枕石漱流

6章 果物

目次

はじめに/ ビタミンCと壊血病/ ビタミンの発見/ 果実的野菜①メロン②スイカ③バナナ④パイナップル/ バラ目の果物①イチゴ②ラズベリー・ブラックベリー③モモ④スモモ⑤プルーン⑥アンズ⑦ウメ⑧サクランボ⑨ナシ⑩リンゴ⑪ビワ⑫イチジク/ バラ科果物の青酸配糖体/ ムクロジ目の果物①マンダリン②ポメロ③シトロン④パペダ⑤キンカン⑥イヨカン・シラヌイ⑦オレンジ⑧グレープフルーツ⑨レモン⑩ライム⑪ベルガモット⑫ユズ・スダチ・カボス⑬ライチー⑭マンゴー/ 柑橘類に特有の成分/ ツツジ目の果物①カキ②ブルーベリー③ビルベリー④ハックルベリー⑤クランベリー⑥キウイフルーツ/ ブドウ/ スグリ/ パパイア/ アボカド/ 参考文献

はじめに

 5章野菜「野菜の分類」のところで説明したように、果物は木本性永年作物である果樹の果実のことで、フルーツともよばれます。果樹は落葉性果樹、常緑性果樹ならびに熱帯果樹に大きく分けられます。落葉性果樹にはナシ、リンゴ、サクランボ、モモ、イチジク、カキ、キウイフルーツ、ブドウ、ブルーベリーなどが含まれます。常緑性果樹としては、いわゆる柑橘類とよばれるミカン科のミカン、ユズ、スダチ、レモン、ライム、オレンジ、グレープフルーツ、キンカンなどがよく知られています。熱帯果樹は熱帯から亜熱帯に分布する常緑性の果樹で、その実はトロピカルフルーツとよばれます。日本ではマンゴー、パパイア、アボカド、ライチーなどがよく食べられています。

 メロンやスイカ、バナナ、パイナップル、イチゴなどは草本性植物で野菜に分類されますが、果物のように食べられる果実的野菜ですので、本章で果物として解説します。

 果実には、子房が発達してできる真果true fruitと花托や花軸など子房以外の部分が発達してできる偽果false fruitがあります。真果にはモモやウメ、サクランボ、カキなどが含まれ、偽果にはナシやリンゴ、イチゴ、イチジクなどが含まれます。

 果物や果実的野菜の特徴は何といってもその甘みの強さとビタミンCの豊富さです。甘みはショ糖やブドウ糖、果糖によります。ブドウ以外のフルーツや果実的野菜を原料にして造られる醸造酒はフルーツワインとよばれ、ハスカップ、ヨウナシ、モモ、リンゴ、ザクロ、サクランボ、イチゴ、メロンなどから独特の風味をもつワインが造られています。ビタミンCは後述するように、壊血病を予防する非常に重要なビタミンです。柑橘類などの酸味はビタミンCによるものではなく、クエン酸やリンゴ酸などの有機酸によると考えられています。

 2019年における世界の全果物の総生産量は8億8,342万トンであり、種類別ランキングは1位バナナ、2位スイカ、3位リンゴ、4位オレンジ、5位ブドウなどとなっています(表6-1)。

表6-1 世界の主な果物の生産量(2019年)

ビタミンCと壊血病

 ビタミンCはほとんどの動物では体内でグルコースから新規合成できるため、食餌から摂取する必要はありません。しかしながら、私たちヒトを含む霊長類は6,000万年ほど前にビタミンC合成経路の最終段階を触媒する酵素L-グロノラクトンオキシダーゼを欠損したため、ビタミンCを体内で生合成することができません。霊長類のほかに、モルモット(テンジクネズミともよばれます)やコウモリも体内でビタミンCを合成できないことが知られています。そのため食物から必要量を摂取する必要があります。厚生労働省が推奨する成人の1日当たりの摂取量は100mgです。ビタミンCは野菜や果物に豊富に含まれているため、欠乏症になることはほとんどありません。ビタミンCを比較的多く含む野菜と果物を表6-2に示しますので参考にしてください。

 15世紀半ばから17世紀半ばまで続いた大航海時代において、長期間の船旅で新鮮な野菜や果物が不足することにより多くの船員が壊血病に罹り命を落としました。壊血病とは皮膚や粘膜、歯肉の出血、歯の脱落などが起こり、全身が衰弱し、立つこともできなくなる病気です。ポルトガルからアフリカ大陸南端を回り、モザンビーク海峡を通りインドへの航路を開拓したヴァスコ・ダ・ガマの艦隊(1497年〜1499年)や、スペインから南アメリカ大陸南端を回り、太平洋・インド洋を航海して史上初めて世界一周を達成したフェルディナンド・マゼランの艦隊(1519年〜1522年。マゼランは航海の途中1521年にフィリピンで戦死しました)の船員の多くが航海途中で壊血病により死亡したと伝えられています。

 現在、この病気はビタミンC欠乏により起こることが分かっています。皮膚や骨、腱、軟骨、歯などの主要な構成成分であるコラーゲンは私たちの体の総タンパク質の3分の1以上を占めています。コラーゲンを構成するプロリンやリシンというアミノ酸がビタミンC存在下で酵素的にヒドロキシ化(水酸化ともいい、ヒドロキシ基−OHを導入することです)されヒドロキシプロリンやヒドロキシリシンになることにより、水に不溶性で強度の高いコラーゲン繊維が合成されます。これにはプロリンヒドロキシラーゼとリシンヒドロキシラーゼという非へム鉄を含む酵素が関与します。非へム鉄とはヘム以外の状態でタンパク質に結合している鉄のことです(生体内の鉄は主にヘム鉄と非へム鉄の状態でタンパク質に結合して存在しており、前者はヘモグロビンやミオグロビンなどに存在し、後者は前述したプロリンヒドロキシラーゼやリシンヒドロキシラーゼなどに存在しています。9章畜産物「肉類の鉄分」を参照してください)。これらの酵素によるヒドロキシ化反応において、酵素に結合している2価鉄は3価鉄の状態となり、酵素は活性がなくなります。そこで、これらのヒドロキシラーゼの3価鉄はビタミンCにより還元されて2価鉄にもどり、酵素活性が回復するのです。ビタミンCが欠乏するとヒドロキシラーゼの3価鉄を還元することができないため丈夫なコラーゲンを作ることができず、壊血病になるわけです。壊血病は英語でscurvyといい、「壊血病患者」あるいは「壊血病の」はscorbuticといいます。ビタミンCはアスコルビン酸ascorbic acidともよばれますが、これは抗壊血病効果をもつ酸anti-scorbutic acidに由来します。

 スコットランドの医師ジェームズ・リンドは1753年に「壊血病は新鮮な野菜や熟した果物により予防できる」ことを提示し、水兵の食餌にはレモンやライムなどの果物、あるいはザワークラウト(キャベツの漬物)が添えられるようになり、壊血病を予防することができるようになりました。1768年〜1771年にかけて大西洋、太平洋、インド洋を航海したイギリスのジェームズ・クック(通称:キャプテン・クック)は船員に柑橘類やザワークラウトを食べさせることにより、ただの一人も壊血病で失わなかったといわれています。当時はレモンやライム、キャベツに含まれるどのような物質が壊血病の予防に有効であるかは明らかではありませんでしたが、1932年にビタミンCが有効成分であることが判明しました。

表6-2 野菜・果物の可食部100g当たりのビタミンC含量

ビタミンの発見

 古くからビタミン欠乏症として脚気や壊血病などが知られていますが、実際にどのような化学物質(ビタミン)が欠乏してこのような病気を引き起こすかが明らかにされたのは20世紀になってからです。ビタミンは糖質、脂質、タンパク質、無機質(ミネラル)と並び、五大栄養素の1つです。

 最初のビタミンの発見は脚気の研究から生まれました。脚気とは心不全や末梢神経障害をきたす疾患であり、心不全による下肢のむくみ、神経障害による下肢のしびれなどが起こります。日本では、平安時代以降に玄米を精白した白米を食べていた京都の皇族や貴族などを中心に脚気が発生していたようです。江戸時代になると一般の武士や町民も白米を食べるようになり、脚気はさらに広がったといわれています。

 1890年代にインドネシアのジャワで診療にあたっていたオランダの医師クリスティアーン・エイクマンは、実験的にニワトリに白米を食べさせると脚気の症状が現れることに気付きました。彼は抗神経炎的な物質の抽出について初期の研究を行い、これが米糠には存在するが、白米には存在しないことを見出しました。1910年に日本の農芸化学者鈴木梅太郎は脚気に効く成分を米糠から抽出しオリザニンと命名しましたが、純粋なものではなかったようです(純粋に単離されたのは1931年とされています)。時を同じくして、1911年にポーランドの生化学者カシミール・フンクも米糠に含まれる抗脚気因子を抽出することに成功しました。彼はその因子にアミンの性質があることを認め、バイタル・アミン(vital amineすなわち生命維持に必要なアミン)から「ビタミンvitamine」と名付けました。これは現在ビタミンB1(別名:チアミン)とよばれています。

 1920年にイギリスの化学者ジャック・ドラモンドは柑橘系果物から抗壊血病因子(ビタミンC)を抽出するのに成功しました。ビタミンCにはアミンの性質はなかったため、彼はビタミンの英語の綴りはvitamineの語尾のeを省いてvitaminとすることを提唱し、これが受け入れられました。1927年にハンガリーの生化学者セント-ジェルジ・アルベルト(ハンガリー語では名前は日本語と同様に姓名の順で標記します)は、ウシの副腎(アドレナリン合成に必要なビタミンCが豊富に含まれています)から還元性物質ヘキスロ酸を単離・結晶化しました。その後ハンガリー特産のパプリカ(5章野菜「ナス科の野菜③トウガラシ・ピーマン・パプリカ」を参照)から大量のヘキスロ酸を精製し、1932年これがビタミンCであることを明らかにしました。翌年の1933年にイギリスの化学者ウォルター・ハースによりビタミンCの構造式が決定され、これにより大航海時代より人々を苦しめてきた壊血病を防ぐ化学物質の正体が解明されたのです。

 現在ヒトのビタミンとして、水溶性のもの9種(ビタミンB1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸、ビタミンC)と脂溶性のもの4種(ビタミンA、D、E、K)の合計13種が認められています。

果実的野菜

 果実的野菜とよばれ、果物に含まれるものには、表6-3に示すメロンやスイカ、バナナ、パイナップル、イチゴなどがあります。以下にこれらの果物について詳しく述べますが、イチゴについては次の「バラ目の果物」のところで解説します。

①メロン

 メロン(甜瓜、英名:melon、学名:Cucumis melo)はウリ目ウリ科キュウリ属(Cucumis)の植物で、原産地は最近のゲノム解析により、インドであることが明らかにされています。インドから西方に伝わったものをメロン、東方に伝わったものをウリ(瓜)とよんでいます。マクワウリ(真桑瓜、英名:oriental melon、学名:Cucumis melo var. makuwa)はそのようなウリの一種で、その名は美濃国(かつての令制国の1つ)真桑村(現在の岐阜県本巣市)で栽培されていたことによります。マクワウリの栽培の歴史は古く、弥生時代の遺跡から炭化した種子がたくさん発掘されています。

 西洋系メロンは古代エジプトやギリシャで栽培されていたものがヨーロッパに伝播し、長い年月をかけて品種改良され、現在の甘味に富み、果肉が蕩けるようなメロンが誕生しました。メロンの甘味はショ糖(6.7%)、果糖(1.3%)、ブドウ糖(1.2%)によります(表6-4)。代表的な西洋系メロンとして、アールスやハネデュー、カンタロープ、シャランテなどがあります。

 西洋系メロンは明治時代以降日本に入ってきましたが、高級品であり、一般庶民の口にはなかなか入りませんでした。1961年(昭和36年)にマクワウリ系ニューメロンと西洋系シャランテメロンを交配して開発されたプリンスメロンは日本における大衆メロンの先駆けとなりました。その後、品種改良により様々なメロンが誕生しています。夕張メロンはスパイシーカンタロープとアールスフェボリットを交配して作られた高級メロンです。夕張メロンは商標名であり、品種名は夕張キングメロンです。ホームランメロンは熊本県で白肉のハネデューメロンと緑肉ハネデューメロンを交配して誕生した品種です。アンデスメロンはアンデス山脈とは全く関係なく、「安心して作れる」、「安心して売れる」、「安心して食べられる」の3つの「安心ですメロン」からアンデスメロンと命名されたようです。

 メロンは果肉の色から赤肉系(夕張メロン、クインシーメロンなど)、青肉系(アールスメロン、プリンスメロン、アンデスメロンなど)、白肉系(ハネデューメロン、ホームランメロンなど)の3つに分類されます。赤肉系はβ-カロテンを豊富に含むため(可食部100g当たり3,600μg)、果肉はオレンジ色を呈します。青肉系はクロロフィルにより緑色を呈します(β-カロテンは可食部100g当たり140μgと少ない)。白肉系はβ-カロテンもクロロフィルも少ないため白く見えます。

 2019年における世界のメロン生産量は2,750万トンであり(表6-1)、国別では中国が世界シェア49.0%を占め断トツです。2位以下はトルコ(6.5%)、インド(4.6%)、カザフスタン(3.8%)、イラン(3.1%)、エジプト(2.7%)、アメリカ(2.6%)などとなっています。

 2019年における日本のメロン生産量は156,000トンであり、主な産地は茨城県(24.1%)、熊本県(15.6%)、北海道(15.0%)、山形県(7.2%)、青森県(6.8%)、愛知県(5.9%)などです。

②スイカ

 スイカ(西瓜、英名:watermelon、学名:Citrullus lanatus)はウリ目ウリ科スイカ属(Citrullus)の植物です。南アフリカのカラハリ砂漠周辺が原産地といわれており、原産地のスイカはカラハリスイカとよばれています。紀元前5,000年頃から原産地周辺で栽培化され、紀元前2,000年頃には古代エジプトに伝わり、栽培されていたようです。その後、ギリシャ、ローマなどの地中海沿岸や西アジア、インド、中央アジアなどに伝播しました。中国には11世紀頃中央アジアから伝わり、西方から渡来した瓜ということで西瓜とよばれるようになったということです。鳥羽僧正により12世紀中頃に描かれたとされる日本最古の漫画「鳥獣戯画」にスイカらしきものをもったウサギの描写がありますので、平安時代には日本に渡来していたかも知れません。

 栽培化初期のスイカには甘味がほとんどなく、水分摂取ならびに種子を食用にするために利用されていました。長い年月をかけた品種改良を重ねて現在のような甘いスイカが誕生しました。スイカの甘味は果糖(4.1%)、ブドウ糖(1.9%)、ショ糖(1.5%)によります(表6-4)。

 メロンは甘く熟した果皮の部分を果肉として食べますが、スイカの果皮は殆ど甘くならないので、種子をつける胎座という甘い部分を果肉として食べます。果皮の部分は外側の薄い皮を除いて、漬物や煮物などに使うことができます。

 スイカの果肉の色はリコペンやβ-カロテン、キサントフィル類などのカロテノイド色素に起因します。赤肉系の品種には主にリコペンが含まれ、黄肉系の品種には主にキサントフィル類が含まれています。市場に出回っているスイカの殆どは赤肉系です。

 スイカは22本の染色体をもつ二倍体(2n=22)ですが、発芽後にコルヒチンという薬剤で処理すると染色体が44本の四倍体ができます。四倍体のめしべに二倍体の花粉を授粉させると三倍体の種子ができます。この三倍体の種子を栽培すると結実しますが、種子ができません。種なしスイカは、後述するバナナが三倍体で種子ができないことをヒントにして日本の遺伝学者木原均により開発されました。

 2019年における世界のスイカ生産量は1億42万トンであり、果物の中でバナナに次いで第2位です(表6-1)。国別では中国が60.4%の世界シェアで断トツです。2位以下はトルコ(3.9%)、インド(2.5%)、ブラジル(2.3%)、アルジェリア(2.2%)、イラン(1.9%)、ロシア(1.8%)、アメリカ(1.7%)、エジプト(1.6%)、メキシコ(1.3%)などとなっています。

 2019年における日本のスイカ生産量は324,200トンであり、主な産地は熊本県(16.1%)、千葉県(12.0%)、山形県(9.6%)、鳥取県(5.5%)、新潟県(5.3%)、長野県(5.3%)、茨城県(4.7%)などです。

③バナナ

 バナナ(甘蕉、実芭蕉、英名:banana)はショウガ目バショウ科バショウ属(Musa)の多年草で、果実を食用とする種の総称です。バナナは草本性で、果実的野菜に分類されます。バナナの原種は東南アジア原産のマレーヤマバショウ(学名:Musa acuminataAAゲノムの二倍体、2n=22)と南アジア東部から東南アジア北部ならびに中国南部にかけての地域を原産とするリュウキュウバショウ(学名:Musa balbisianaBBゲノムの二倍体、2n=22)の2種です。両種の果実には多くのアズキ大の種子ができ、食用にはされません。これらの種がもとになって同質三倍体(AAABBB)や異質三倍体(AABとABB)という種子のできない食用のバナナが誕生しました。マレーヤマバショウとリュウキュウバショウの交雑種の学名はMusa x paradisiacaとされています。種なしバナナは、地下にある塊茎(根茎)から新しい吸芽が発芽しますので、それを移植して増やすことができます。

 バナナは紀元前10,000年〜5,000年頃には栽培化されていたといわれています。バナナはマレー半島からミャンマー、インドに伝播し、紀元前2,000年頃には海を渡って東アフリカに到達していたと考えられています。その後、アフリカ大陸を横断して15世紀頃に西アフリカに達し、カナリア諸島から16世紀頃に大西洋を渡り、西インド諸島に伝わり、そこから中南米に伝播していきました。

 バナナの品種は数百種類あるといわれており、生食用と調理用に分けられます。生食用バナナにはキャベンディッシュやラカタン、セニョリータ(モンキーバナナ)、モラード、ラツンダンなどの品種があり、主にデザートとして利用されます。生食用バナナは未熟な段階ではデンプンが多く(20%程度)、甘味は弱いのですが、熟成するとデンプンが減り(約3%)、ショ糖(10.5%)やブドウ糖(2.6%)、果糖(2.4%)が生成されるので強い甘味を感じます(表6-4)。

 調理用バナナcooking bananaはプランテンplantainともよばれ、ツンドクやカルダバ、リンキッド、サバなどの品種があります。プランテンは生食用バナナに比べてイモのように固く、デンプンが多く甘くないので、蒸したり、茹でたり、焼いたり、炒めたり、揚げたりして主食として利用されます。

 バナナは温暖・湿潤な気候を好み、赤道をはさんだ北緯30度から南緯30度までの「バナナベルト」地帯で主に栽培されています。2019年における世界の生食用バナナ生産量は1億1,678万トンであり、果物の中で第1位です(表6-1)。主要な生産国はインド(シェア:26.1%)、中国(10.0%)、インドネシア(6.2%)、ブラジル(5.8%)、エクアドル(5.6%)、フィリピン(5.2%)、グアテマラ(3.7%)、アンゴラ(3.5%)、タンザニア(2.9%)などです。

 バナナは日本においても沖縄県と鹿児島県で生産されており、2018年の生産量は114トンです(内訳、沖縄県:75.1%、鹿児島県:24.9%)。2020年に107万トンのバナナが日本に輸入されており、主な輸入先はフィリピン(75%)やエクアドル(13%)、メキシコ(7%)などです。

 2019年における世界のプランテン生産量は4,354万トンであり(表6-1)、主な生産国はウガンダ(19.1%)、コンゴ民主共和国(11.2%)、ガーナ(11.0%)、カメルーン(10.3%)、フィリピン(7.14%)、ナイジェリア(7.09%)、コロンビア(5.0%)、コートジボワール(4.3%)、ミャンマー(3.1%)、ドミニカ共和国(2.4%)などです。

④パイナップル

 パイナップル(英名:pineapple、学名:Ananas comosus)は南米熱帯地域原産のイネ目パイナップル科アナナス属(Ananas)の多年草で、果実を食用にします。地上の茎から新しい吸芽が発芽しますので、それを移植して増やすことができます。16世紀始めに西インド諸島からスペインにもたらされ、その後当時発見されたインド航路(前述した「ビタミンCと壊血病」を参照)により、アフリカやアジアに伝播しました。

 パイナップルは花軸上の多数の花が成熟・集合して1つの果実を形成するクワ状果で、多花果の一種です。子房以外の花被や花軸が発達して形成されるので、偽果の一種でもあります。

 生のパイナップルにはシュウ酸カルシウムの針状結晶やブロメラインbromelain(名前はパイナップル科Bromeliaceaeに由来)というタンパク質分解酵素が含まれているので、食べ過ぎると口内が荒れたり、出血したりすることがあるので注意しましょう。生肉を生のパイナップルで処理すると、ブロメラインの作用で肉を柔らかくする効果がありますが、この酵素は60℃以上で加熱すると活性がなくなるので、加熱処理してある缶詰のパイナップルにはこの効果は期待できません。

 糖分はショ糖(7.7%)が最も多く含まれ、ブドウ糖は1.4%、果糖は1.8%です(表6-4)。

 パイナップルは中南米やアジア、アフリカの熱帯・亜熱帯地域で栽培されており、2019年の世界における生産量は2,818万トンです(表6-1)。主要な生産国はコスタリカ(シェア:11.8%)、フィリピン(9.8%)、ブラジル(8.6%)、インドネシア(7.8%)、中国(6.13%)、インド(6.07%)、タイ(5.96%)、ナイジェリア(5.9%)などです。

 日本においてはパイナップルのほとんどは沖縄県で生産されており、2020年の生産量は7,390トンです。2020年における日本のパイナップル輸入量は157,000トンであり、そのほとんど(97.4%)はフィリピンから輸入されています。

表6-3 果実的野菜
表6-4 果物の糖含量(g/可食部100g)

バラ目の果物

 バラ目の果物には、表6-5に示すようにバラ科のイチゴ、ラズベリー、モモ、スモモ、アンズ、サクランボ、ナシ、リンゴ、ビワ、クワ科のイチジクなど多くのものがあります。

①イチゴ

 イチゴ(苺、英名:strawberry)は一般的にはバラ科オランダイチゴ属(Fragaria)の多年草の栽培種であるオランダイチゴ(学名:Fragaria x ananassa)の果実を指します。イチゴは草本性植物ですので果実的野菜に分類されます。オランダイチゴは北米原産のバージニアイチゴ(Fragaria virginiana)とチリ原産のチリイチゴ(F. chiloensis)の交雑により18世紀にオランダで開発されました。学名の中のxは交雑種であることを意味します。日本には江戸時代にオランダ人により持ち込まれましたが、本格的に栽培されるようになったのは明治以降のようです。

 イチゴの食用部分は花托(花床)とよばれる花びらや雄しべ、雌しべ、萼(ガク)などがつく部分が特に発達し、ふくらんだものです。イチゴの1個の花には100以上の雌しべがついており、雌しべが受粉し、子房が発達してできる実際の果実は花托の表面にたくさん付いているゴマのようなものです。イチゴのように花托が大きくふくらんでできる果実は偽果の一種で、イチゴ状果といいます。

 イチゴにはビタミンCが多く(可食部100g当たり62mg)含まれています(表6-2)。糖分含量は5.9%(ブドウ糖:1.6%、果糖:1.8%、ショ糖:2.5%)で、それほど多くはありません(表6-4)。

 2019年における世界のイチゴ生産量は889万トンであり(表6-1)、主要な生産国は中国(シェア:36.2%)、アメリカ(11.5%)、メキシコ(9.7%)、トルコ(5.5%)、エジプト(5.2%)、スペイン(4.0%)などです。

 日本で開発されたイチゴの品種には、とちおとめ、あまおう、ひのしずく、紅ほっぺ、さちのか、さがほのかなど多数あり、糖度の高いものも開発されています。2019年の日本におけるイチゴ生産量は165,200トンであり、主な産地は栃木県(15.4%)、福岡県(10.1%)、熊本県(7.6%)、長崎県(6.7%)、静岡県(6.4%)、愛知県(6.1%)、茨城県(5.6%)などです。

②ラズベリー・ブラックベリー

 バラ科キイチゴ属(Rubus)は13亜属subgenusに分けられ、その内のIdaeobatus亜属に属するものをラズベリーraspberryRubus亜属に属するものをブラックベリーblackberryと総称しています。キイチゴ属の果実はキイチゴ状果とよばれ、1つの花にある複数の雌しべに由来する小核果drupelet(後述するスモモ属の核果の小型のもの)の集まった集合果です。イチゴ状果と異なり花托は発達していません。ラズベリーとブラックベリーの違いは、前者の小核果は有毛で、花托から簡単に離れますが、後者の小核果は無毛で艶があり、花托に密着している点です。

 ラズベリーの代表的な種には小アジア(アナトリア)原産のヨーロッパキイチゴ(英名:European raspberry、学名:Rubus idaeus subsp. idaeus)、北アメリカ原産のアメリカイチゴ(別名:アメリカンレッドラズベリー、英名:American raspberryまたはAmerican red raspberry、学名:R. strigosus)やブラックラズベリー(別名:クロミキイチゴ、英名:black raspberry、学名:R. occidentalis)などがあります。日本にもヨーロッパキイチゴの亜種であるエゾイチゴ(R. idaeus subsp. melanolasius)やミヤマウラジロイチゴ(R. idaeus subsp. nipponicus)などが分布しています。

 2019年における世界のラズベリー生産量は822,500トンであり、主要な生産国はロシア(シェア:21.2%)、メキシコ(15.7%)、セルビア(14.6%)、アメリカ(12.5%)、ポーランド(9.2%)、スペイン(7.3%)などです。

 日本における2018年のラズベリー生産量は4.7トンであり、秋田県(51.1%)、山形県(29.8%)、北海道(19.1%)で生産されています。

 ブラックベリーの代表的な種にはヨーロッパ原産のセイヨウヤブイチゴ(西洋薮苺、英名:European blackberry、学名:Rubus fruticosus)や北アメリカ東部原産のアレゲニーブラックベリー(英名:Allegheny blackberry、学名:R. allegheniensis)などがあります。果実の色は成熟するに従い黄緑色→赤紫色→黒紫色に変化し、黒くなったときが食べごろです。

③モモ

 バラ科スモモ属(Prunus)はサクラ属(Cerasus)ともよばれ、モモやアーモンドなどを含むモモ亜属(Amygdalus)、スモモ、プルーン、アンズ、ウメなどを含むスモモ亜属(Prunophora)、サクランボなどを含むオウトウ亜属(Cerasus)など5つの亜属に分類されています。スモモ属の果実は核果drupe(あるいは石果stone fruit)とよばれ、外側から果皮(外果皮)、果肉(中果皮)ならびに内果皮が硬化した堅い核stone(石細胞stone cellからできています)からなり、核の中に種子(仁ともよばれます)があります。アーモンドの果肉は薄く食用にはなりませんが、核の中の種子を食用にします。

 モモ(桃、英名:peach、学名:Prunus persica)は中国原産の落葉小高木です。種小名がpersicaになっているのは、かつてモモの原産地はペルシア地方(現在のイラン)であると考えられていたことによります。モモはシルクロードを通って、中国から西アジアそしてヨーロッパへと伝播していったと考えられています。日本には縄文時代前期には渡来し、長崎県伊木力遺跡から紀元前4,000年頃のモモのタネ(桃核)が出土しています。桃核が見つかっている縄文遺跡は限られていますが、弥生時代後期になるとモモの出土数が飛躍的に増加しています。

 古くから日本で栽培されていたモモは先端が尖った「尖り尻型」でしたが、現在食用にされているものは「丸尻型」がほとんどです。「尖り尻型」は中国北方系の品種で主に天津水蜜桃系のものであり、「丸尻型」は南方系の上海水蜜桃系の品種で、明治時代に輸入され品種改良されたものです。現在日本で栽培されている主要な品種は、あかつき、白鳳、川中島白桃、日川白鳳、清水白桃などです。

 モモの変種にネクタリン(和名:ズバイモモ、英名:nectarine、学名:Prunus persica var. nectarina)というものがあります。原産地は中央アジアのトルキスタン地方で、67世紀頃に誕生したといわれています。日本には明治時代に導入されました。普通のモモには果皮にうぶ毛がありますが、ネクタリンにはうぶ毛がなくツルツルしています。ファンタジアや秀峰、メイグランド、ハルコ、フレーバートップなどの品種があります。

 モモにはショ糖が6.8%と多く含まれています(表6-4)。食物繊維のペクチンが豊富で、整腸作用(便秘改善効果)が期待できます。

 品質の良いモモを生産するために「摘果」という作業が行われています。摘果された未熟なモモ果実は殆どが廃棄されていましたが、近年摘果モモを砂糖漬けや酢漬けなどにした加工品開発が進んでいます。モモの核が生育する前に摘果される摘果モモにはプルナシンという青酸配糖体が含まれており、十分な安全性評価が必要です(後述する「バラ科果物の青酸配糖体」を参照)。

 2019年における世界のモモ・ネクタリン生産量は2,574万トンです(表6-1)。中国が世界シェア61.5%を占め断トツであり、2位以下はスペイン(6.0%)、イタリア(4.8%)、ギリシャ(3.6%)、トルコ(3.2%)、アメリカ(2.9%)、イラン(2.3%)などとなっています。

 日本における2020年のモモ・ネクタリン生産量は9万8,900トンであり、主な産地は山梨県(30.7%)、福島県(23.1%)、長野県(10.4%)、山形県(8.6%)、和歌山県(6.7%)、岡山県などです。

④スモモ

 スモモ(李または酢桃、英名:Japanese plum あるいはAsian plum、学名:Prunus salicina)はスモモ属(Prunus)スモモ亜属(Prunophora)の落葉小高木です。中国原産で、日本には奈良時代に伝わったとされています。スモモの名は、果実の酸味がモモより強いことに由来します。

 果形は円形から卵円形をしており、果皮は紅色や紫色、緑色を呈し、果肉は黄色や赤色をしています。大石早生やソルダム、太陽、貴陽、秋姫、サンタローザなど多くの品種があります。最近では品種改良され、糖度の高いものが出てきています。

⑤プルーン

 プルーンpruneは一般的にはスモモの近縁種であるセイヨウスモモ(英名:European plum、学名:Prunus domestica)のことをいいます。セイヨウスモモはPrunus spinosaPrunus cerasifera var. divaricataの交雑種であるといわれており、学名はPrunus x domesticaと記載されることがあります。原産地はコーカサス地方で、ギリシャ・ローマを経て、ヨーロッパで広く栽培されるようになりました。日本には明治初期に導入されましたが定着せず、長野県を中心に栽培が本格化したのは昭和の後半になってからです。ヨーロッパでは生のスモモをプラム、乾燥したものをプルーンとよぶようです。

 果形は基本的には楕円形で、果皮は赤紫〜青紫色、果肉は黄褐色をしています。品種としてはサンプルーンやシュガー、スタンレイ、くらしまなどがあります。

 現在ドライプルーンの一大産地となっている米国カリフォルニアに、フランスの植木職人ルイ・ペリエがプルーンの苗木を最初に持ち込んだのは1856年のことです。現在カリフォルニアで生産されているプルーンのほとんどはダジャンという品種で、フレンチプルーンと呼称されています。このプルーンは水分18%くらいまで乾燥して出荷されます。

 2019年における世界のスモモ(プルーンを含む)生産量は1,260万トンです(表6-1)。中国が世界シェア55.5%を占め断トツであり、2位以下はルーマニア(5.5%)、セルビア(4.4%)、チリ(3.7%)、イラン(2.8%)、アメリカ(2.7%)、トルコ(2.5%)などとなっています。

 2020年における日本のスモモ生産量は1万6,500トンであり、主な産地は山梨県(32.2%)、長野県(15.2%)、山形県(11.0%)、和歌山県(9.9%)、青森県(5.7%)などです。

⑥アンズ

 アンズ(杏子/杏、別名:唐桃、英名:apricot、学名:Prunus armeniaca)はスモモ属(Prunus)スモモ亜属(Prunophora)の落葉小高木で、中央アジア原産であるといわれています。アンズの果実は熟すと甘味が生じ、果肉が核から離れますが、ウメの果実は完熟しても果肉は甘くならず、果肉と核は離れないという性質があります。果形は円形で、果皮・果肉とも橙色のものが多いです。アンズは果物の中で赤肉系メロン(本章「果実的野菜①メロン」を参照)に次いでβ-カロテンの含有量が高い(可食部100g当たり1,400μg)のが特徴です。

 酸味の強い品種(平和や昭和、山形3号など)は干し杏やジャム、シロップ漬けなどに利用され、酸味が弱く甘味の強い品種(ハーコットやゴールドコット、おひさまコットなど)は生食用に利用されます。青森県で生産される八助という品種(アンズとウメの交雑種といわれ、八助梅ともよばれています)は、梅干しのように加工されて食べられています。

 アンズの核の中の種子すなわち杏仁(キョウニンあるいはアンニン)は漢方薬(鎮咳剤や去痰剤など)として利用されます。中国では杏仁を収穫するために紀元前から栽培されていたようです。日本では遅くとも平安時代には杏仁を収穫するために栽培が行なわれていたと考えられています。杏仁豆腐(アンニンドウフ)は杏仁を粉末状にしたもの(杏仁霜)に甘味料や牛乳などを加え、ゼラチンや寒天で固めたものであり、現在では中国料理の代表的なデザートになっていますが、もともとは薬膳料理として利用されていました。

 2019年における世界のアンズ生産量(後述するウメを含みます)は408万トンであり(表6-1)、主要な生産国はトルコ(シェア:20.7%)、ウズベキスタン(13.1%)、イラン(8.1%)、イタリア(6.7%)、アルジェリア(5.1%)などです。

 日本における2018年のアンズ生産量(ウメを含みません)は1,628トンであり、そのうちのほとんどは青森県(61.6%)と長野県(38.3%)で生産されています。

⑦ウメ

 ウメ(梅、英名:Japanese apricot、学名:Prunus mume)はスモモ属(Prunus)スモモ亜属(Prunophora)の落葉高木であり、原産地は中国中南部の山岳地帯といわれています。弥生時代前期以降の遺跡からウメの自然木の断片やウメのタネ(梅核)が発掘されていますが、縄文遺跡からはウメの遺物は発掘されていないことから、ウメは弥生時代以降に渡来したと考えられています。

 日本最古の歌集である「万葉集」(大伴家持が編纂に携わったと考えられています)に、天平2年正月13日(西暦73028日)に太宰府(福岡県)の大伴旅人(大伴家持の父)の邸宅で催された宴で詠まれた梅花の歌32首が掲載されていますが、その序文に山上憶良の作と思われる「初春の令月にして、気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫す」という一節があります。平成に続く元号令和は、この「初春令月、気淑風和」から考案されました。

 日本で最も多く栽培されている品種は南高で、作付面積の約50%を占めています。その他に白加賀、竜峡小梅、豊後(ブンゴ:ウメとアンズの交雑種)、小粒南高などの品種があります。

 ウメの果実は梅干しや梅酒、梅漬けなどに加工して利用され、日本人には馴染みの深いものです。梅干しには抗菌作用があるといわれていますが、これは梅干しに含まれている有機酸(クエン酸、リンゴ酸、酢酸など)のうち、おもにクエン酸によると考えられています。ウメの青酸配糖体については後述します。

 日本における2021年のウメ生産量は104,600トンです。和歌山県は64.5%のシェアを占め断トツであり、2位以下は群馬県(5.5%)、三重県(1.55%)、神奈川県(1.52%)、福井県(1.51%)、山梨県(1.41%)、奈良県(1.38%)の順になっています。

⑧サクランボ

 サクランボ(別名:桜桃、英名:cherry)はスモモ属オウトウ亜属(Cerasus)のミザクラ(実桜)の果実で、栽培品種の祖先は主にセイヨウミザクラ(Prunus avium)とスミミザクラ(P. cerasus)です。原産地は、セイヨウミザクラがイラン北部からヨーロッパ西部にかけてであり、スミミザクラは西アジアのトルコ辺りとされています。

 セイヨウミザクラが日本に伝えられたのは明治初期です。セイヨウミザクラの果実は甘く(ブドウ糖:7.0%、果糖:5.7%、ショ糖:0.2%、表6-4)、生食に適しています。日本で栽培されているサクランボの品種(佐藤錦、高砂、紅秀峰、ナポレオンなど)のほとんどはセイヨウミザクラです。一方、スミミザクラの果実は酸味が強く生食には不向きであり、主に料理に用いられています。

 2019年における世界のサクランボ生産量は260万トンであり、主要な生産国はトルコ(シェア:25.6%)、アメリカ(12.4%)、チリ(9.0%)、ウズベキスタン(6.8%)、イラン(4.9%)、スペイン(4.5%)などです。

 日本における2021年のサクランボ生産量は13,100トンです。山形県は69.9%のシェアを占め断トツであり、2位以下は北海道(11.5%)、山梨県(7.2%)、秋田県(2.7%)の順になっています。日本は2020年に4,300トンのサクランボを輸入していますが、そのほとんど(92%)はアメリカからです。

⑨ナシ

 ナシ(梨)はバラ科ナシ属(Pyrus)の植物で、おもにニホンナシ(日本梨、別名:和梨、英名:Japanese pear あるいはsand pear、学名:Pyrus pyriforia var. culta)、セイヨウナシ(西洋梨、別名:洋梨、英名:European pear、学名:P. communis var. sativa)、チュウゴクナシ(中国梨、別名:白梨、英名:Chinese white pear、学名:P. ussuriensis var. culta)の3種の果実が食用に利用されています。

 ナシの果実は、子房のまわりを包むように発達した花托が多肉質になったもので、ナシ状果とよばれ、偽果の一種です。

 日本梨は中部以南に自生する野生種ニホンヤマナシ(P. pyriforia var. pyriforia)の栽培品種群であり、ニホンヤマナシのルーツは中国長江流域原産の沙梨(あるいは砂梨)(シャーリー)であろうと考えられています。静岡県の登呂遺跡(紀元12世紀)で梨の種子が発掘されており、梨は遅くとも弥生時代後期には中国から日本に渡来していたと思われます。奈良時代に完成した「日本書紀」には五穀(米、麦、粟、稗、豆)の他に梨や栗などの栽培を奨励する記述があります。梨の栽培が本格化したのは江戸時代に入ってからといわれており、棚栽培が考案され、多くの品種が誕生しました。日本梨の特徴はなんといってもシャリシャリとした食感で、これは細胞壁にペントサンpentosan(アラビノースやキシロースなどの五炭糖すなわちペントースpentoseからなる多糖)やリグニンligninという物質を豊富にもつ石細胞stone cellが果肉に多く含まれているからです。日本梨が英語でsand pearともよばれるのはこのためです。西洋梨には石細胞が少なく、シャリシャリとした食感はありません。中国梨には日本梨と同様にシャリシャリ感があります。日本梨は赤梨と青梨に分類され、赤梨は豊水や幸水、新高(ニイタカ)など果皮が茶色い品種であり、青梨は二十世紀のように果皮が緑色の品種です。2020年における日本梨の生産量は17500トンであり、主な生産地は千葉県(シェア:10.7%)、長野県(8.0%)、茨城県(7.9%)、福島県(7.6%)、栃木県(6.6%)、鳥取県(6.2%)などです。

 ナシには表6-4に示すように糖分として果糖やブドウ糖、ショ糖が含まれていますが、これらの他にソルビトールという糖アルコール(7章甘味料「甘味物質と甘味度②糖アルコール」を参照)が日本梨で1.5%、西洋梨で2.8%と比較的多く含まれています。ソルビトールには便通を整える効果があります。

 西洋梨の原産地は温帯ヨーロッパから西アジアにかけてであり、紀元前1,000年頃には古代ギリシャで栽培されていたようです。その後、ローマ人によりヨーロッパ各地に伝播しました。西洋梨は日本梨と異なり、収穫直後は硬く、甘味もあまり感じられないため、適正な温度管理下で2週間から1ヶ月程度追熟させる必要があります。追熟の間に果肉に含まれているデンプンが分解され、果糖やブドウ糖、ショ糖に変化し甘味が増すとともに、多糖の一種のペクチンが水不溶性から水溶性のものに変化するため、果肉にトロッとした滑らかさがつきます。さらに酢酸ヘキシルや酢酸ブチル、酢酸エチルなどの香気成分が発生し、西洋梨に特有の芳香が生まれます。西洋梨の代表的な品種にはラフランスやバートレット、ルレクチエ、オーロラ、ブランデーワイン、マルゲリットマリーラ、ゼネラルレクラークなどがあります。オーロラ、ラフランス、マルゲリットマリーラは西洋梨の中でも特に香気の強い品種です。

 西洋梨は明治時代初頭に日本に導入されましたが、あまり定着しませんでした。本格的に栽培されるようになったのは昭和時代後期になってからで、山形県を中心に東北地方で主に栽培されています。日本で主に栽培されている品種はラフランス、ルレクチエ、バートレット、オーロラ、ゼネラルレクラークなどです。2020年における日本の西洋梨生産量は2万7,700トンであり、山形県は69.0%のシェアを占め断トツです。第2位は新潟県(7.2%)、第3位は青森県(6.2%)となっています。

 中国梨は中国東北部原産の秋子梨(シュウシリ、英名:Ussurian pear、学名:P. ussuriensis var. ussuriensis)を起源種とし、日本梨のようなシャリシャリとした食感と西洋梨のような芳香を有するのが特徴です。英名ならびに種小名はウスリー川(烏蘇里江、Ussuri:中国東北地区とロシア極東地方の国境の一部をなし、北流してアムール川に注ぎ込んでいます)に由来します。日本の東北地方に自生するイワテヤマナシ(P. ussuriensis var. aromatica)は秋子梨と遠縁になります。品種としては千両(別名:身不知)や鴨梨(ヤーリー)、慈梨(ツーリー)などがありますが、日本における生産量はごくわずかです。

 2019年における世界のナシ生産量は2,392万トンであり(表6-1)、中国はそのうちの71.1%のシェアを占めています。2位以下はアメリカ(2.8%)、アルゼンチン(2.5%)、トルコ(2.2%)、イタリア(1.8%)、南アフリカ(1.7%)、オランダ(1.6%)の順になっています。日本は世界シェア1.0%で12位にランクされています。

⑩リンゴ

 リンゴはバラ科リンゴ属(Malus)の落葉高木樹の果実で、世界中で栽培されているものはセイヨウリンゴ(西洋林檎、英名:apple、学名:Malus domesticaまたはM. pumila)です。セイヨウリンゴは中央アジアのカザフスタンでM. sieversiiという野生リンゴcrabappleから最初に栽培化され、その後、シルクロードに沿ってヨーロッパに伝播し、ヨーロッパ原産の野生リンゴM. sylvestrisと交雑しながら、現在のリンゴが生まれたと考えられています。

 セイヨウリンゴは17世紀にヨーロッパから北アメリカに移入され、品種改良によりレッドデリシャスやゴールデンデリシャス、紅玉(英名:ジョナサンJonathan)、国光(英名:ロールスジャネットRalls Janet)、ジョナゴールドなど多くの品種が開発されました。

 日本には1854年に江戸板橋の加賀藩下屋敷で、また、1862年に江戸巣鴨の福井藩下屋敷でそれぞれアメリカから移入されたセイヨウリンゴが栽培されていたという記録があります。1871年(明治4年)に北海道開拓使次官の黒田清隆が、アメリカから持ち帰った75品種のリンゴの苗木を北海道渡島国亀田郡七重村(現在の北海道七飯町)の七重官園に植栽し、そこから日本各地へ配布されました。リンゴ栽培は明治政府による殖産興業政策の一環として行なわれ、明治維新後の廃藩により職を失った士族を救済する目的がありました。現在リンゴ生産量が日本一の青森県には1875年(明治8年)に3本の苗木が配布され、県庁構内に植栽されたのが青森リンゴの始まりです。その後、七重官園で接木法を習得した菊池楯衛(元弘前藩士)が中心となり、弘前で苗木の生産・販売を行い、リンゴ栽培は津軽地方を中心に広がっていきました。栽培の中心を担ったのは弘前藩の元士族でした。現在、日本および世界で最も多く生産されているリンゴの品種ふじは、1939年(昭和14年)に国光とレッドデリシャスを交配して誕生しました(品種登録されたのは23年後の1962年です)。品種名は育成地である青森県藤崎町に由来します。ふじの他に日本で開発された品種として、王林(オウリン)や陸奥(ムツ)、津軽(ツガル)、千秋(センシュウ)、世界一(セカイイチ)、黄王(キオウ)など数多くあります。

 日本にはワリンゴ(和林檎、英名:Chinese pearleaf crabapple、学名:Malus asiatica)やヒメリンゴ(別名:イヌリンゴ、学名:M. prunifolia)とよばれるものが古くから栽培されています。これらのリンゴは中国が原産で、平安時代から鎌倉時代にかけて日本に渡来したと考えられています。ワリンゴやヒメリンゴは直径24cm程度の小さな果実で、明治以降はセイヨウリンゴに押されて日本各地から徐々に姿を消していきましたが、リンキ(青森県)や加賀リンゴ(石川県)、高坂リンゴ(長野県)とよばれるワリンゴの系統のものは今も残っています。長野県の農園で偶然見つかったアルプス乙女という品種(直径5cm前後)はふじとヒメリンゴの交雑種と推定されています。

 リンゴの果実はナシと同じようにナシ状果で、花托が発達した部分を食用にします。リンゴの実は、成りはじめのころは緑色をしていますが、熟成にともない赤色に変わります。これは果皮に赤い色素アントシアニンが蓄積することによります。アントシアニンを合成できない品種は、黄色いリンゴ(王林、黄王などが有名です)というわけです。リンゴの芯の付近にできる蜜は糖アルコールのソルビトールというもので、リンゴが完熟した証です(1章植物「光合成産物の行方」を参照)。
 リンゴにはリンゴ酸という有機酸が含まれていますが、この物質は1785年にスウェーデンの化学者カール・ヴィルヘルム・シェーレによりリンゴジュースから初めて分離されました(「ムクロジ目の果物⑨レモン」で後述するように、シェーレはクエン酸も分離しています)。リンゴ酸は1787年にフランスの化学者アントワーヌ・ラヴォアジエによりフランス語でacide maliqueと命名され、英語ではmalic acidとよばれています。フランス語のmaliqueはリンゴを表すラテン語malumに由来します(リンゴ属Malusmalumに由来)。リンゴ酸はリンゴ(含量:0.51〜0.65%)やブドウ(0.43〜0.62%)、サクランボ(0.67%)、モモ(0.19〜0.47%)などの主要な有機酸であり、これらの果物に爽やかな酸味を与えます。

 リンゴは世界でスイカに次いで3番目に多く生産されている果物です(表6-1)。2019年における世界の生産量は8,724万トンであり、中国が断トツで48.6%の世界シェアを占めています。2位以下はアメリカ(5.7%)、トルコ(4.1%)、ポーランド(3.5%)、インド(2.7%)、イタリア(2.64%)、イラン(2.57%)、ロシア(2.2%)、フランス(2.0%)の順になっています。

 日本においてリンゴはウンシュウミカンに次いで2番目に多く生産されている果物です。2020年における日本の生産量は763,300トンであり、1位は青森県(シェア:60.7%)、2位は長野県(17.7%)、3位は岩手県(6.2%)となっています。品種別では、ふじが全収穫量の51%、つがるが11%、王林が7%、ジョナゴールドが6%を占めています。

⑪ビワ

 ビワ(枇杷、英名:loquat、学名:Eriobotrya japonica)は中国南部地方原産のバラ科ビワ属(Eriobotrya)の常緑高木で、奈良時代から平安時代に日本に渡来したといわれています。寒さに弱いため、九州や四国、関西、房総半島など温暖な地域で栽培されています。11月〜2月頃に強い芳香のある白い花を咲かせ、5月〜6月頃に多汁質でほどよい酸味と甘味のある果実(ナシ状果)をつけます。果肉はオレンジ色をしており、β-カロテンやβ-クリプトキサンチンが多く含まれています。

 ビワの主な品種としては、茂木(モギ)や長崎早生、田中、大房(オオブサ)、なつたよりなどがあります。ビワの実には大きな種子が数個入っていますが、千葉県農林総合研究センターで種なしビワの希房(キボウ)という品種が開発されています。

 日本における2021年のビワ生産量は2,890トンであり、主な産地は長崎県(シェア:30.3%)、千葉県(15.4%)、香川県(7.9%)、鹿児島県(6.7%)、愛媛県(6.1%)、兵庫県(5.6%)などです。

⑫イチジク

 イチジク(無花果、英名:fig tree、学名:Ficus carica)はクワ科イチジク属(Ficus)の落葉小高木の果実です。原産地はアラビア半島南部で、そこからシリアや小アジア(アナトリア)、地中海沿岸地域などに伝播していきました。メソポタミアでは6,000年以上前に栽培化されたといわれています。8世紀頃ペルシアから中国に伝わり、日本には江戸時代に中国から渡来したとされています。

 古代エジプト遺跡の壁画に描かれているイチジクは、中央アフリカ原産のエジプトイチジク(英名:sycamore、学名:Ficus sycomorus)という種で、普通のイチジクとは異なります。

 イチジクは漢字で無花果と書きますが、これは花がないわけではありません。花托が発達して中央部がくぼんだ壷状になり、その中に多数の小さな花が並んでいますが、外側からは見えないため無花果という字が当てられました。花からはやがて小さな果実がたくさんできるので多花果といいます。このようなイチジクの実は偽果の一種でイチジク状果とよばれます。

 イチジクには糖分としてブドウ糖と果糖が多く含まれています(表6-4)。食物繊維のペクチンも豊富なため、ジャムなどに加工されます。また、タンパク質分解酵素のフィシンficin(属名のFicusに由来)を含むため、肉料理のつけ合わせなどに用いられます。

 2019年における世界のイチジク生産量は1316,000トンであり、主要な生産国はトルコ(シェア:23.6%)、エジプト(17.1%)、モロッコ(11.6%)、イラン(9.9%)、アルジェリア(8.9%)、スペイン(4.0%)などです。

 日本では桝井ドーフィンという品種(明治42年に広島県の桝井光次郎が米国カリフォルニアから導入)が最も多く栽培されており、全生産量の約80%を占めています。その他の品種には蓬莱柿(ホウライシ)、とよみつひめ、ビオレソリエス、スミルナなどがあります。2018年における日本のイチジク生産量は1万474トンであり、主な産地は和歌山県(19.3%)、愛知県(17.1%)、大阪府(12.8%)、兵庫県(11.6%)、福岡県(8.5%)などです。

表6-5 バラ目の果物

バラ科果物の青酸配糖体

 バラ科植物のウメやアンズなどの未熟な果実や成熟した果実の種子にはアミグダリンamygdalinやプルナシンprunasinという青酸配糖体が含まれています。プルナシンはシアノヒドリン(5章野菜「イモ類②キャッサバ」を参照)の一種であるマンデロニトリルmandelonitrileにグルコースが1個結合したものであり、2個結合したものがアミグダリンです。これらの青酸配糖体は果実に含まれているエムルシンという酵素によりマンデロニトリルとグルコースに加水分解され、マンデロニトリルがさらにヒドロキシニトリルリアーゼという酵素により、あるいは非酵素的に分解されるとベンズアルデヒドと青酸(シアン化水素HCN)が発生します。ベンズアルデヒドは芳香成分で無害ですが、青酸は猛毒です。これが「青梅は毒性がある」と昔からいわれている所以です。果実が成熟するにつれて青酸配糖体はエムルシンの作用で分解され、発生する青酸も徐々に消失するため、成熟したウメやアンズなどを食べても青酸中毒になる心配はほとんどありません。

 アンズのところで述べたように、杏仁は杏仁豆腐などに利用されています。杏仁のアミグダリンは20%程度のエタノール水溶液に浸漬することにより低減できることが見出され、アーモンドと同様な製品化が期待されています。

 ウメの種子には高濃度(45%)の青酸配糖体が含まれているので、食べないようにしましょう。4月から5月初旬にかけての若梅の種子においてはプルナシンが大部分を占め、アミグダリンはほとんど含まれていませんが、5月下旬から6月になるとアミグダリンがほとんどを占めるようになることが見出されています。

 ビワの種子にも高濃度の青酸配糖体が含まれているため、食べるのは避けましょう。

ムクロジ目の果物

 ムクロジ目の果物には、表6-6に示すようにミカン科ミカン属のマンダリン、ポメロ、シトロン、パペダ、キンカン、ミカン、イヨカン、シラヌイ、オレンジ、グレープフルーツ、レモン、ライム、ベルガモット、ユズ、スダチ、カボスなどやムクロジ科レイシ属のライチー、ウルシ科マンゴー属のマンゴーなど多くのものがあります。ミカン科の果樹は柑橘類とよばれています。

 柑橘類の果実はフラベドflavedoとよばれる外果皮、アルベドalbedoとよばれる白くスポンジ状の中果皮、ならびに10個前後の放射状に並んだ小袋(じょうのう)からできています。じょうのうは薄皮のじょうのう膜とよばれる内果皮と無数の砂じょう(果肉)からできています。個々の砂じょうの表面には薄い膜があり、その中は果汁で満たされています。じょうのうの中には種子がありますが、ウンシュウミカンのように種子がないものもあります。

 ミカン科ミカン属(Citrus)には非常に多くの果実が含まれますが、ほとんどが基本種であるマンダリン(英名:mandarin、学名:Citrus reticulata)、ポメロ(英名:pomelo、学名:C. maxima)、シトロン(英名:citron、学名:C. medica)およびパペダ(英名:papeda、学名:C. micranthaならびにC. ichangensis)の交雑種です(図6-1)。これらの基本種はインド北東部、ミャンマー北部および中国雲南省北西部からなる三角地帯に発生した柑橘類の祖先から68百万年前に分化し、交雑をしながら周辺各地に拡散していったと考えられています。

①マンダリン

 純粋なマンダリン(英名:mandarin、学名:Citrus reticulata)にはタチバナやSun Chu Sha Katなど5種ほどがありますが、遺伝子浸透introgressionによりポメロのDNAを様々な割合で(138%)含むマンダリンもあります。遺伝子浸透とは異種間での交配により、一方の種の遺伝子が他方の種に浸透することです。交雑種に妊性があるとき、交雑種が一方の親と戻し交配backcrossを繰り返すことで、遺伝子浸透が生じます。

 タチバナ(橘、英名:Tachibana、学名:Citrus tachibana)は日本固有の柑橘類といわれていますが、中国大陸で2百万年程前にマンダリンから分岐し、氷期にできた陸橋を通って日本に到来したと考えられています。純粋なマンダリンの一つでC. reticulata subsp. tachibanaとみなすことができます酸味が強いため生食用には向かないとされています。京都御所紫宸殿に植えられている「右近の橘」は、「左近の桜」とならんで日本文化を伝承する代表的なものの一つです。1937年(昭和12年)に制定された文化勲章のデザインは、橘の五弁の花の中央に三つ巴の曲玉を配し、鈕(チュウ)にも橘の実と葉が用いられています。

 コウジ(柑子、英名:kouji、学名:Citrus leiocarpa)はタチバナの血を引く自然雑種で、日本原産と考えられており、ウスカワ(薄皮)ミカンともよばれています。コウジは古くから日本にあり、平安時代に編纂された歴史書「日本三大実録」(901年)や養老律令の施行細則「延喜式」(927年)に記載があるようです。

 スンキマンダリン(英名:Sunki mandarin、学名:Citrus reticulata var. austera)は、わずかにポメロの遺伝子浸透を受けたサワーマンダリンsour mandarinで、中国原産と考えられています。

 クネンボ(九年母、英名:Kunenbo mandarin、学名:Citrus reticulata ‘Kunenbo’)は東南アジア原産のマンダリンの一種で、室町時代に琉球王国を経由して日本に渡来したと考えられています。沖縄県ではクニブーとよばれています。

 ポンカン(英名:Ponkan mandarin、学名:Citrus reticulata var. poonensis)はインド原産のマンダリンの一種で、種小名はインドのマハーラーシュトラ州プネーPuneという都市の植民地時代の英語名称Poonaに由来します。日本には明治時代に導入され、甘味が強くて、香りがよいので人気があります。2018年における日本のポンカン生産量は1万8,450トンであり、主な産地は愛媛県(シェア:35.7%)や高知県(15.0%)、鹿児島県(14.4%)、熊本県(7.8%)、和歌山県(6.9%)などです。

 タンジェリン(英名:tangerine、学名:Citrus tangerina)はモロッコのタンジールTangierからアメリカのフロリダに移入されたマンダリンの一種です。

 クレメンタイン(英名:clementine、学名:Citrus clementina)はポメロのDNAを僅かにもつ地中海マンダリン(Citrus deliciosa)と後述するスイートオレンジの交雑種です。アルジェリアで本種を最初に栽培したフランスの宣教師Clément Rodierに因んで名付けられました。

 キシュウミカン(紀州蜜柑、英名:Kishu mandarin、学名:Citrus kinokuni)は、ポメロのDNAをある程度含むマンダリンの一種で、原産地は中国です。果実の直径は5cm程度、重さは3050g程度と小ぶりのため小ミカンともよばれ、種子が多いのが特徴です。中国から肥後国八代(現在の熊本県八代市)に最初に伝わったとされていますが、伝来時期は不明です。大分県津久見市に、1157年(保元2年)に移植された樹齢850年を超える日本最古のキシュウミカンの古木が残されていることから、平安時代には渡来していたようです。1516世紀頃に紀州(紀伊国の別称)有田(現在の和歌山県有田市)に移植され、盛んに生産されるようになったことから、キシュウミカンとよばれるようになりました。2018年における日本のキシュウミカン生産量は483トンであり、主な産地は鹿児島県(57.1%)、熊本県(21.3%)、和歌山県(10.4%)などです。

 ウンシュウミカン(温州蜜柑、英名:Satsuma mandarin、学名:Citrus unshiu)はキシュウミカンとクネンボの交雑種で、原産地は九州八代海の南端に位置する薩摩国長島(現在の鹿児島県長島町)とされています(英名がSatsuma mandarinとよばれる所以です)。長島町で1936年(昭和11年)に樹齢約300年と推定された古木が発見されており(太平洋戦争中に枯死しました)、ウンシュウミカンは400年程前に誕生したと思われます。ウンシュウの名は柑橘類の産地として有名な中国浙江省の温州にあやかって付けられました。果実の直径は5〜8cm程度、重さは70200g程度であり、キシュウミカンより大きく、また、通常種子がありません。

 江戸時代にはミカンの主流はキシュウミカンでしたが、明治時代になると大きさと食べやすさからウンシュウミカンが主流になりました。現在、ミカンというとウンシュウミカンを指します。

 ウンシュウミカンは産地の名前を付けて三ヶ日みかんや有田みかん、愛媛みかんなどとよばれて販売されていますが、これらは品種名ではありません。多くの品種が開発されており、主要な品種としては宮川早生、青島温州、興津早生、日南1号、南柑20号などがあります。日本で栽培されている果物の中でウンシュウミカンが最も多く生産されており、2020年の生産量は765,800トンです。主な産地は和歌山県(21.8%)、静岡県(15.6%)、愛媛県(14.7%)、熊本県(10.8%)、長崎県(6.2%)などです。

 世界における2019年のマンダリン・タンジェリン・クレメンタイン・ウンシュウミカンの生産量は3,544万トンであり(表6-1)、中国がそのうちの55.6%のシェアを占めています。2位以下はスペイン(5.2%)、トルコ(3.95%)、モロッコ(3.88%)、エジプト(3.1%)、アメリカ(2.8%)、ブラジル(2.8%)、イタリア(2.2%)、日本(2.1%)、韓国(1.8%)などとなっています。

②ポメロ

 ポメロ(和名:ザボン、英名:pomelo、学名:Citrus maxima)は日本でブンタン(文旦)あるいはボンタンとよばれているものです。原産地は東南アジアであり、日本には江戸時代に中国から渡来したといわれています。土佐文旦や水晶文旦、阿久根文旦、平戸文旦などの品種があります。ブンタンの皮の白いワタの部分(アルベド)は厚みがあり、外皮(フラベド)と一緒に砂糖漬けやマーマレードに加工して食べることができます。2018年における日本のブンタン生産量は1万1,500トンであり、そのうちの95.1%を高知県が占めています。

③シトロン

 シトロン(英名:citron、学名:Citrus medica)はインドの東ヒマラヤ山脈の山麓に起源をもち、紀元前4世紀頃までにはペルシア湾沿岸で広く栽培されていたようです。古代ギリシャのマケドニア王国のアレキサンダー大王がペルシア侵攻に際しシトロンを持ち帰り、ギリシャやイタリアなど地中海沿岸に広まったといわれています。シトロンはユダヤ教の仮庵(カリイオ)の祭りSukkotで儀式に用いられています。ミカン属Citruscitronを意味するラテン語citrus(キトロス)に由来します。シトロンはレモン類の親として重要な基本種です(図6-1)。

④パペダ

 パペダpapedaには主にミクランタ(英名:micrantha、学名:Citrus micrantha)とイーチャンパペダ(英名:Ichang papeda、学名:C. ichangensis)の2種があり、前者はライム類の親として(図6-1)、後者はユズやスダチ、カボスの親として重要な基本種です。

⑤キンカン

 キンカン(金柑、英名:kumquat)は、かつてキンカン属(Fortunella)に分類されていましたが、現在ではミカン属に分類され、Citrus japonicaという学名が付けられています(図6-1には示してありません)。原産地は中国の長江中流域といわれており、江戸時代に日本に渡来したニンポウキンカン(寧波金柑)という品種が主に九州で栽培されています。2018年における日本のキンカン生産量は3,470トンです。主な産地は宮崎県がシェア70.4%で断トツであり、2位は鹿児島県(24.3%)、3位は熊本県(1.9%)となっています。

⑥イヨカン・シラヌイ

 イヨカン(伊予柑、英名:iyokan、学名:Citrus iyo)はウンシュウミカンとブンタン(ポメロ)の交雑種と考えられています。1885年(明治19年)に山口県で蚕業指導員の中村正路により発見されました。その後愛媛県に移植されて栽培が盛んになり、1930年(昭和5年)に愛媛県の旧令制国名である伊予国に因んで伊予柑と名付けられました。日本における2018年のイヨカン生産量は2万8,500トンであり、そのうちの92.3%を愛媛県が占めています。

 シラヌイ(不知火)は1972年(昭和47年)に長崎県南高来郡口之津町(現在の南島原市)の農林水産省果樹試験場口之津支場(現在の農研機構九州沖縄農業研究センター口之津カンキツ研究試験地)で、ポンカンと清見kiyomi(ウンシュウミカンとスイートオレンジの交雑種)の交配により誕生した柑橘です。熊本県宇土郡不知火町(現在の宇城市)に移植され、栽培が盛んになったことから、地名に因んで不知火という品種名が付けられました。デコ(凸)があり、ポンカンが片親であることからデコポンともよばれていますが、これは登録商標です。日本における2018年のシラヌイ生産量は3万8,690トンであり、主な産地は熊本県(31.7%)、愛媛県(22.0%)、和歌山県(13.5%)、佐賀県(8.4%)、鹿児島県(6.1%)などです。

⑦オレンジ

 オレンジは大きく分けてスイートオレンジ(英名:sweet orange、学名:Citrus sinensis)とサワーオレンジ(英名:sour orange、学名:C. aurantium)の2種がありますが、単にオレンジという場合はスイートオレンジを指すことが多いようです。どちらもマンダリンとポメロの交雑種です(図6-1)。

 スイートオレンジの原産地は古代中国といわれており、紀元前314年の中国の文献にスイートオレンジの記載があるようです。マンダリンとポメロの交雑種にマンダリンを戻し交配して誕生したと考えられています。1516世紀に中国からポルトガルに渡り、地中海沿岸諸国に伝播したといわれています。その後、スペインの航海士たちにより西インド諸島や南米、メキシコ、フロリダなどに持ち込まれました。日本に導入されたのは明治時代で、アマダイダイ(甘橙、甘代々)ともよばれています。スイートオレンジは普通オレンジcommon orange品種群、ネーブルオレンジnavel orange品種群ならびにブラッドオレンジblood orange品種群に分けられます。普通オレンジとしてはバレンシアオレンジが有名ですが、この品種はアメリカのカリフォルニア州でウィリアム・ウルフスキルにより作出されました。ネーブルオレンジはブラジルで誕生し、名前は果実のお尻部分にへそnavelがあることに由来します。ブラッドオレンジはイタリアで生まれた品種で、果肉が赤いのは高濃度のアントシアニンに因ります。

 2019年における世界のオレンジ生産量は7,870万トンであり、世界の柑橘類の生産量1億5,800万トンの約50%を占めています(オレンジは果物の中でリンゴに次いで4番目に多く生産されています:表6-1)。主な生産国はブラジル(シェア:21.7%)、中国(13.3%)、インド(12.1%)、アメリカ(6.1%)、メキシコ(6.0%)、スペイン(4.10%)、エジプト(4.06%)、インドネシア(3.3%)、イラン(2.9%)などです。

 日本においてはネーブルオレンジ、バレンシアオレンジならびにブラッドオレンジのタロッコとモロが栽培されています。2018年におけるネーブルオレンジの生産量は4,435トンであり、主な産地は静岡県(34.0%)、広島県(27.0%)、和歌山県(19.4%)、熊本県(7.3%)、愛媛県(6.6%)などです。同年のバレンシアオレンジ生産量は195トンであり、和歌山県が100%のシェアを占めています。また、同年のブラッドオレンジ(タロッコ)生産量は276トンであり、そのうちの93.9%を愛媛県が占めています。

 2020年における日本のオレンジ輸入量は9万3,000トンであり、主な輸入先はアメリカ(53%)とオーストラリア(45%)です。

 サワーオレンジはインドのヒマラヤ東部原産で、マンダリンとポメロの交雑種です(図6-1)。苦味が強いことからビターオレンジbitter orangeともよばれています。日本には奈良時代に中国から伝来し、ダイダイ(橙、代々)とよばれ、正月飾りに用いられていました。強い酸味と苦味のため生食には適さず、マーマレードやポン酢に加工して利用されています。

⑧グレープフルーツ

 グレープフルーツ(英名:grapefruit、学名:Citrus paradisi)はスイートオレンジとポメロの交雑種です(図6-1)。これらの親種が17世紀にヨーロッパから西インド諸島に持ち込まれ、自然交配によりグレープフルーツが誕生したと考えられています。バルバドスで1750年頃発見されたものが最初とされています。果実が木の枝にブドウ(グレープgrape)の房のようにたくさん実る様子からグレープフルーツと名付けられました。

 グレープフルーツの品種には、白みがかった薄黄色の果肉をもつマーシュや赤みがかったピンク色の果肉をもつルビー、果肉が濃い赤色をしたスタールビー、リオレッドなどがあります。果肉のピンク色や赤色はカロテノイドのリコペンに因ります。アメリカでグレープフルーツにポメロを交配して誕生したのがオロブランコとメロゴールドという品種です。オロブランコはイスラエルではスウィーティーとよばれています。

 2019年における世界のグレープフルーツ(ポメロを含む)生産量は929万トンであり(表6-1)、主要な生産国は中国(シェア:53.1%)、ベトナム(8.8%)、アメリカ(5.5%)、メキシコ(5.3%)、南アフリカ(4.1%)、タイ(3.0%)、スーダン(2.71%)、トルコ(2.68%)などです。

 日本においては2018年に静岡県で18.6トンのグレープフルーツが生産されています(ポメロの生産量は②ポメロを参照)。日本で消費されているグレープフルーツのほとんどは輸入品であり、2020年における輸入量は6万2,700トンです。主な輸入先は南アフリカ(42%)、アメリカ(27%)、イスラエル(16%)、メキシコ(10%)などです。

⑨レモン

 レモン(檸檬、英名:lemon、学名:Citrus limon)は図6-1に示すようにサワーオレンジとシトロンが交配してできた交雑種であり、原産地はシトロンと同様にヒマラヤ東部と考えられています。レモンは古代ローマ時代の2世紀頃には南イタリアに渡来していたようです。

 スウェーデンの化学者カール・ヴィルヘルム・シェーレは、1784年にレモンジュース(スウェーデン語でレモンはcitronといいます)からクエン酸citric acidを分離・結晶化しました。英名のcitric acidcitronに由来しますが、和名のクエン酸はシトロンの漢名の枸櫞(クエン)に由来すると思われます。シトロンとレモンは混同されることが多く、フランス語でもレモンをcitronといい、シトロンはcédratとよばれています。レモン果汁のクエン酸含量は5〜6%です。クエン酸は好気性生物の代謝経路であるクエン酸回路を構成する重要な物質であり、新陳代謝の促進や疲労回復などの効能があります。

 レモンと名のつく柑橘類には図6-1に示すように、マンダリンとシトロンの交雑種のフォルカマーレモン(英名:Volkamer lemon、学名:Citrus limonia)やラフレモン(英名:rough lemon、学名:C. jambhiri)、ポメロとシトロンの交雑種のヤッファレモン(英名:Jaffa lemon、学名:C. lumia)やポンデローザレモン(英名:ponderosa lemon、学名:C. pyriformis)などがあり、レモンと同様にいずれもシトロンを親にもちます。

 2019年の世界におけるレモンと後述するライムの合計生産量は2,005万トンであり(表6-1)、主要な生産国はインド(シェア:17.4%)、メキシコ(13.5%)、中国(13.3%)、アルゼンチン(9.5%)、ブラジル(7.5%)、トルコ(4.7%)、スペイン(4.41%)、アメリカ(4.37%)、南アフリカ(2.5%)、イラン(2.3%)などです。

 日本で栽培されているレモンの代表的な品種はリスボン、ビラフランカ、ユーレカなどです。2018年の日本におけるレモン生産量は5,530トンであり、主な産地は広島県(42.1%)、愛媛県(31.3%)、和歌山県(9.6%)などです。2020年の日本のレモン輸入量は4万5,000トンであり、主にアメリカ(50%)とチリ(42%)から輸入されています。

⑩ライム

 主なライムにはメキシカンライム(英名:Mexican lime、学名:Citrus aurantifolia)やペルシアライム(英名:Persian lime、学名:C. latifolia)などがあります。メキシカンライムは図6-1に示すようにシトロンとパペダの一種ミクランタ(Citrus micrantha)の交雑種で、インド北東部からミャンマー、マレーシア一帯が原産地と考えられています。ヨーロッパのイタリアやフランスなどでは13世紀頃には広く栽培されていたようです。16世紀初期にはスペインやポルトガルの探検隊により南フロリダや西インド諸島、メキシコなどに持ち込まれました。メキシコで定着し広く栽培されるようになったことからメキシカンライムとよばれています。また、アメリカのフロリダ州にあるFlorida Keysとよばれる列島でも盛んに栽培されていることからキーライムKey limeともよばれています。

 ペルシアライムはメキシカンライムとレモンの交雑種であり(図6-1)、三倍体のため種子がありません。原産地は西アジアであると考えられており、ペルシア(現在のイラン)や南イラクで広く栽培されていたことからペルシアライムと名付けられています。ペルシアから地中海沿岸地域に伝播し、ポルトガルの貿易商によりブラジルに持ち込まれました。その後、19世紀初め頃にブラジルからオーストラリアや南太平洋諸島に伝わりました。19世紀後半にタヒチTahitiからアメリカのカリフォルニアやフロリダに伝わったことからペルシアライムはタヒチライムともよばれています。

 メキシカンライムの直径は2.5〜5cm、重さは3050gと比較的小さいのですが、ペルシアライムの直径は6cm程度、重さは100g程度とやや大きめです。ペルシアライムは現在世界で最も多く生産されているライムです。ライム果汁のクエン酸含量はレモン果汁よりやや少なく、4〜5%と報告されています。

 日本における2018年のライム生産量は3.5トン程であり、そのうちの97.1%は愛媛県で生産されています。

 ライムやレモン、後述するベルガモット、ユズ、スダチ、カボスなど果汁の酸味や果皮の香りを楽しむ柑橘類は香酸柑橘類とよばれています。

⑪ベルガモット

 ベルガモット(英名:bergamot、学名:Citrus bergamia)はレモンとサワーオレンジの交雑種です(図6-1)。原産地は不明ですが、イタリアのカラブリア州やコートジボワールのササンドラが主要な産地になっています。果実は非常に苦いため、生食には向きません。果皮から採れるベルガモットオイルは大変香りがよく、香水ならびに紅茶のアールグレイやレディーグレイの着香に利用されています。

⑫ユズ・スダチ・カボス

 ユズ(柚子、英名:yuzu、学名:Citrus junos)は中国のチベットおよび長江上流原産の香酸柑橘類で、スンキマンダリン(①マンダリンを参照)とイーチャンパペダ(④パペダを参照)の交配により誕生したと考えられています。日本には飛鳥・奈良時代に渡来したといわれています。果実のサイズは100130gくらいです。2018年における日本のユズ生産量は2万1,000トンであり、主な産地は高知県(シェア:52.8%)、徳島県(10.6%)、愛媛県(10.3%)、鹿児島県(6.2%)、宮崎県(5.5%)などです。

 スダチ(酢橘、英名:sudachi、学名:Citrus sudachi)は徳島県原産の香酸柑橘類で、ユズとマンダリン(タチバナやコウジに近い種)の交雑種と考えられています。果実のサイズは3040gくらいと小ぶりです。2018年における日本のスダチ生産量は4,080トンであり、そのうちの98.0%を徳島県が占めています。

 カボス(臭橙、英名:kabosu、学名:Citrus sphaerocarpa)はイーチャンパペダとサワーオレンジの交雑種であり、原産地は中国と考えられています。江戸時代に日本に渡来したとされています。カボスを香母酢と書くのは当て字です。果実のサイズは100150gくらいです。2018年における日本のカボス生産量は3,380トンであり、そのうちの98.5%を大分県が占めています。大分県ではカボスを混ぜた餌でブリやヒラメが養殖されており、カボスブリおよびカボスヒラメとよばれています。カボスに含まれているポリフェノールやリモネンが魚肉の変色や臭いを抑えると考えられています。

 ユズ、スダチ、カボスの果汁にはレモンやライムと同程度の4〜6%のクエン酸が含まれており、香酸柑橘類の強い酸味はクエン酸によることが分かります。

⑬ライチー

 ライチー(別名:レイシ、英名:litchiまたはlychee、学名:Litchi chinensis)はムクロジ科レイシ属(Litchi)の果物です。原産地は中国南部で、紀元前から栽培されていたようです。日本には江戸時代に薩摩国(現在の鹿児島県)に持ち込まれたといわれています。

 果皮は簡単に手でむくことができ、果肉は乳白色で弾力があります。果肉の糖含量は高く(ブドウ糖:7.3%、果糖:7.0%、ショ糖:0.6%、表6-4)、ほどよい酸味があり、香りも豊かです。果肉の中には大きめの種子が1つ入っています。

 世界におけるライチー生産量は20152017年の平均で348万トンと報告されており、中国がそのうちの63.7%を占めています。中国の他にインド(16.3%)、ベトナム(10.8%)、タイ(1.5%)などで生産されています。

 2018年における日本のライチー生産量は14.6トンであり、宮崎県(67.1%)と鹿児島県(32.9%)で生産されています。

⑭マンゴー

 マンゴー(英名:mango、学名:Mangifera indica)はウルシ科マンゴー属(Mangifera)の果物で、原産地はインドからインドシナ半島にかけてとされています。インドやミャンマーでは4,000年以上前から栽培が行なわれていたといわれています。日本に伝来したのは明治時代ですが、本格的に栽培されるようになったのは1970年以降のようです。

 マンゴーの品種にはアップルマンゴー(果皮が赤色の品種の総称でアーウィン種やヘイデン種、ケント種、トミーアトキンス種などが含まれます)、ペリカンマンゴーとよばれる果皮が黄色のカラバオ種、完熟しても果皮が緑色のキーツ種(ケイト種)、果皮が黄色からピンクのケンジントンプライド種、タイ産のナンドクマイ種(ナンドクマイはタイ語で「花のしずく」という意味があります)やマハチャノック(マハチャノ)種、インド産のアルフォンソ種やケサー(ケサール)種などたくさんあります。

 マンゴーは糖分が高く(ショ糖:9.8%、果糖:3.1%、ブドウ糖:0.7%、表6-4)、濃厚な甘味があります。また、比較的高濃度のβ-カロテン(可食部100g当たり610μg)を含んでいます。

 マンゴーにはウルシ科ウルシ属(Rhus)の樹液に含まれているウルシオールurushiolに似たマンゴールmangolとよばれるアレルゲンが含まれているため、果汁に触れると痒みやかぶれなどのアレルギー症状が出ることがあるので注意が必要です。

 世界におけるマンゴー単独の生産量の利用できるデータがありませんが、マンゴー・マンゴスチン・グアバの合計生産量は2019年において5,585万トンと報告されています(表6-1)。主要な生産国はインド(シェア:45.9%)、インドネシア(5.9%)、中国(4.32%)、タイ(4.29%)、パキスタン(4.1%)、マラウイ(3.7%)などです。マンゴスチン(英名:mangosteen、学名:Garcinia mangostana)はマンゴーとは異なるキントラノオ目フクギ科フクギ属(Garcinia)の東南アジア原産の熱帯果樹であり、その果実は美味で「果物の女王」と称されています(「果物の王様」と称されるのはドリアンです)。世界におけるマンゴスチンの20152017年の平均生産量は54.6万トンと報告されており、主要な生産国はタイ(64.1%)、インドネシア(31.5%)、マレーシア(3.8%)などです。グアバ(和名:バンジロウ、英名:guava)は熱帯アメリカ原産のフトモモ目フトモモ科バンジロウ属(Psidium)の熱帯果樹の総称であり、特にPsidium guajavaはバンジロウ(common guava)、P. littoraleはキバンジロウ(strawberry guava)とよばれることがあります。世界におけるグアバの20152017年の平均生産量は675万トンと報告されており、主要な生産国はインド(57.5%)、パキスタン(7.0%)、中国(5.4%)、ブラジル(5.2%)、インドネシア(3.9%)、タイ(3.2%)などです。

 2018年における日本のマンゴー生産量は3,330トンであり、主な産地は沖縄県(52.4%)、宮崎県(33.7%)、鹿児島県(10.5%)などです。2020年における日本のマンゴー輸入量は6,700トンであり、主な輸入先はメキシコ(52%)、タイ(19%)、ペルー(10%)、台湾(10%)などです。

表6-6 ムクロジ目の果物
図6-1 柑橘類の系統

柑橘類に特有の成分

 柑橘類にはビタミンCやクエン酸などが豊富に含まれていることを述べましたが、その他に表6-7に示すような柑橘類に特有の成分が多数含まれています。

 β-クリプトキサンチンはカロテノイドの一種でβ-カロテンと同じようにプロビタミンA活性があります。柑橘類の中で特にウンシュウミカンに多く含まれており、骨粗鬆症や癌の発症を予防する効果が認められています。JAみっかびの「三ヶ日みかん」は2015年に生鮮物では初めて機能性表示食品(2章穀類「保健機能食品」を参照)として消費者庁に登録されました(機能性関与成分名:β-クリプトキサンチン、機能性:骨代謝の働きを助けることにより骨の健康に役立つ)。その後、多くのウンシュウミカンやミカン果汁飲料などが機能性表示食品として登録されています。

 柑橘類に含まれているフラバノン類(フラボノイドの一種)にはエリオシトリン、ネオエリオシトリン、ナリルチン、ナリンギン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジンなどがあり、これらは配糖体として存在しています。結合している糖はルチノースとネオヘスペリドースという二糖で、どちらもラムノースとグルコースが結合したものですが、結合の仕方が異なります。ルチノースはラムノースとグルコースがα-1,6結合したものであり、ネオヘスペリドースはα-1,2結合したものです。エリオシトリン、ナリルチン、ヘスペリジンにはルチノースが結合しており、ネオエリオシトリン、ナリンギン、ネオヘスペリジンにはネオヘスペリドースが結合しています。フラバノン配糖体で苦味を有するものはネオヘスペリドースが結合したネオエリオシトリン、ナリンギン、ネオヘスペリジンで、これらはグレープフルーツやナツミカン、ハッサクなどに多く含まれています。これに対して、ルチノースが結合したエリオシトリンやナリルチン、ヘスペリジンには苦味はありません。ミカンやオレンジではナリルチンとヘスペリジンが主成分で、レモンやライムではエリオシトリンとヘスペリジンが主成分になっています。フラバノン配糖体の有する生物学的作用は強い抗酸化活性です。抗酸化活性とはスーパーオキシドや過酸化水素、ヒドロキシルラジカルなどの活性酸素の作用を消去あるいは減弱させることです。

 柑橘類に含まれる特徴的なフラボノイドには上述したフラバノン配糖体以外にジオスミンやノビレチン、タンゲレチンなどのフラボン類があります。フラボンには抗炎症作用や発癌予防の効果が認められています。

 モノテルペンであるリモネンは柑橘類のフラベド(外果皮)に多数存在する直径1 mm程の油胞に含まれる精油の主成分で、強い芳香があります。リモネンlimonenの名はレモンCitrus limonの種小名に由来します。リモネンはレモン油には70%程度、ウンシュウミカンやオレンジ、ユズなどの精油には90%前後含まれています。リモネンには中枢神経の興奮を鎮静化する作用が認められています。

 リモノイド類のリモニンやノミリンはナリンギンなどと同様に柑橘類の苦味成分です。リモニンはノミリンの代謝により生成されます。果実が成熟するにつれてリモノイドはグルコシル化されて配糖体(リモノイドグルコシド)に変換されるため苦味がなくなります。リモノイドには発癌抑制作用があり、この効果は配糖体にも認められています。リモノイドには昆虫に対する摂食阻害効果があるため除虫剤あるいは防虫剤としての応用が期待されています。

 ミクランタやベルガモット、ライムなどの果皮に存在する精油が皮膚に付着すると植物性光線皮膚炎が引き起こされます。これは精油に含まれているフラノクマリンの一種ベルガプテン(名はこの物質が最初に分離されたベルガモットに由来)によると考えられています。

 グレープフルーツは薬物相互作用を引き起こすことが知られています。経口薬物は通常、小腸に存在するチトクロームP450CYPと略されます)という薬物代謝酵素(特にCYP3A4という分子種)によりある程度代謝されて不活性化されるため、血液中に入る薬物量は少なくなります。グレープフルーツに含まれているベルガモチン(ベルガモットから最初に分離されたことに由来)やジヒドロキシベルガモチンというフラノクマリン類はCYP3A4を阻害する作用があります。従って、グレープフルーツと一緒に薬物を摂取すると薬物が不活性化されないため、血液中に入る薬物量が増大し、薬物の効果が増強される、つまり、薬が効きすぎてしまいます。血管拡張剤(降圧剤)のフェロジビンやニフェジビン、ニソルジビン、高脂血症治療薬のアトルバスタチンやシンバスタチン、催眠鎮静薬のトリアゾラム、抗てんかん薬のカルバマゼピンなどの薬物がグレープフルーツにより影響を受けます。グレープフルーツと同様の薬物相互作用を示す柑橘類としては、ポメロ(ブンタン)やオロブランコ(スウィーティー)、サワーオレンジ(ダイダイ)などがありますが、ミカンやスイートオレンジ、レモンなどは薬物相互作用を引き起こす可能性は低いといわれています。

表6-7 柑橘類に特有の成分

ツツジ目の果物

 ツツジ目の果物には、表6-8に示すようにカキノキ科のカキ、ツツジ科のブルーベリーやビルベリー、ハックルベリー、クランベリー、マタタビ科のキウイフルーツなどがあります。

①カキ

 カキはカキノキ科カキノキ属(Diospyros)のカキノキ(柿の木、英名:persimmon、学名:Diospyros kaki)の果実です。カキノキは中国原産の温帯性落葉果樹で、中国や朝鮮半島、日本など東アジアで古くから栽培されています。日本には約1,000品種あるといわれています。

 木材として利用されている黒檀(エボニーebony)はカキノキ属の植物で、セイロンエボニー(D. ebenum)やマカッサルエボニー(D. celebica)、ブラックアンドホワイトエボニー(D. malabarica)、アフリカンエボニー(D. crassiflora)などがあります。

 柿の渋とはカキタンニンとよばれる水溶性ポリフェノールの一種で、8章嗜好飲料「茶⑤紅茶の水色」のところで説明するエピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)が重合してできたものです(EC:EGC:ECg:EGCg=3:4:8:11)。分子の大きさを表す分子量は11,000くらいだと推定されています。可溶性カキタンニンは舌や口腔粘膜のタンパク質と結合して変性させることにより渋味を感じるといわれています。タンニンtannin(別名:タンニン酸)は収斂性を有し、古くから動物の皮をなめす(英語でtanといい、名詞形はtanningで皮なめしという意味があります)ために利用されてきたことからタンニンとよばれるようになったようです。後述するように、可溶性カキタンニンはアセトアルデヒドと結合すると不溶性カキタンニンになり、渋味を感じなくなります。

 柿には渋柿と甘柿がありますが、元々は渋柿で、変異により甘柿が誕生しました。甘柿も未熟時は可溶性カキタンニンを多く含み渋味を感じますが、収穫までに樹の上で可溶性カキタンニンの濃度が下がり、渋味が抜け甘くなります。可溶性カキタンニン濃度が0.1%以下になると渋味を感じなくなるといわれています。甘柿には2つのタイプがあります。1つは果実の発育初期に可溶性カキタンニンの合成・蓄積が停止し、その後果実が肥大するに伴い可溶性カキタンニン濃度が下がることにより渋が抜けるというものです。このタイプの甘柿には、富有や次郎、御所などの品種があります。もう1つは果実に蓄積される可溶性カキタンニンの量は渋柿と同程度に多いのですが、果実の発育後期に可溶性カキタンニンを不溶化するのに十分な量のアセトアルデヒドが種子で産生されることにより渋が抜けるものです。このタイプの甘柿には、禅寺丸や長建寺などの品種があり、果肉には褐斑が現れるのが特徴です。甘柿にはブドウ糖(4.8%)、果糖(4.5%)、ショ糖(3.8%)が含まれていますが(表6-4)、デンプンは含まれていません。

 渋柿は可溶性カキタンニンが多く残ったまま収穫期を迎えるので、収穫後渋抜き(難しいことばで脱渋といいます)をしてから食べます。脱渋した柿にはブドウ糖(5.8%)、果糖(5.2%)、ショ糖(2.6%)が含まれている(表6-4)ので甘く感じます(甘柿と同様にデンプンは含まれていません)。渋柿の代表的な品種には平核無(ヒラタネナシ)や刀根早生(トネワセ)などがあります。青森県には北限の渋柿の妙丹が庭先などにたくさん植えられており、わが家でも毎年干し柿にして楽しんでいます(写真6-1)。

 渋柿を脱渋して甘くする方法としては、アルコール(エタノール)や炭酸ガス(二酸化炭素)で処理する方法や皮を剥いて干し柿にする方法などがあります。図6-2に示すように、アルコールで処理すると果皮部や果心部(ヘタ部)に多く存在するアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)によりアセトアルデヒドという物質が生成されます。炭酸ガスで処理すると酸素欠乏により好気的酸化が抑制されるため、ピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)によりアセトアルデヒドが生成されます。柿の皮を剥くと表面に皮膜ができ、果実内部が酸素欠乏状態になるため、やはりアセトアルデヒドが生成されます。このように生成されるアセトアルデヒドは可溶性カキタンニンと結合し、不溶化します。不溶性カキタンニンはタンパク質を変性させる作用がないので、渋味を感じなくなり、柿に含まれている糖分により甘味を感じるようになるのです。不溶化によりカキタンニンそのものがなくなるわけではないので、脱渋した柿でジャムなどを作ると、加熱過程で不溶性カキタンニンが可溶化し、渋味が戻ることがあります(これを「渋戻り」とよびます)。柿ジャムを作るにはカキタンニンの少ない富有や次郎、御所などの甘柿を用いるとよいでしょう。

 生柿にはビタミンCが豊富に含まれている(表6-2)ので、1日1個の生柿(150200g)を食べれば1日に必要なビタミンC量(100mg)を摂取することができます。渋柿を干し柿にするとビタミンCは失われてしまいます。干し柿の表面に付着する白い粉は、ブドウ糖や果糖、ショ糖、マンニトールなどの糖分が結晶化したものです。

 昔からお酒を飲む前に柿を食べると悪酔いしないといわれています。これはウサギを用いた実験で先ず確かめられました。柿果汁を与えたウサギにアルコールを投与すると血中アルコール濃度やアセトアルデヒド(これはアルコールの代謝産物で悪酔いの原因物質となります)濃度が柿果汁を与えなかった対照ウサギに比べて著しく抑えられることが明らかにされたのです。人においても柿の同様の効果が証明されています。柿に含まれるカキタンニンがアルコールの吸収を抑えるのではないかと考えられていますが、詳しい機構については明らかになっていません。このような柿の機能性に着目して島根大学を中心として開発されたドリンク剤が、渋柿の西条柿を活用した「晩夕飲力」です。皆さんも一度試してみませんか。

 世界における2019年のカキ生産量は427万トンであり(表6-1)、中国はそのうちの75.1%を占めて断トツです。2位以下は韓国(7.4%)、日本(4.9%)、アゼルバイジャン(4.1%)、ブラジル(4.0%)の順になっています。

 2020年の日本におけるカキ生産量は193,200トンであり、主な生産地は和歌山県(21.0%)、奈良県(14.3%)、福岡県(7.6%)、岐阜県(6.1%)、愛知県(5.7%)などです。

②ブルーベリー

 ツツジ科スノキ属(Vaccinium)はブルーベリーやビルベリー、ハックルベリーなどを含むスノキ亜属(Subgenus Vaccinium)とクランベリーを含むツルコケモモ亜属(Subgenus Oxycoccus)に分けられます。スノキ亜属はさらにスノキ節(Section Cyanococcus)やクロウスゴ節(Section Myrtillus)など20以上の節に分けられ、北米で一般的にブルーベリーとよばれるものはスノキ節に属し、北欧のビルベリーや北米のハックルベリーはクロウスゴ節に属します。

 ブルーベリーblueberryは北米原産のスノキ節の落葉低木果樹の総称で、ハイブッシュブルーベリー(Vaccinium corymbosum)やローブッシュブルーベリー(V. angustifolium)、ベルベットリーフブルーベリー(V. myrtilloides)、ラビットアイブルーベリー(V. ashei)などが含まれます。

 ブルーベリーは日本には1951年(昭和26年)に導入されました。非常に多くの品種がありますが、日本で栽培されている主な品種は、寒冷地向きのハイブッシュ系ブルークロップ、バークレイ、コリンズなどや暖地向きのラビットアイ系ウッダート、ティフブルー、ブライトウェルなどです。

 ブルーベリーの果実は直径1017mm程度、果重14g程度の小果であり、甘酸っぱさがあります。甘味はブドウ糖(4.2%)や果糖(4.3%)に因り(表6-4)、酸味はクエン酸やコハク酸、リンゴ酸、キナ酸などに因ります(総酸含量:12%)。果色はアントシアニンに因る青紫色をしています。アントシアニンの種類としてはアントシアニジン(シアニジンやデルフィニジン、マルビジン、ペオニジン、ペチュニジン)にグルコースやガラクトース、アラビノースなどが結合した配糖体25種類ほどが見出されています。スノキ節のブルーベリーのアントシアニンは果皮にのみ含まれていますが、後述するクロウスゴ節のビルベリーやハックルベリーのアントシアニンは果皮と果肉の両方に含まれています。アントシアニンには目のピント調節機能をサポートし、焦点を合わせやすくすることで目の調子を整える機能があることが報告されており、アントシアニンを含む各種食品が機能性表示食品(2章穀類「保健機能食品」を参照)として届けられています。

 2019年における世界のブルーベリー生産量は823,300トンであり、主要な生産国はアメリカ(シェア:37.5%)、カナダ(21.4%)、ペルー(17.3%)、スペイン(6.5%)、メキシコ(6.0%)、ポーランド(4.2%)などです。

 日本におけるブルーベリー生産量は2011年から2017年まで2,500トン前後で推移していましたが、2018年は1,521トンと著しく不作になっています。2018年における主な生産地は長野県(11.7%)、東京都(9.2%)、群馬県(8.9%)、岩手県(6.8%)、千葉県(5.4%)などです。

③ビルベリー

 ビルベリーbilberryは一般的にスノキ属スノキ亜属クロウスゴ節(Section Myrtillus)に分類されるセイヨウスノキ(Vaccinium myrtillus)を指し、北欧原産で、ヨーロピアンブルーベリーともよばれています。ビルベリーは栽培するのが難しいため、果実は主に野生の植物から採取されています。果実の色は青紫色で、大きさはブルーベリーより小粒です(直径:7mm程度)。ブルーベリーと同様のアントシアニンが果皮と果肉の両方に含まれており、その含量はブルーベリーやハックルベリーより高いことが知られています。

④ハックルベリー

 ハックルベリーhuckleberryはツツジ科スノキ属スノキ亜属クロウスゴ節(Section Myrtillus)に含まれるブラックハックルベリー(Vaccinium membranaceum)やブルーハックルベリー(V. deliciosum)、レッドハックルベリー(V. parvifolium)、オヴァルリーフハックルベリー(V. ovalifolium)などのベリー類とツツジ科ガイルサキア属(Gaylussacia:フランスの化学者ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックJoseph Louis Gay-Lussacを称えて名付けられました)のGaylussacia baccataG. dumosaG. frondosaG. mosieriG. ursinaなどのベリー類の北米における総称です。スノキ属のハックルベリーは北米西部に分布しているのに対して、ガイルサキア属のハックルベリーは北米東部に分布しているという偏在性があります。ガイルサキア属のベリー類は南米の熱帯山地に発生し、その後北米東部に伝播したと考えられています。

 オヴァルリーフハックルベリー(Vaccinium ovalifolium var. ovalifolium)は和名でクロウスゴ(黒臼子)とよばれ、北米のみならずロシアのカムチャッカ半島からクリル列島(千島列島)、サハリン(樺太)ならびに日本の北海道や本州の中部地方以北に分布しています。また、変種のオククロウスゴ(V. ovalifolium var. sachalinense)がサハリンや北海道の利尻島に、ミヤマエゾクロウスゴ(V. ovalifolium var. alpinum)が北海道の大雪山系や日高山脈に自生しています。

 スノキ属ハックルベリーの果実は直径510mm程度の球形で、果色は種により異なり、レッドハックルベリーの赤色〜オレンジ色、ブルーハックルベリーの青色、ブラックハックルベリーの赤色〜紫色〜黒色、クロウスゴの黒紫色など様々な色彩を帯びています。ハックルベリーの果色はビルベリーと同じように果皮と果肉に含まれているアントシアニンに因ります。アントシアニンの種類としては上述したブルーベリーに見られるものと同じアントシアニジンにグルコース、ガラクトースあるいはアラビノースが結合した配糖体が検出されています。ガイルサキア属のハックルベリーにもスノキ属のハックルベリーと同様のアントシアニンが含まれています。

⑤クランベリー

 クランベリーcranberryはツツジ科スノキ属ツルコケモモ亜属(Subgenus Oxycoccus)に属する小低木の総称で、北半球の寒い地域や高山の湿原に自生しています。幹は蔓状で、地を這うように広がります。Cranberrycranは鶴craneに由来し、開花前の花柄や蕾が鶴の首から頭、くちばしに似ていることに因るといわれています。

 ツルコケモモ節(Section Oxycoccus)のツルコケモモ(蔓苔桃、英名:common cranberry、学名:Vaccinium oxycoccos)やヒメツルコケモモ(姫蔓苔桃、英名:small cranberry、学名:V. microcarpum)、オオミツルコケモモ(大実蔓苔桃、英名:large cranberryまたはAmerican cranberry、学名:V. macrocarpon)ならびにアクシバ節(Section Oxycoccoides)のアクシバ(灰汁柴、英名:southern mountain cranberry、学名:V. erythrocarpumあるいはV. japonicum)がクランベリーの仲間です。ツルコケモモ節のクランベリーは常緑性ですが、アクシバは落葉性です。アメリカやカナダではオオミツルコケモモが栽培されています。

 秋に直径610mm程度の球形の赤い実を付けます。果皮には赤い色素アントシアニン(シアニジンとペオニジンの配糖体)が含まれています。果肉にはキナ酸やクエン酸、リンゴ酸などが豊富に含まれており、酸味が強いため、主にジュースやジャム、ソースなどとして利用されています。アメリカやカナダの感謝祭では七面鳥の丸焼きにクランベリソースを添えて食べる伝統があります。

 世界における2019年のクランベリー生産量は687,500トンであり、主にアメリカ(シェア:52.2%)、カナダ(25.1%)、チリ(20.6%)で生産されています。

⑥キウイフルーツ

 キウイフルーツkiwifruit(キウイkiwiともよばれます)は中国原産のマタタビ科マタタビ属(Actinidia)の雌雄異株の落葉蔓生植物の果実です。1904年に中国からニュージーランドに野生種の種子が持ち込まれ、栽培化が成し遂げられました。果実はニュージーランドの国鳥であるキウイに因んでキウイフルーツと命名されました。現在市販されている主なものは緑肉種のグリーンキウイ(Actinidia deliciosa1904年にニュージーランドに持ち込まれたものです)と黄肉種のゴールドキウイ(A. chinensis)の2種ですが、ベビーキウイとよばれるA. argutaA. kolomiktaなども将来的市場価値が高いと期待されています。グリーンキウイには果皮に薄茶色のうぶ毛がありますが、ゴールドキウイにはうぶ毛がほとんどありません。

 グリーンキウイの一品種であるヘイワード種は1924年頃ニュージーランドにおいてヘイワード・ライトにより開発され、長い間キウイといえばとヘイワードを指していました。近年、香緑やスイートグリーンなどの緑肉系品種が新たに開発されていますが、ヘイワードが依然高い人気を保っています。

 ゴールドキウイの種子がニュージーランドに導入されたのは1977年です。ゼスプリZespri社により最初に開発された黄肉系品種がHort16Aで、これはゼスプリゴールドという商品名で市場にでてきました。これに続いてゼスプリ社で2012年に開発されたのがGold3という品種で、サンゴールドという商品名で販売されています。静岡県のコバヤシ農園で開発されたレインボーレッドという品種は黄肉種で、これは果肉の中心部が赤いのが特徴です。

 キウイにはブドウ糖、果糖、ショ糖などの糖分やクエン酸、キナ酸、リンゴ酸などの有機酸が含まれています。糖含量はグリーンキウイよりゴールドキウイの方が高い傾向にありますが(表6-4)、有機酸含量は両者の間にほとんど差がないようです(総有機酸量:約2.3%)。キウイはビタミンCが豊富であり、ゴールドキウイはグリーンキウイの約2倍のビタミンCを含んでいます(表6-2)。カロテノイド(キサントフィル)の一種である黄色い色素ルテインも緑肉種のヘイワードに418μg/可食部100g、黄肉種のゼスプリゴールドに155μg/可食部100gと多く含まれています。ルテインはヒトの目の水晶体や黄斑部などに存在しており、強力な抗酸化作用をもっているので、黄斑変性症を予防する効果や白内障を予防・改善する効果が期待されます。

 キウイにはアクチニジンactinidin(またはactinidain)というタンパク質分解酵素が含まれており、肉料理と一緒にキウイを食べるとタンパク質の胃での消化を促進することが明らかにされています。アクチニジンはマタタビ属Actinidiaに因んで名付けられていますが、キウイと同じマタタビ属のマタタビ(Actinidia polygama)という果物にもアクチニジンactinidine(キウイのactinidinとスペルが少し違います)という揮発性のモノテルペンアルカロイドが含まれており、紛らわしいので注意が必要です。「猫にマタタビ」という言葉がありますが、これはマタタビに含まれるアクチニジンやマタタビラクトンが猫に恍惚感を与えることに由来します。

 世界における2019年のキウイフルーツ生産量は435万トンであり(表6-1)、そのうちの50.5%を中国が占めています。キウイの開発国であるニュージーランドはシェア12.8%で第2位です。3位以下はイタリア(12.1%)、イラン(7.9%)、ギリシャ(6.6%)、チリ(4.1%)の順になっています。

 2020年にける日本のキウイ生産量は2万2,500トンであり、主な産地は愛媛県(21.1%)、福岡県(15.9%)、和歌山県(15.3%)、神奈川県(6.2%)、静岡県(4.3%)などです。キウイは耐寒性があるので青森県や北海道南西部(江差町など)でも栽培が可能です。2020年における日本のキウイ輸入量は113,400トンであり、そのうちのほとんど(94%)はニュージーランドからです。

表6-8 ツツジ目の果物
写真6-1 妙丹の干し柿
図6-2 柿の果実内におけるアセトアルデヒドの産生

ブドウ

 ブドウ(葡萄)grapeはブドウ目ブドウ科ブドウ属(Vitis)の蔓性落葉低木の総称です(ブドウ目にはブドウ科のみ含まれます)。花は円錐花序(複花序の一つ)に多数つき、果実は房状になります。ブドウ属は染色体数が2n=38の真ブドウ亜属(Subgenus Euvitis)と染色体数が2n=40のマスカディニア亜属(Subgenus Muscadinia)に分けられます。真ブドウ亜属にはヨーロッパブドウ(英名:European grape、学名:Vitis vinifera)、アメリカブドウ(英名:fox grape、学名:V. labrusca)、ヤマブドウ(英名:crimson glory vine、学名:V. coignetiae)、マンシュウヤマブドウ(英名:Amur grape、学名:V. amurensis)などが属し、マスカディニア亜属にはマスカディンブドウ(英名:muscadine、学名:V. rotundifolia)が属します。マスカディニア亜属をブドウ属から切り離しマスカディニア属(Muscadinia)とする場合がありますが、この場合マスカディンブドウの学名はMuscadinia rotundifoliaとなります。真ブドウ亜属のブドウは一房に多くの果実をつけますが、マスカディンブドウは房の果実が少ないのが特徴です。

 ヨーロッパブドウの原産地は南コーカサス地方であると考えられており、ジョージア(旧国名:グルジア)では紀元前7,0005,000年頃にはブドウ栽培とワイン醸造が発達し、メソポタミアやエジプトに伝わったといわれています。野生種は雌雄異株でV. vinifera subsp. sylvestrisに分類され、栽培種は両性花でV. vinifera subsp. viniferaに分類されます。ヨーロッパブドウは17世紀頃北米東部に導入されましたが、夏季の降水量の多さや冬季の低温のため、栽培はうまくいかなかったようです。しかしながら、カリフォルニアなど北米西部の乾燥地域はヨーロッパブドウの生育に適しており、現在では一大生産地となっています。ヨーロッパブドウにはマスカットオブアレキサンドリアやマスカットハンブルグ、ロザリオビアンコ、マニキュアフィンガー、シャルドネ、カベルネソーヴィニヨン、ソーヴィニヨンブラン、ネヘレスコールなど非常に多くの栽培品種があります。山梨県の甲州ブドウはヨーロッパブドウの起源をもち、コーカサスから東方に伝播する間に中国の野生種トゲブドウ(V. davidii)との交雑により生じた品種であると考えられており、鎌倉時代初期には栽培されていたといわれています。ヨーロッパブドウは世界で最も多く栽培されているブドウです。

 アメリカブドウは北米東部の原産で、暑くて湿気の多い夏や寒い冬にも適応しています。アメリカブドウの栽培品種としてコンコードやキャサディーならびにそれらの交雑種であるナイアガラなどが育成されています。

 ヨーロッパブドウとアメリカブドウの交雑種としてレッドグローブや巨峰、ピオーネ、藤稔(フジミノリ)、マスカットベーリーA、デラウエア、スチューベン、キャンベルアーリー、シャインマスカットなどがあります。

 ヤマブドウはロシアのサハリンや日本などが原産地です。雌雄異株で、雌木と雄木を混植しないと果実ができません。近年ワインの原料として注目されており、ヨーロッパブドウとの交雑種の開発も行なわれています。

 マンシュウヤマブドウはロシアのアムール州や中国北東部などが原産地で、アムールブドウともよばれ広く栽培されています。ヨーロッパブドウなどとの交雑種も作られ、生食用やワイン用として生産されています。

 マスカディンブドウは北米原産で、温暖湿潤な気候に適応しており、米国南部から南東部にかけて栽培されています。多くの品種が開発されており、ジャムやワイン、ゼリー用に生産されています。

 ブドウには赤ブドウと白ブドウがあります。赤ブドウは果皮にアントシアニンが含まれているため赤紫色から黒色に見えますが、白ブドウは果皮にアントシアニンがないため黄緑色に見えます。赤ブドウのアントシアニン合成に関与する調節遺伝子に変異がおこり、この色素を生成できなくなったため、白ブドウの品種が誕生したと考えられています。赤ブドウにはシアニジンやペオニジン、デルフィニジン、ペチュニジン、マルビジンというアントシアニジンにグルコースが結合したアントシアニンが含まれています。さらにグルコース部分がアセチル化あるいはクマロイル化(クマル酸が結合すること)されたものも存在します。赤ブドウの色はこれらのアントシアニン成分の量や割合により決まります。

 ブドウの果皮にはフラボノイドの一種であるフラボノールという白色から黄色を呈するポリフェノールも含まれています。クェルセチンやイソラムネチン、ケンペロール、ミリセチンという少しずつ構造の異なるフラボノールにグルコースあるいはガラクトース、グルクロン酸などが結合したフラボノール配糖体として存在し、白ブドウより赤ブドウに多く含まれています。フラボノール配糖体には抗動脈硬化作用や抗うつ作用などヒトの健康に好ましい機能が認められています。

 ブドウの種子や果皮の抽出液にはプロアントシアニジンやレスベラトロールとよばれるポリフェノールが含まれており、これらの物質には強い抗酸化活性が認められています。プロアントシアニジンとはフラボノイドの一種であるフラバノール(カテキンなど)が複数個結合した無色の物質であり、塩酸などのような無機酸で加熱処理すると結合が切れて有色のアントシアニジンを生じるものです(プロアントシアニジンとはアントシアニジンの前駆体という意味です)。エピカテキンの重合体はプロシアニジンとよばれ、酸処理によりシアニジンを生じ、エピガロカテキンの重合体はプロデルフィニジンとよばれ、酸処理によりデルフィニジンを生じます。プロアントシアニジンはブドウだけでなく、ブルーベリーやクランベリー、ココアなどにも含まれています。本章「ツツジ目の果物①カキ」で説明したカキタンニンはエピカテキンやエピガロカテキンなどが重合したものなので、プロアントシアニジンの一種です。プロアントシアニジンには、動物実験において動脈硬化抑制作用や胃潰瘍抑制作用、大腸癌抑制作用、白内障抑制作用、糖尿病合併症抑制作用などが報告されており、また、ヒトにおいて皮膚の色素斑(しみ)の改善効果や筋力トレーニング後の抗筋肉疲労効果などが報告されています。

 レスベラトロールresveratrolはスチルベノイドとよばれるスチルベン誘導体の一種で、1939年に日本の高岡道夫によりバイケイソウ(Veratrum album)という植物から発見され、分子内にレゾルシノールresorcinolの構造をもつことから命名されました。レスベラトロールには高脂血漿の改善や脳保護効果、食欲抑制効果、インスリン抵抗性改善などの作用があり、老化を遅らせ寿命を延長させる働きがあるのではないかと期待されています。プロアントシアニジンやレスベラトロールは白ワインより赤ワインに多く含まれていることや、レスベラトロールは普通のブドウに比べマスカディンブドウに多く含まれていることが知られています。

 ブドウには糖分としてブドウ糖7.3%、果糖7.1%が含まれており(表6-4)、強い甘みがあります。主な有機酸として酒石酸やリンゴ酸が含まれていますが、柑橘類に多く含まれているクエン酸は少量しか含まれていません(総有機酸量:1%以下)。

 2019年における世界のブドウ生産量は7,714万トンであり、果物の中ではオレンジに次いで5番目に多く生産されています(表6-1)。主要な生産国は中国(シェア:18.5%)、イタリア(10.2%)、アメリカ(8.1%)、スペイン(7.4%)、フランス(7.1%)、トルコ(5.3%)、インド(3.9%)、チリ(3.5%)、アルゼンチン(3.3%)、南アフリカ(2.6%)などです。世界で生産されるブドウのうち約71%はワイン用に、約27%は生食用に、約2%がレーズン用に利用されています。

 日本で栽培されているブドウの主な品種は巨峰、デラウエア、ピオーネ、シャインマスカット、キャンベルアーリーなどです。2020年における日本のブドウ生産量は163,400トンであり、主な産地は山梨県(21.4%)、長野県(19.8%)、山形県(9.5%)、岡山県(8.5%)、北海道(4.2%)、福岡県(3.9%)、青森県(2.9%)などです。2020年における日本のブドウ輸入量は4万4,370トンであり、主な輸入先はアメリカ(40%)、チリ(28%)、オーストラリア(26%)、メキシコ(6%)です。日本では約90%が生食用に利用されており、ワイン用などに利用される割合は10%程度です。

スグリ

 スグリはユキノシタ目スグリ科スグリ属(Ribes)の落葉低木の総称であり、グーズベリーgooseberryとカラントcurrantに大別されます。カラントは枝に刺(トゲ)がなく、花は総状花序(単花序の一つ)に多数つき、果実は房状になりますが、グーズベリーは枝に刺があり、葉腋に1〜3個の花をつけ、総状花序を形成しません。

 グーズベリーとしてはヨーロッパや西アジア原産のセイヨウスグリ(英名:European gooseberry、学名:Ribes uva-crispaまたはR. grossularia)と北アメリカ原産のアメリカスグリ(英名:American gooseberry、学名:R. hirtellum)がよく知られています。セイヨウスグリの果実は果皮に細かい毛をもつものが多く、果色は緑色や赤色、黄色のものがあります。アメリカスグリの果皮は滑らかで、色は紫色ないし黒色です。両グーズベリーとも栽培化され、多くの品種が開発されています。ホートンHoughtonという品種はセイヨウスグリとアメリカスグリの交雑種です。グーズベリーはビタミンCのよい供給源ですが(品種により可食部100g当たり3885mg)、糖分は比較的少ないようです(品種により果糖:1.73.8%、ブドウ糖:1.23.2%、ショ糖:0.31.4%、総糖含量:3.18.0%)。生食やジャム、ゼリーなどに加工して食されています。2019年における世界のグーズベリー生産量は8万トンです。

 カラント(フサスグリともよばれます)には北ヨーロッパから北アジア原産のクロスグリ(別名:クロフサスグリ、英名:blackcurrant、学名:Ribes nigrum)やヨーロッパ原産のアカスグリ(別名:アカフサスグリ、英名:redcurrant、学名:R. rubrum)などがあります。これらのカラントには多くの栽培品種があります。

 クロスグリはフランス語でカシスcassisとよばれ、日本ではこの呼び名の方が一般的です。カシスの果実は黒紫色をしており、これはデルフィニジンやシアニジンにグルコースあるいはルチノースが結合したアントシアニンに因ります。ルチノースはラムノースとグルコースからなる二糖で、ルチノースの結合したアントシアニンはブルーベリーやビルベリー、ブドウなどには含まれていません。カシスアントシアニンにはピントフリーズ現象などの眼精疲労を改善する働きがあるといわれています。カシスはビタミンC含量が非常に多く、品種により異なりますが可食部100g当たり162284mgも含まれています。日本における2018年のカシス生産量は10.4トンであり、青森県(シェア:72.1%)、北海道(19.2%)および岩手県(8.7%)で生産されています。

 アカスグリの果実は通常赤色をしていますが、シロスグリ(別名:シロフサスグリ、whitecurrant)とよばれる白実品種もあります。アカスグリのビタミンC含量はクロスグリよりかなり少なく、可食部100g当たり33mg程度です。クロスグリならびにアカスグリともにクエン酸含量は約3%と多く、その他に量は少ないもののリンゴ酸や酒石酸も含まれています。糖含量はアカスグリ(約8.8%)よりクロスグリ(約13.1%)の方が多いと報告されています。カラントは酸味が強いため主にジャムやゼリーなどに加工して利用されています。

 2019年における世界のカラント生産量は648,000トンであり、主要な生産国はロシア(64.4%)、ポーランド(19.5%)、ウクライナ(4.1%)、イギリス(2.1%)、ドイツ(1.7%)などです。

パパイア

 パパイア(別名:パパイヤ、英名:papaya、学名:Carica papaya)はアブラナ目パパイア科パパイア属(Carica)の常緑小高木です。原産地はメキシコ南部から中央アメリカ、南米北部にかけてと考えられており、16世紀にスペインの探検隊によって発見され、その後世界の熱帯地域に伝播したといわれています。日本には明治時代に導入され、沖縄や南九州で栽培が始まりました。熟した果実は果物として食べられますが、未熟果の青パパイア(実際の果皮色は緑色です)は野菜として利用されます。マンゴーやアボカド、ライチーなどと並んでトロピカルフルーツのひとつです。主な品種にはサンライズソロやカポホソロ、レインボー、カミヤなどがあります。パパイアには小さな種子が沢山ありますが、石垣珊瑚という種なし品種が国際農林水産業研究センター(国際農研)熱帯・島嶼研究拠点(沖縄県石垣市)で開発され、2008年に品種登録されました。糖分としてはブドウ糖3.7%、果糖3.4%が含まれ、また、ビタミンC(表6-2)やβ-カロテン、β-クリプトキサンチン、葉酸が多く含まれています。

 パパイアにはパパインpapainというタンパク質分解酵素が含まれています。この酵素は未熟な青パパイアには多く存在しますが、熟すにつれて段々と減っていき、完熟したパパイアにはほとんどありません。パパインは食肉軟化剤や消化促進剤として利用されています。

 2019年における世界のパパイア生産量は1,374万トンであり(表6-1)、主要な生産国はインド(シェア:44.0%)、ドミニカ共和国(8.53%)、ブラジル(8.46%)、メキシコ(7.9%)、インドネシア(7.2%)、ナイジェリア(6.2%)などです。

 日本においては2018年に174トンのパパイアが生産されており、主な産地は鹿児島県(32.8%)、沖縄県(28.0%)、宮崎県(25.4%)、千葉県(13.8%)です。2020年に990トンのパパイアが日本に輸入されており、主な輸入先はフィリピン(83%)とアメリカ(17%)です。

アボカド

 アボカド(和名:ワニナシ、英名:avocadoまたはalligator pear、学名:Persea americana)はクスノキ目クスノキ科ワニナシ属(Persea)の常緑高木で、原産地はメキシコ南部から中央アメリカにかけてといわれています。果実が洋梨の形をしており、果皮が動物のワニの皮のようにごつごつしていることから英名でalligator pearとよばれ、それが和名ワニナシの由来になっています。果実には大きな種子が1つあります。メキシコのプエブラ州テワカン渓谷の洞窟で紀元前8,000年頃〜同7,000年頃のアボカドの種子の遺物が見つかっており、おそらく古代メソアメリカ文明の人々により紀元前5,000年以降には栽培化されていたのではないかと考えられています。メソアメリカのモカヤ文明やオルメカ文明、マヤ文明などにおいてアボカドは重要な食料として栽培されていたようです。また、南米ペルーのスーペ渓谷にある紀元前3,000年頃〜同2,000年頃に栄えたカラル遺跡でアボカドの遺物が発見されており、古代アンデス文明においてもアボカドは重要な食料であったと考えられています。

 アボカドにはメキシコ系(Persea americana var. drymifolia)、グアテマラ系(P. americana var. guatemalensis)、西インド諸島系(P. americana var. americana)の3つの変種があります。品種としてはハスやフェルテ、ベーコンなどがよく知られています。世界で栽培されているアボカドの約80%を占めるといわれているハス種はグアテマラ系で、果皮がごつごつし、追熟すると緑色から黒紫色に変わる特徴があります。メキシコ系とグアテマラ系の交配種であるフェルテ種とベーコン種の果皮はなめらかで、追熟しても緑色のままです。ハス種の果皮の色が変化するのは、クロロフィリドaという緑色の色素が減少し、シアニジン-グルコシドというアントシアニンが増加することによると考えられています。アボカドは追熟して果肉が軟らかくなった頃が食べ頃です。果肉の軟化は果肉を構成している細胞の細胞壁のセルロースやペクチンが分解されて、細胞壁が緩くなることによると考えられています。アボカドは脂肪分を豊富に(約20%)含むことから「森のバター」とよばれており、不飽和脂肪酸とくにオレイン酸が多く含まれています。

 2019年における世界のアボカド生産量は718万トンであり(表6-1)、主要な生産国はメキシコ(シェア:32.0%)、ドミニカ共和国(9.2%)、ペルー(7.47%)、コロンビア(7.45%)、インドネシア(6.4%)、ケニア(5.1%)などです。

 アボカドは2014年以降日本においても生産されるようになり、2018年の生産量は9.5トンです。主な産地は和歌山県(76.8%)、愛媛県(15.8%)、鹿児島県(7.4%)です。2020年における日本のアボカド(主にハス種)輸入量は7万9,560トンであり、主な輸入先はメキシコ(86%)とペルー(11%)です。

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