バラ目の果物には、表6-5に示すようにバラ科のイチゴ、ラズベリー、モモ、スモモ、アンズ、サクランボ、ナシ、リンゴ、ビワ、クワ科のイチジクなど多くのものがあります。
①イチゴ
イチゴ(苺、英名:strawberry)は一般的にはバラ科オランダイチゴ属(Fragaria)の多年草の栽培種であるオランダイチゴ(学名:Fragaria x ananassa)の果実を指します。イチゴは草本性植物ですので果実的野菜に分類されます。オランダイチゴは北米原産のバージニアイチゴ(Fragaria virginiana)とチリ原産のチリイチゴ(F. chiloensis)の交雑により18世紀にオランダで開発されました。学名の中のxは交雑種であることを意味します。日本には江戸時代にオランダ人により持ち込まれましたが、本格的に栽培されるようになったのは明治以降のようです。
イチゴの食用部分は花托(花床)とよばれる花びらや雄しべ、雌しべ、萼(ガク)などがつく部分が特に発達し、ふくらんだものです。イチゴの1個の花には100以上の雌しべがついており、雌しべが受粉し、子房が発達してできる実際の果実は花托の表面にたくさん付いているゴマのようなものです。イチゴのように花托が大きくふくらんでできる果実は偽果の一種で、イチゴ状果といいます。
イチゴにはビタミンCが多く(可食部100g当たり62mg)含まれています(表6-2)。糖分含量は5.9%(ブドウ糖:1.6%、果糖:1.8%、ショ糖:2.5%)で、それほど多くはありません(表6-4)。
2019年における世界のイチゴ生産量は889万トンであり(表6-1)、主要な生産国は中国(シェア:36.2%)、アメリカ(11.5%)、メキシコ(9.7%)、トルコ(5.5%)、エジプト(5.2%)、スペイン(4.0%)などです。
日本で開発されたイチゴの品種には、とちおとめ、あまおう、ひのしずく、紅ほっぺ、さちのか、さがほのかなど多数あり、糖度の高いものも開発されています。2019年の日本におけるイチゴ生産量は16万5,200トンであり、主な産地は栃木県(15.4%)、福岡県(10.1%)、熊本県(7.6%)、長崎県(6.7%)、静岡県(6.4%)、愛知県(6.1%)、茨城県(5.6%)などです。
②ラズベリー・ブラックベリー
バラ科キイチゴ属(Rubus)は13亜属subgenusに分けられ、その内のIdaeobatus亜属に属するものをラズベリーraspberry、Rubus亜属に属するものをブラックベリーblackberryと総称しています。キイチゴ属の果実はキイチゴ状果とよばれ、1つの花にある複数の雌しべに由来する小核果drupelet(後述するスモモ属の核果の小型のもの)の集まった集合果です。イチゴ状果と異なり花托は発達していません。ラズベリーとブラックベリーの違いは、前者の小核果は有毛で、花托から簡単に離れますが、後者の小核果は無毛で艶があり、花托に密着している点です。
ラズベリーの代表的な種には小アジア(アナトリア)原産のヨーロッパキイチゴ(英名:European raspberry、学名:Rubus idaeus subsp. idaeus)、北アメリカ原産のアメリカイチゴ(別名:アメリカンレッドラズベリー、英名:American raspberryまたはAmerican red raspberry、学名:R. strigosus)やブラックラズベリー(別名:クロミキイチゴ、英名:black raspberry、学名:R. occidentalis)などがあります。日本にもヨーロッパキイチゴの亜種であるエゾイチゴ(R. idaeus subsp. melanolasius)やミヤマウラジロイチゴ(R. idaeus subsp. nipponicus)などが分布しています。
2019年における世界のラズベリー生産量は82万2,500トンであり、主要な生産国はロシア(シェア:21.2%)、メキシコ(15.7%)、セルビア(14.6%)、アメリカ(12.5%)、ポーランド(9.2%)、スペイン(7.3%)などです。
日本における2018年のラズベリー生産量は4.7トンであり、秋田県(51.1%)、山形県(29.8%)、北海道(19.1%)で生産されています。
ブラックベリーの代表的な種にはヨーロッパ原産のセイヨウヤブイチゴ(西洋薮苺、英名:European blackberry、学名:Rubus fruticosus)や北アメリカ東部原産のアレゲニーブラックベリー(英名:Allegheny blackberry、学名:R. allegheniensis)などがあります。果実の色は成熟するに従い黄緑色→赤紫色→黒紫色に変化し、黒くなったときが食べごろです。
③モモ
バラ科スモモ属(Prunus)はサクラ属(Cerasus)ともよばれ、モモやアーモンドなどを含むモモ亜属(Amygdalus)、スモモ、プルーン、アンズ、ウメなどを含むスモモ亜属(Prunophora)、サクランボなどを含むオウトウ亜属(Cerasus)など5つの亜属に分類されています。スモモ属の果実は核果drupe(あるいは石果stone fruit)とよばれ、外側から果皮(外果皮)、果肉(中果皮)ならびに内果皮が硬化した堅い核stone(石細胞stone cellからできています)からなり、核の中に種子(仁ともよばれます)があります。アーモンドの果肉は薄く食用にはなりませんが、核の中の種子を食用にします。
モモ(桃、英名:peach、学名:Prunus persica)は中国原産の落葉小高木です。種小名がpersicaになっているのは、かつてモモの原産地はペルシア地方(現在のイラン)であると考えられていたことによります。モモはシルクロードを通って、中国から西アジアそしてヨーロッパへと伝播していったと考えられています。日本には縄文時代前期には渡来し、長崎県伊木力遺跡から紀元前4,000年頃のモモのタネ(桃核)が出土しています。桃核が見つかっている縄文遺跡は限られていますが、弥生時代後期になるとモモの出土数が飛躍的に増加しています。
古くから日本で栽培されていたモモは先端が尖った「尖り尻型」でしたが、現在食用にされているものは「丸尻型」がほとんどです。「尖り尻型」は中国北方系の品種で主に天津水蜜桃系のものであり、「丸尻型」は南方系の上海水蜜桃系の品種で、明治時代に輸入され品種改良されたものです。現在日本で栽培されている主要な品種は、あかつき、白鳳、川中島白桃、日川白鳳、清水白桃などです。
モモの変種にネクタリン(和名:ズバイモモ、英名:nectarine、学名:Prunus persica var. nectarina)というものがあります。原産地は中央アジアのトルキスタン地方で、6〜7世紀頃に誕生したといわれています。日本には明治時代に導入されました。普通のモモには果皮にうぶ毛がありますが、ネクタリンにはうぶ毛がなくツルツルしています。ファンタジアや秀峰、メイグランド、ハルコ、フレーバートップなどの品種があります。
モモにはショ糖が6.8%と多く含まれています(表6-4)。食物繊維のペクチンが豊富で、整腸作用(便秘改善効果)が期待できます。
品質の良いモモを生産するために「摘果」という作業が行われています。摘果された未熟なモモ果実は殆どが廃棄されていましたが、近年摘果モモを砂糖漬けや酢漬けなどにした加工品開発が進んでいます。モモの核が生育する前に摘果される摘果モモにはプルナシンという青酸配糖体が含まれており、十分な安全性評価が必要です(後述する「バラ科果物の青酸配糖体」を参照)。
2019年における世界のモモ・ネクタリン生産量は2,574万トンです(表6-1)。中国が世界シェア61.5%を占め断トツであり、2位以下はスペイン(6.0%)、イタリア(4.8%)、ギリシャ(3.6%)、トルコ(3.2%)、アメリカ(2.9%)、イラン(2.3%)などとなっています。
日本における2020年のモモ・ネクタリン生産量は9万8,900トンであり、主な産地は山梨県(30.7%)、福島県(23.1%)、長野県(10.4%)、山形県(8.6%)、和歌山県(6.7%)、岡山県などです。
④スモモ
スモモ(李または酢桃、英名:Japanese plum あるいはAsian plum、学名:Prunus salicina)はスモモ属(Prunus)スモモ亜属(Prunophora)の落葉小高木です。中国原産で、日本には奈良時代に伝わったとされています。スモモの名は、果実の酸味がモモより強いことに由来します。
果形は円形から卵円形をしており、果皮は紅色や紫色、緑色を呈し、果肉は黄色や赤色をしています。大石早生やソルダム、太陽、貴陽、秋姫、サンタローザなど多くの品種があります。最近では品種改良され、糖度の高いものが出てきています。
⑤プルーン
プルーンpruneは一般的にはスモモの近縁種であるセイヨウスモモ(英名:European plum、学名:Prunus domestica)のことをいいます。セイヨウスモモはPrunus spinosaとPrunus cerasifera var. divaricataの交雑種であるといわれており、学名はPrunus x domesticaと記載されることがあります。原産地はコーカサス地方で、ギリシャ・ローマを経て、ヨーロッパで広く栽培されるようになりました。日本には明治初期に導入されましたが定着せず、長野県を中心に栽培が本格化したのは昭和の後半になってからです。ヨーロッパでは生のスモモをプラム、乾燥したものをプルーンとよぶようです。
果形は基本的には楕円形で、果皮は赤紫〜青紫色、果肉は黄褐色をしています。品種としてはサンプルーンやシュガー、スタンレイ、くらしまなどがあります。
現在ドライプルーンの一大産地となっている米国カリフォルニアに、フランスの植木職人ルイ・ペリエがプルーンの苗木を最初に持ち込んだのは1856年のことです。現在カリフォルニアで生産されているプルーンのほとんどはダジャンという品種で、フレンチプルーンと呼称されています。このプルーンは水分18%くらいまで乾燥して出荷されます。
2019年における世界のスモモ(プルーンを含む)生産量は1,260万トンです(表6-1)。中国が世界シェア55.5%を占め断トツであり、2位以下はルーマニア(5.5%)、セルビア(4.4%)、チリ(3.7%)、イラン(2.8%)、アメリカ(2.7%)、トルコ(2.5%)などとなっています。
2020年における日本のスモモ生産量は1万6,500トンであり、主な産地は山梨県(32.2%)、長野県(15.2%)、山形県(11.0%)、和歌山県(9.9%)、青森県(5.7%)などです。
⑥アンズ
アンズ(杏子/杏、別名:唐桃、英名:apricot、学名:Prunus armeniaca)はスモモ属(Prunus)スモモ亜属(Prunophora)の落葉小高木で、中央アジア原産であるといわれています。アンズの果実は熟すと甘味が生じ、果肉が核から離れますが、ウメの果実は完熟しても果肉は甘くならず、果肉と核は離れないという性質があります。果形は円形で、果皮・果肉とも橙色のものが多いです。アンズは果物の中で赤肉系メロン(本章「果実的野菜①メロン」を参照)に次いでβ-カロテンの含有量が高い(可食部100g当たり1,400μg)のが特徴です。
酸味の強い品種(平和や昭和、山形3号など)は干し杏やジャム、シロップ漬けなどに利用され、酸味が弱く甘味の強い品種(ハーコットやゴールドコット、おひさまコットなど)は生食用に利用されます。青森県で生産される八助という品種(アンズとウメの交雑種といわれ、八助梅ともよばれています)は、梅干しのように加工されて食べられています。
アンズの核の中の種子すなわち杏仁(キョウニンあるいはアンニン)は漢方薬(鎮咳剤や去痰剤など)として利用されます。中国では杏仁を収穫するために紀元前から栽培されていたようです。日本では遅くとも平安時代には杏仁を収穫するために栽培が行なわれていたと考えられています。杏仁豆腐(アンニンドウフ)は杏仁を粉末状にしたもの(杏仁霜)に甘味料や牛乳などを加え、ゼラチンや寒天で固めたものであり、現在では中国料理の代表的なデザートになっていますが、もともとは薬膳料理として利用されていました。
2019年における世界のアンズ生産量(後述するウメを含みます)は408万トンであり(表6-1)、主要な生産国はトルコ(シェア:20.7%)、ウズベキスタン(13.1%)、イラン(8.1%)、イタリア(6.7%)、アルジェリア(5.1%)などです。
日本における2018年のアンズ生産量(ウメを含みません)は1,628トンであり、そのうちのほとんどは青森県(61.6%)と長野県(38.3%)で生産されています。
⑦ウメ
ウメ(梅、英名:Japanese apricot、学名:Prunus mume)はスモモ属(Prunus)スモモ亜属(Prunophora)の落葉高木であり、原産地は中国中南部の山岳地帯といわれています。弥生時代前期以降の遺跡からウメの自然木の断片やウメのタネ(梅核)が発掘されていますが、縄文遺跡からはウメの遺物は発掘されていないことから、ウメは弥生時代以降に渡来したと考えられています。
日本最古の歌集である「万葉集」(大伴家持が編纂に携わったと考えられています)に、天平2年正月13日(西暦730年2月8日)に太宰府(福岡県)の大伴旅人(大伴家持の父)の邸宅で催された宴で詠まれた梅花の歌32首が掲載されていますが、その序文に山上憶良の作と思われる「初春の令月にして、気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫す」という一節があります。平成に続く元号令和は、この「初春令月、気淑風和」から考案されました。
日本で最も多く栽培されている品種は南高で、作付面積の約50%を占めています。その他に白加賀、竜峡小梅、豊後(ブンゴ:ウメとアンズの交雑種)、小粒南高などの品種があります。
ウメの果実は梅干しや梅酒、梅漬けなどに加工して利用され、日本人には馴染みの深いものです。梅干しには抗菌作用があるといわれていますが、これは梅干しに含まれている有機酸(クエン酸、リンゴ酸、酢酸など)のうち、おもにクエン酸によると考えられています。ウメの青酸配糖体については後述します。
日本における2021年のウメ生産量は10万4,600トンです。和歌山県は64.5%のシェアを占め断トツであり、2位以下は群馬県(5.5%)、三重県(1.55%)、神奈川県(1.52%)、福井県(1.51%)、山梨県(1.41%)、奈良県(1.38%)の順になっています。
⑧サクランボ
サクランボ(別名:桜桃、英名:cherry)はスモモ属オウトウ亜属(Cerasus)のミザクラ(実桜)の果実で、栽培品種の祖先は主にセイヨウミザクラ(Prunus avium)とスミミザクラ(P. cerasus)です。原産地は、セイヨウミザクラがイラン北部からヨーロッパ西部にかけてであり、スミミザクラは西アジアのトルコ辺りとされています。
セイヨウミザクラが日本に伝えられたのは明治初期です。セイヨウミザクラの果実は甘く(ブドウ糖:7.0%、果糖:5.7%、ショ糖:0.2%、表6-4)、生食に適しています。日本で栽培されているサクランボの品種(佐藤錦、高砂、紅秀峰、ナポレオンなど)のほとんどはセイヨウミザクラです。一方、スミミザクラの果実は酸味が強く生食には不向きであり、主に料理に用いられています。
2019年における世界のサクランボ生産量は260万トンであり、主要な生産国はトルコ(シェア:25.6%)、アメリカ(12.4%)、チリ(9.0%)、ウズベキスタン(6.8%)、イラン(4.9%)、スペイン(4.5%)などです。
日本における2021年のサクランボ生産量は1万3,100トンです。山形県は69.9%のシェアを占め断トツであり、2位以下は北海道(11.5%)、山梨県(7.2%)、秋田県(2.7%)の順になっています。日本は2020年に4,300トンのサクランボを輸入していますが、そのほとんど(92%)はアメリカからです。
⑨ナシ
ナシ(梨)はバラ科ナシ属(Pyrus)の植物で、おもにニホンナシ(日本梨、別名:和梨、英名:Japanese pear あるいはsand pear、学名:Pyrus pyriforia var. culta)、セイヨウナシ(西洋梨、別名:洋梨、英名:European pear、学名:P. communis var. sativa)、チュウゴクナシ(中国梨、別名:白梨、英名:Chinese white pear、学名:P. ussuriensis var. culta)の3種の果実が食用に利用されています。
ナシの果実は、子房のまわりを包むように発達した花托が多肉質になったもので、ナシ状果とよばれ、偽果の一種です。
日本梨は中部以南に自生する野生種ニホンヤマナシ(P. pyriforia var. pyriforia)の栽培品種群であり、ニホンヤマナシのルーツは中国長江流域原産の沙梨(あるいは砂梨)(シャーリー)であろうと考えられています。静岡県の登呂遺跡(紀元1〜2世紀)で梨の種子が発掘されており、梨は遅くとも弥生時代後期には中国から日本に渡来していたと思われます。奈良時代に完成した「日本書紀」には五穀(米、麦、粟、稗、豆)の他に梨や栗などの栽培を奨励する記述があります。梨の栽培が本格化したのは江戸時代に入ってからといわれており、棚栽培が考案され、多くの品種が誕生しました。日本梨の特徴はなんといってもシャリシャリとした食感で、これは細胞壁にペントサンpentosan(アラビノースやキシロースなどの五炭糖すなわちペントースpentoseからなる多糖)やリグニンligninという物質を豊富にもつ石細胞stone cellが果肉に多く含まれているからです。日本梨が英語でsand pearともよばれるのはこのためです。西洋梨には石細胞が少なく、シャリシャリとした食感はありません。中国梨には日本梨と同様にシャリシャリ感があります。日本梨は赤梨と青梨に分類され、赤梨は豊水や幸水、新高(ニイタカ)など果皮が茶色い品種であり、青梨は二十世紀のように果皮が緑色の品種です。2020年における日本梨の生産量は17万500トンであり、主な生産地は千葉県(シェア:10.7%)、長野県(8.0%)、茨城県(7.9%)、福島県(7.6%)、栃木県(6.6%)、鳥取県(6.2%)などです。
ナシには表6-4に示すように糖分として果糖やブドウ糖、ショ糖が含まれていますが、これらの他にソルビトールという糖アルコール(7章甘味料「甘味物質と甘味度②糖アルコール」を参照)が日本梨で1.5%、西洋梨で2.8%と比較的多く含まれています。ソルビトールには便通を整える効果があります。
西洋梨の原産地は温帯ヨーロッパから西アジアにかけてであり、紀元前1,000年頃には古代ギリシャで栽培されていたようです。その後、ローマ人によりヨーロッパ各地に伝播しました。西洋梨は日本梨と異なり、収穫直後は硬く、甘味もあまり感じられないため、適正な温度管理下で2週間から1ヶ月程度追熟させる必要があります。追熟の間に果肉に含まれているデンプンが分解され、果糖やブドウ糖、ショ糖に変化し甘味が増すとともに、多糖の一種のペクチンが水不溶性から水溶性のものに変化するため、果肉にトロッとした滑らかさがつきます。さらに酢酸ヘキシルや酢酸ブチル、酢酸エチルなどの香気成分が発生し、西洋梨に特有の芳香が生まれます。西洋梨の代表的な品種にはラフランスやバートレット、ルレクチエ、オーロラ、ブランデーワイン、マルゲリットマリーラ、ゼネラルレクラークなどがあります。オーロラ、ラフランス、マルゲリットマリーラは西洋梨の中でも特に香気の強い品種です。
西洋梨は明治時代初頭に日本に導入されましたが、あまり定着しませんでした。本格的に栽培されるようになったのは昭和時代後期になってからで、山形県を中心に東北地方で主に栽培されています。日本で主に栽培されている品種はラフランス、ルレクチエ、バートレット、オーロラ、ゼネラルレクラークなどです。2020年における日本の西洋梨生産量は2万7,700トンであり、山形県は69.0%のシェアを占め断トツです。第2位は新潟県(7.2%)、第3位は青森県(6.2%)となっています。
中国梨は中国東北部原産の秋子梨(シュウシリ、英名:Ussurian pear、学名:P. ussuriensis var. ussuriensis)を起源種とし、日本梨のようなシャリシャリとした食感と西洋梨のような芳香を有するのが特徴です。英名ならびに種小名はウスリー川(烏蘇里江、Ussuri:中国東北地区とロシア極東地方の国境の一部をなし、北流してアムール川に注ぎ込んでいます)に由来します。日本の東北地方に自生するイワテヤマナシ(P. ussuriensis var. aromatica)は秋子梨と遠縁になります。品種としては千両(別名:身不知)や鴨梨(ヤーリー)、慈梨(ツーリー)などがありますが、日本における生産量はごくわずかです。
2019年における世界のナシ生産量は2,392万トンであり(表6-1)、中国はそのうちの71.1%のシェアを占めています。2位以下はアメリカ(2.8%)、アルゼンチン(2.5%)、トルコ(2.2%)、イタリア(1.8%)、南アフリカ(1.7%)、オランダ(1.6%)の順になっています。日本は世界シェア1.0%で12位にランクされています。
⑩リンゴ
リンゴはバラ科リンゴ属(Malus)の落葉高木樹の果実で、世界中で栽培されているものはセイヨウリンゴ(西洋林檎、英名:apple、学名:Malus domesticaまたはM. pumila)です。セイヨウリンゴは中央アジアのカザフスタンでM. sieversiiという野生リンゴcrabappleから最初に栽培化され、その後、シルクロードに沿ってヨーロッパに伝播し、ヨーロッパ原産の野生リンゴM. sylvestrisと交雑しながら、現在のリンゴが生まれたと考えられています。
セイヨウリンゴは17世紀にヨーロッパから北アメリカに移入され、品種改良によりレッドデリシャスやゴールデンデリシャス、紅玉(英名:ジョナサンJonathan)、国光(英名:ロールスジャネットRalls Janet)、ジョナゴールドなど多くの品種が開発されました。
日本には1854年に江戸板橋の加賀藩下屋敷で、また、1862年に江戸巣鴨の福井藩下屋敷でそれぞれアメリカから移入されたセイヨウリンゴが栽培されていたという記録があります。1871年(明治4年)に北海道開拓使次官の黒田清隆が、アメリカから持ち帰った75品種のリンゴの苗木を北海道渡島国亀田郡七重村(現在の北海道七飯町)の七重官園に植栽し、そこから日本各地へ配布されました。リンゴ栽培は明治政府による殖産興業政策の一環として行なわれ、明治維新後の廃藩により職を失った士族を救済する目的がありました。現在リンゴ生産量が日本一の青森県には1875年(明治8年)に3本の苗木が配布され、県庁構内に植栽されたのが青森リンゴの始まりです。その後、七重官園で接木法を習得した菊池楯衛(元弘前藩士)が中心となり、弘前で苗木の生産・販売を行い、リンゴ栽培は津軽地方を中心に広がっていきました。栽培の中心を担ったのは弘前藩の元士族でした。現在、日本および世界で最も多く生産されているリンゴの品種ふじは、1939年(昭和14年)に国光とレッドデリシャスを交配して誕生しました(品種登録されたのは23年後の1962年です)。品種名は育成地である青森県藤崎町に由来します。ふじの他に日本で開発された品種として、王林(オウリン)や陸奥(ムツ)、津軽(ツガル)、千秋(センシュウ)、世界一(セカイイチ)、黄王(キオウ)など数多くあります。
日本にはワリンゴ(和林檎、英名:Chinese pearleaf crabapple、学名:Malus asiatica)やヒメリンゴ(別名:イヌリンゴ、学名:M. prunifolia)とよばれるものが古くから栽培されています。これらのリンゴは中国が原産で、平安時代から鎌倉時代にかけて日本に渡来したと考えられています。ワリンゴやヒメリンゴは直径2〜4cm程度の小さな果実で、明治以降はセイヨウリンゴに押されて日本各地から徐々に姿を消していきましたが、リンキ(青森県)や加賀リンゴ(石川県)、高坂リンゴ(長野県)とよばれるワリンゴの系統のものは今も残っています。長野県の農園で偶然見つかったアルプス乙女という品種(直径5cm前後)はふじとヒメリンゴの交雑種と推定されています。
リンゴの果実はナシと同じようにナシ状果で、花托が発達した部分を食用にします。リンゴの実は、成りはじめのころは緑色をしていますが、熟成にともない赤色に変わります。これは果皮に赤い色素アントシアニンが蓄積することによります。アントシアニンを合成できない品種は、黄色いリンゴ(王林、黄王などが有名です)というわけです。リンゴの芯の付近にできる蜜は糖アルコールのソルビトールというもので、リンゴが完熟した証です(1章植物「光合成産物の行方」を参照)。
リンゴにはリンゴ酸という有機酸が含まれていますが、この物質は1785年にスウェーデンの化学者カール・ヴィルヘルム・シェーレによりリンゴジュースから初めて分離されました(「ムクロジ目の果物⑨レモン」で後述するように、シェーレはクエン酸も分離しています)。リンゴ酸は1787年にフランスの化学者アントワーヌ・ラヴォアジエによりフランス語でacide maliqueと命名され、英語ではmalic acidとよばれています。フランス語のmaliqueはリンゴを表すラテン語malumに由来します(リンゴ属Malusもmalumに由来)。リンゴ酸はリンゴ(含量:0.51〜0.65%)やブドウ(0.43〜0.62%)、サクランボ(0.67%)、モモ(0.19〜0.47%)などの主要な有機酸であり、これらの果物に爽やかな酸味を与えます。
リンゴは世界でスイカに次いで3番目に多く生産されている果物です(表6-1)。2019年における世界の生産量は8,724万トンであり、中国が断トツで48.6%の世界シェアを占めています。2位以下はアメリカ(5.7%)、トルコ(4.1%)、ポーランド(3.5%)、インド(2.7%)、イタリア(2.64%)、イラン(2.57%)、ロシア(2.2%)、フランス(2.0%)の順になっています。
日本においてリンゴはウンシュウミカンに次いで2番目に多く生産されている果物です。2020年における日本の生産量は76万3,300トンであり、1位は青森県(シェア:60.7%)、2位は長野県(17.7%)、3位は岩手県(6.2%)となっています。品種別では、ふじが全収穫量の51%、つがるが11%、王林が7%、ジョナゴールドが6%を占めています。
⑪ビワ
ビワ(枇杷、英名:loquat、学名:Eriobotrya japonica)は中国南部地方原産のバラ科ビワ属(Eriobotrya)の常緑高木で、奈良時代から平安時代に日本に渡来したといわれています。寒さに弱いため、九州や四国、関西、房総半島など温暖な地域で栽培されています。11月〜2月頃に強い芳香のある白い花を咲かせ、5月〜6月頃に多汁質でほどよい酸味と甘味のある果実(ナシ状果)をつけます。果肉はオレンジ色をしており、β-カロテンやβ-クリプトキサンチンが多く含まれています。
ビワの主な品種としては、茂木(モギ)や長崎早生、田中、大房(オオブサ)、なつたよりなどがあります。ビワの実には大きな種子が数個入っていますが、千葉県農林総合研究センターで種なしビワの希房(キボウ)という品種が開発されています。
日本における2021年のビワ生産量は2,890トンであり、主な産地は長崎県(シェア:30.3%)、千葉県(15.4%)、香川県(7.9%)、鹿児島県(6.7%)、愛媛県(6.1%)、兵庫県(5.6%)などです。
⑫イチジク
イチジク(無花果、英名:fig tree、学名:Ficus carica)はクワ科イチジク属(Ficus)の落葉小高木の果実です。原産地はアラビア半島南部で、そこからシリアや小アジア(アナトリア)、地中海沿岸地域などに伝播していきました。メソポタミアでは6,000年以上前に栽培化されたといわれています。8世紀頃ペルシアから中国に伝わり、日本には江戸時代に中国から渡来したとされています。
古代エジプト遺跡の壁画に描かれているイチジクは、中央アフリカ原産のエジプトイチジク(英名:sycamore、学名:Ficus sycomorus)という種で、普通のイチジクとは異なります。
イチジクは漢字で無花果と書きますが、これは花がないわけではありません。花托が発達して中央部がくぼんだ壷状になり、その中に多数の小さな花が並んでいますが、外側からは見えないため無花果という字が当てられました。花からはやがて小さな果実がたくさんできるので多花果といいます。このようなイチジクの実は偽果の一種でイチジク状果とよばれます。
イチジクには糖分としてブドウ糖と果糖が多く含まれています(表6-4)。食物繊維のペクチンも豊富なため、ジャムなどに加工されます。また、タンパク質分解酵素のフィシンficin(属名のFicusに由来)を含むため、肉料理のつけ合わせなどに用いられます。
2019年における世界のイチジク生産量は131万6,000トンであり、主要な生産国はトルコ(シェア:23.6%)、エジプト(17.1%)、モロッコ(11.6%)、イラン(9.9%)、アルジェリア(8.9%)、スペイン(4.0%)などです。
日本では桝井ドーフィンという品種(明治42年に広島県の桝井光次郎が米国カリフォルニアから導入)が最も多く栽培されており、全生産量の約80%を占めています。その他の品種には蓬莱柿(ホウライシ)、とよみつひめ、ビオレソリエス、スミルナなどがあります。2018年における日本のイチジク生産量は1万474トンであり、主な産地は和歌山県(19.3%)、愛知県(17.1%)、大阪府(12.8%)、兵庫県(11.6%)、福岡県(8.5%)などです。