kWのバイナリー発電が201511月より稼働しています。日本の発電可能な高温温泉からの発電出力は720 MW(原子力発電1機分に相当します)と推定されています。種々の小型バイナリー発電機が開発されており、今後温泉バイナリー発電が発展すると期待されています。

環境エネルギー政策研究所の「自然エネルギー白書2016サマリー版」によると、わが国の2015年度における総発電量に占める地熱発電の割合は、わずか0.2%に過ぎません。温度150℃以上の地熱資源のポテンシャルは約23.47 GWGはギガ109倍のことです。「表1-1 単位の接頭辞」を参照)と試算されていますが、2015年度の地熱発電の合計は0.54 GWしかありません。米国(約3.7 GW)やフィリピン(約2 GW)、インドネシア(約1.4 GW)などでは地熱発電の導入が進んでおり、地熱資源が世界第3位といわれる日本でも、新規の導入が待たれます。

温泉

日本人に馴染みの深い温泉は、昭和23年に制定された「温泉法」により、「地中より湧出する温水、鉱水および水蒸気などで、泉温(源泉から採取されるときの温度)が25℃以上、または、一定の物質を有するもの」と定義されています。一定の物質とは、1 kg中に①溶存物質(ガス性のものを除く)の総量1,000 mg以上、②遊離二酸化炭素(CO2250 mg以上、③リチウムイオン(Li+)1 mg以上、④総鉄イオン(Fe2+Fe3+10 mg以上(鉄イオンについては次の「鉄の巻」を参照してください)、⑤水素イオン(H+)1 mg以上、⑥よう化物イオン(I-1 mg以上、⑦総硫黄(SHS-H2SS2O32-に対応するもの)1 mg以上、⑧炭酸水素ナトリウム(NaHCO3340 mg以上、⑨ラドン(Rn2 nCi=74 Bq以上などのうちいずれか1つを含むとされています。

ラドンとは原子番号86番、質量数222の放射性核種です。ラドン222222Rn)は、原子番号88番の放射性核種ラジウム226226Ra)がα壊変して生成されます(「原子力発電」を参照)。ラドンの融点は-71.15℃、沸点は-61.85℃であり、常温では無味無臭で、無色の気体であるため人が知覚することはできません。放射性物質の量を表す単位をキュリー(Ci)といい、放射性核種が毎秒3.7×1010個壊変するとき、その量を1 Ciとしています。また、毎秒1個壊変する放射性核種の量は1ベクレル(Bq)という別の単位でも定められています。従って、1 Ci = 3.7×1010 Bqとなります。Ciはラジウムの発見者であるピエール・キュリーとマリー・キュリー夫妻にちなんで、Bqはウラン鉱物から放射線が放出されているのを発見したアンリ・ベクレルにちなんで定められた単位です。ラドン222はα壊変とβ壊変を連鎖的に繰り返し、最終的には原子番号82番の安定核種である鉛206206Pb)になります。ラドン温泉に浸かると、ラドンは気体として主に肺から取り込まれて循環器系に入り、放射性壊変するときに放出される放射線が健康に良いと信じられています。しかしながら、ラドンは肺癌を引き起こす危険要因であるとの認識も高まっています。

環境省自然環境局から出されている「鉱泉分析法指針(平成26年改訂)」によると、温泉のうち、特に治療の目的に供しうるもので、泉温が25℃以上、または、次に挙げる①〜⑦の物質のうち、いずれか1つを有するものは療養泉と定義されています。すなわち、温泉水1 kg中に①総溶存物質(ガス性のものを除く)1,000 mg以上、②遊離二酸化炭素(CO21,000 mg以上、③総鉄イオン(Fe2+Fe3+20 mg以上、④水素イオン(H+)1 mg以上、⑤よう化物イオン(I-10 mg以上、⑥総硫黄(SHS-H2SS2O32-に対応するもの)2 mg以上、⑦ラドン(Rn3 nCi=111 Bq以上のうちどれか1つが含まれていればよいわけです。

療養泉はその泉質により、次のように分類されています。泉温が25℃以上で、溶存物質(ガス性のものを除く)の総量が1,000 mg未満の温泉は、単純温泉とよばれます。溶存物質(ガス性のものを除く)の総量が1,000 mg以上の温泉は、溶存する主な陰イオン成分Cl-HCO3-SO42-により、それぞれ塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉(後述する硫黄泉とは異なります)に分けられます。その他、上述した療養泉の定義の②〜⑦に合致する温泉は、それぞれ二酸化炭素泉、含鉄泉、酸性泉、含よう素泉、硫黄泉、放射能泉とよばれています。

和歌山県の花山温泉は、大量の二酸化炭素と鉄イオンを含む二酸化炭素泉・含鉄泉(泉温: 25.5℃、pH: 6.4)として有名です。湧出時の温泉水は無色透明ですが、空気に触れることにより鉄が酸化されて、赤褐色に変わります。塩化物イオンや炭酸水素イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなども豊富に含まれており、湯船の縁などに炭酸カルシウムの結晶が堆積するという特徴があります。

酸性泉は温泉水1 kg中に水素イオン(H+) 1 mg以上を含みますが、これはpHに換算すると3以下になります。水素の原子量は1であることから、水素イオン濃度1 mg/l=1×10-3 g/lは、モル濃度に換算すると[H+=1×10-3 Mであり、pH=-log1×10-3=3となるからです(「水のpH」を参照)。青森県の酸ヶ湯(スカユ)温泉(pH 1.9)や秋田県の玉川温泉(pH 1.2)などは代表的な酸性泉です。酸ヶ湯温泉は酸性泉であるだけでなく、二酸化炭素泉、含鉄泉、硫黄泉、塩化物泉、硫酸塩泉でもあり、様々な効能が期待できます。

一方、温泉水に炭酸水素イオン(HCO3-)や炭酸イオン(CO32-)、水酸化物イオン(OH-)を含むと、アルカリ性のヌルヌルしたお湯になり、入浴後肌がすべすべになります。和歌山県の龍神温泉(下の湯pH 7.8)や佐賀県の嬉野温泉(シーボルトの湯pH 7.7)などは炭酸水素塩泉で弱アルカリ性を示し、美人の湯とよばれています。水酸化物イオンや炭酸イオンを含みpH 10以上を示す強アルカリ性温泉には、長野県の白馬八方温泉(pH 11.5)や埼玉県の都幾川温泉(pH 11.3)などがあります。

読者のみなさんの近くにも温泉があると思いますが、温泉に入るときには、どのような成分が含まれているかを気にしながら入ると、温泉をより一層楽しむことができると思います。本書では温泉の効能については言及しませんが、それぞれの泉質の適応症について知ることにより健康に役立てて頂ければと思います。

参考文献

国土交通省気象庁 「酸性雨に関する基礎的な知識」 (http://www.data.jma.go.jp/gmd/env/acid/info_acid.html)

広瀬茂久ら 「酸性湖とアルカリ湖にすむ魚の適応戦略」 Journal of Japanese Society for Extremophiles 5: 69-73, 2006

国立天文台編 「理科年表 平成29年」 丸善出版 2016

川幡穂高・山本尚史 「縄文時代の古環境、その2−三内丸山遺跡周辺の環境変遷−」 地質ニュース 666: 31-38, 2010

電気事業連合会 「発電のしくみ」 (http://www.fepc.or.jp/enterprise/hatsuden)

環境エネルギー政策研究所 「自然エネルギー白書2016サマリー版」 (http://www.isep.or.jp/jsr2016)

東北電力プレスリリース(201571日) 「八戸火力発電所5号機 燃料転換による運転開始について」 (https://www.tohoku-epco.co.jp/news/normal/1189821_1049.html)

原子力規制委員会 「原子力災害対策指針」 (http://www.nsr.go.jp/activity/bousai/measure)

原子力規制庁 「安定ヨウ素剤の配布・服用に当たって」 (https://www.nsr.go.jp/activity/bousai/measure/iodine_tablet/index.html)

経済産業省資源エネルギー庁 「地熱発電のしくみ」 (http://www.enecho.meti.go.jp/category/resources_and_fuel/geothermal/explanation/mechanism)

秋田涼子 「温泉バイナリー発電の試み」 日経研月報 20131月号: 66-71

環境省自然環境局 「温泉の保護と利用」 (https://www.env.go.jp/nature/onsen/index.html

環境省自然環境局 「鉱泉分析法指針(平成26年改訂)」 (https://www.env.go.jp/nature/onsen/docs/shishin_bunseki.pdf)