枕石漱流

3章 豆類

目次

はじめに/ 窒素固定/ ダイズ/ ラッカセイ/ アズキ/ ササゲ/ インゲンマメ/ ヒヨコマメ/ エンドウ/ キマメ/ レンズマメ/ ソラマメ/ ルーピンマメ/ 参考文献

はじめに

 マメ目マメ科植物の種子はいわゆる豆beanまたはpulseというもので、主に副食やお菓子などに使われています。2章穀類のところで述べたように、豆類は菽(シュ)穀類ともよばれ広義には穀類に含まれますが、本書では穀類と分けて説明したいと思います。豆類にはダイズ、アズキ、インゲンマメ、エンドウ、ソラマメ、レンズマメ、ヒヨコマメ、ササゲ、キマメ、ルーピンマメ、ラッカセイなどがあります。表3-1に世界の豆類の生産量を示します。

表3-1 世界の豆類の生産量(2014年)

窒素固定

 マメ科の植物の根には根粒菌が入り込んでできる根粒があります。この菌は空気中の窒素(N2)をニトロゲナーゼという酵素でアンモニウムイオン(NH4)に還元して固定し(これを窒素固定といいます)、植物が窒素源として利用できるようにしています。このようなことからマメ科の植物、特にゲンゲ属のゲンゲ(レンゲソウ)やシャジクソウ属のクローバー(シロツメグサ)などは緑肥として利用されています。緑肥とは、マメ科やイネ科などの植物を栽培し、葉や茎を田畑に鋤き込みして肥料とすることです。

ダイズ

 ダイズ(大豆、英名:soybean、学名:Glycine max)はダイズ属(Glycine)の植物で、中国東北部からシベリア、日本に自生しているツルマメ(別名:ノマメ、学名:Glycine soja)が原種と考えられています。山梨県の酒呑場遺跡で紀元前3,000年頃(縄文中期)の大豆栽培の証拠(縄文大豆土器とよばれています)が発見されています。ダイズは豆類の中では最も生産量が多く、世界で3億トン以上生産されています(表3-1)。主要な生産国は米国、ブラジル、アルゼンチン、中国などです。英名のsoybeanは、醤油soyを造る豆beanに由来します。

 ダイズを始めとする豆類の成分を表3-2に示します。大豆のタンパク質含量(33.8%)は豆類のなかで最も多いことが分かります。「大豆は畑のお肉である」といわれる所以です。古代より日本人に馴染みの深い大豆は、そのまま豆料理に使われたり、味噌、醤油、豆腐、納豆、きな粉などに加工されて使われたりします。未熟な大豆は「枝豆」と称して、茹でてお酒のつまみとして好まれます。大豆を水に浸してすりつぶし、水を加えて煮つめた汁を漉(コ)したものを「豆乳」といい、飲料として利用されます。豆乳を搾った後に残る搾りかすは「おから」とよばれ、食物繊維が豊富で、「卯の花」やドーナツ、クッキー、ケーキなどに利用されています。豆乳を煮たときに液面にできる薄い皮は「湯葉」とよばれ、生のまま(生湯葉)あるいは乾燥したもの(干し湯葉)を調理して食べます。湯葉は化学的には大豆タンパク質が熱変性して凝固したものです。豆乳に「にがり(苦汁)」を加えて凝固させたものが豆腐です。にがりとは、海水から食塩を作った後の絞り汁のことで、塩化マグネシウムが最も多く含まれています。

 大豆は後述する落花生などとならんで油糧種子ともよばれ、脂質含量が19.7%と高い(表3-2)ため、大豆の利用で最も多いのは搾油用です(約85%)。大豆油については4章植物油を参照してください。大豆油は食用やバイオ燃料などとして利用されています。搾油後の大豆粕(大豆ミールsoybean meal)はタンパク質が豊富で、主に家畜の飼料となります。

 大豆には糖質成分としてスタキオース(ガラクトース2分子、グルコース1分子、フルクトース1分子からなる四糖)ならびにラフィノース(ガラクトース1分子、グルコース1分子、フルクトース1分子からなる三糖)という「大豆オリゴ糖」が含まれています。オリゴ糖とは2〜10個くらいの単糖から構成される糖質の総称です。大豆オリゴ糖は胃や小腸で消化吸収されることなく大腸に達し、善玉菌であるビフィズス菌の増殖を促して整腸作用を示します(9章畜産物「乳と乳製品⑪プロバイオティクスとプレバイオティクス」を参照)。

 大豆に含まれるダイゼイン、ゲニステイン、グリシテインならびにそれらの配糖体であるダイズイン、ゲニスチン、グリシチンなどのイソフラボン(フラボノイドの一種)は「大豆イソフラボン」と総称され、女性ホルモンのエストロゲン様作用があるため更年期障害の改善に効果があるといわれています。また、骨のカルシウムの溶出(専門的には骨吸収といいます)を抑える働きがあるため、骨の健康維持に効果があります。

 納豆は大豆を枯草菌(学名:Bacillus subtilis)の一種である納豆菌(学名:B. subtilis var. natto)により発酵させた食品です。納豆菌は稲わらに多く生息しています。納豆は平安時代から食べられている日本の伝統食品です。納豆に特有のネバネバの主成分は納豆菌により生成されるポリグルタミン酸(グルタミン酸というアミノ酸が重合したポリペプチドの一種)で、この物質にはカルシウムの吸収を促進する作用があります。

 納豆には納豆菌により産生されるビタミンK2(血液凝固の促進に必要なビタミンKの一種でメナキノンともよばれます)が豊富に含まれており、このビタミンはカルシウムが骨になるのを助けるオステオカルシンの働きを高め、骨形成を促進する作用が認められています。ワルファリンは心筋梗塞や脳梗塞などの血栓塞栓症の治療・予防に用いられる経口抗凝固剤ですが、その薬効はビタミンKによる血液凝固を抑制することにより発現するため、ワルファリン服用時は納豆を避けることが望ましいとされています。

表3-2 豆類の成分(g/可食部100g)

ラッカセイ

 ラッカセイ(落花生、別名:南京豆、ピーナッツ、英名:peanut、学名:Arachis hypogaea)はラッカセイ属(Arachis)の植物で、南米アンデス山脈の東麓が原産と考えられています。日本には東アジア経由で1706年に伝来し、南京豆とよばれましたが、あまり普及しなかったようです。明治政府が1874年にアメリカから種子を導入し奨励してから、本格的に栽培されるようになりました。

 ラッカセイは花が咲いて受精後、子房柄とよばれる1本の蔓が伸びて地面にもぐり、その先の部分が膨らんで果実となり地中で成熟します(これを地下結実といいます)。そのような様子から落花生と名付けられたようです。

 ラッカセイはダイズに次いで世界で2番目に多く生産されている豆類です(表3-1)。落花生には多くの脂質(47.5%)が含まれているので(表3-2)、ピーナッツ油が採取されます。ピーナッツ油は世界で6番目に多く生産されている植物油です(4章植物油「表4-1」を参照)。

 落花生は消費者庁により加工食品への表示が義務付けられているアレルギー物質の1つです(2章穀類「食物アレルギー」を参照)。

アズキ

 アズキ(小豆、英名:azuki bean、学名:Vigna angularis)はササゲ属(Vigna)の植物で、日本を含む東アジアが原産と考えられており、ヤブツルアズキ(V. angularis var. nipponensis)が祖先野生種と考えられています。滋賀県の粟津湖底遺跡からは紀元前4,000年頃(縄文前期)の小豆種子が出土しています。

 小豆には赤小豆のほかに白小豆や黒小豆があります。小豆は餡(アン)にして、饅頭や最中(モナカ)、どら焼きなどのお菓子に使われます。

 2016年における日本全国の小豆生産量は29,500トンであり、その内の約92%を北海道が占めています。

ササゲ

 ササゲ(大角豆、英名:cowpea、学名:Vigna unguiculata)はアズキと同じササゲ属(Vigna)の植物で、アフリカ原産です。日本には中国を経て渡来し、平安時代には栽培されていたようです。

 金時ササゲや十六ササゲ、三尺ササゲなどの品種があります。金時ササゲは赤飯に使われます。十六ササゲは莢(サヤ)の長さが3050cmほどになり、その中に種子が16個入っていることが名前の由来です。三尺ササゲは莢が60cmにもなります。

 アズキは煮ると皮が破れやすいのですが、ササゲは煮ても皮が破れないのが特徴です。若い実は野菜として莢ごと食べることができ、和え物や炒め物、お浸し、天ぷらなどに料理されます。

インゲンマメ

 インゲンマメ(隠元豆、英名:common bean、学名:Phaseolus vulgaris)はメソアメリカ原産のインゲンマメ属(Phaseolus)の植物で、コロンブスの航海によりヨーロッパに持ち込まれました。16世紀末にヨーロッパから中国に伝わり、日本には1654年に明から帰化した隠元禅師が持ち込んだといわれています(そのため隠元豆とよばれるようになったと伝えられています)。世界のインゲンマメ生産量はダイズ、ラッカセイに次いで3番目です(表3-1)。2015年における日本の生産量は25,500トンであり、北海道が約97%を占めています。

 白色系の白インゲンには大福豆(オオフクマメ)や手亡(テボウ)、白金時豆などがあり、赤色系の赤インゲンには金時豆があります。また、斑紋入りには、うずら豆と虎豆があります。

 インゲンマメにはフィトヘマグルチニン(phytohaemagglutinin: PHA)というタンパク質が含まれています。生あるいは加熱不十分のインゲンマメを食べると、PHAは激しいおう吐や下痢といった食中毒を引き起こします(インゲンマメ中毒、金時豆中毒などとよばれています)。PHAは十分な加熱により変性して無毒になるので、十分加熱した豆を食べるようにしましょう。

 インゲンマメには若い莢を食べる軟莢種(ナンキョウシュ)と成熟した種子を食べる硬莢種(コウキョウシュ)があります。サヤインゲンは軟莢種であり、野菜として天ぷらや胡麻和え、炒め物、サラダなどにして食べます。完熟したインゲンマメは煮豆や甘納豆、きんとんなどにして食べます。

ヒヨコマメ

 ヒヨコマメ(雛豆、英名:chickpea、学名:Cicer arietinum)はヒヨコマメ属(Cicer)のCicer reticulantumを野生原種とする植物で、原産地は西アジアのトルコ南東部辺りと考えられています。「肥沃な三日月地帯」を中心に紀元前5,000年頃から栽培され、その後地中海沿岸一帯やパキスタン、インドなどに伝播しました。現在、ヒヨコマメの生産量はインドが最も多く、世界の生産量の約72%を占めています。日本では殆ど生産されていません。

 種子がヒヨコの頭のような形をしていることからヒヨコマメと名付けられたといわれています。品種としては、豆粒の大きさが1013mmくらいで、種皮の色が乳白色をしたカブリkabuli種や7〜10mmくらいの大きさで、褐色のデシdesi種などがあります。

エンドウ

 エンドウ(豌豆、英名:pea、学名:Pisum sativum)はエンドウ属(Pisum)の植物で、中央アジアから中近東、地中海沿岸にかけての地域が原産地といわれています。原種はPisum humileと推定されています。古代ギリシャ・ローマ時代から栽培されており、日本には7〜8世紀頃に中国から渡来したようです。メンデルがエンドウを実験材料として用いて遺伝の法則を発見したことは有名です。

 エンドウには莢の硬い硬莢種と莢の柔らかい軟莢種があります。硬莢種は完熟して乾燥した豆を利用します。硬莢種の青エンドウはうぐいす豆(甘く煮込んだもの)やうぐいす餡、赤エンドウは煮豆やみつ豆などとして食べられます。

 サヤエンドウは軟莢種の未熟な莢を野菜として食べるもので、日本では江戸時代になってから栽培されるようになりました。スナップエンドウsnap peaはアメリカで開発された軟莢種の品種で、豆が大きく成熟しても莢が柔らかいため莢と豆の両方を食べることができます。サヤエンドウの莢は比較的薄いのですが、スナップエンドウの莢は肉厚でサクサクとしており、甘味があります。グリーンピースは完熟直前の種実を利用するものです。

キマメ

 キマメ(樹豆、英名:pigeon pea、学名:Cajanus cajan)はキマメ属(Cajanus)のCajanus cajanifoliaを野生原種とする植物であり、インドが原産地(紀元前1,500年頃栽培化)であると考えられています。世界の生産量の約90%をインドが占めています。

レンズマメ

 レンズマメ(別名:ヒラマメ、英名:lentil、学名:Lens culinaris)はヒラマメ属(Lens)の植物で、西アジア原産と考えられています。

 豆の直径は4〜8mm、厚さは2〜3mmであり、扁平な形をしています。光を屈折させるレンズの語源はレンズマメであり、当初作られた凸レンズの形状がレンズマメに似ていたことによります。

ソラマメ

 ソラマメ(空豆または蚕豆、英名:broad beanまたはfava bean、学名:Vicia faba)はソラマメ属(Vicia)の植物で、西アジアから北アフリカ、地中海沿岸が原産と考えられています。古代エジプトでは紀元前2,000年頃から栽培されていたようです。その後東方に伝播し、中国には2,000年程前に、日本には8世紀頃伝えられたといわれています。

 ソラマメ(空豆)の名は莢が空に向かってつくことによるといわれています。また、漢字で蚕豆と書くのは、莢が蚕に似ているから、あるいは、莢の内側が蚕のまゆに似ているからといわれています。

 莢の長さは15cmほどで、3cmくらいの豆が2〜4個ほど入っています。完熟前の豆は野菜として茹でたり、焼いたり、炒めたり、煮たりなどして食べます。また、完熟して乾燥した豆は煎り豆菓子や甘納豆、お多福豆(煮豆)などに加工されます。

ルーピンマメ

 ルピナス(別名:ルーピン、英名:lupineまたはlupin)はルピナス属(Lupinus)の植物の総称で、南ヨーロッパや南北アメリカなどに200種以上が分布しています。ルピナスの花は藤の花を逆さに立てたように下から上に咲くため「昇り藤」ともよばれています。一般的には園芸植物として栽培されており、栽培種としては次のようなものがあります。

  • 黄花ルピナス(Lupinus luteus):南ヨーロッパ原産
  • 傘咲きルピナス(Lupinus hirsutus):南ヨーロッパ原産
  • ラッセルルピナス(Lupinus polyphyllum):アメリカ北西部原産
  • アルボレウスルピナス(Lupinus arboreus):カリフォルニア原産
  • テキサスルピナス(Lupinus texensis):テキサス原産。テキサス州の州花テキサスブルーボネットTexas bluebonnetともよばれています
  • 白花ルピナス(Lupinus albus):地中海地方原産
  • 青花ルピナス(Lupinus angustifolius):南ヨーロッパ、北アフリカ、西アジア原産

 ルーピンマメはルピナスの種子で食用に利用されますが、ピペリジンアルカロイドやキノリジジンアルカロイドという毒性成分を含んでいるため注意が必要です。中毒症状として、かすみ目や頭痛、倦怠感、歩行困難などが見られます。アルカロイド含量の多い苦味種と比較的少ない甘味種がありますが、調理前に豆を数日間水に漬けて毒性成分を除くなどの処理が必要です。

参考文献

USDA FAS Oilseeds: World Markets and Trade 2018

FAOSTAT Production Crops 2016

文部科学省 「日本食品標準成分表 2015年版(七訂)」
(http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365297.htm)

文部科学省 「日本食品標準成分表 2015年版(七訂) 炭水化物成分表編」
http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365452.htm

厚生労働省 「自然毒のリスクプロファイル」
(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/poison/index.html)

林原亜樹ら 「白インゲン豆による食中毒に伴うレクチン活性の分析事例」 福岡市保健環境研究所報 32:101-104, 2007