枕石漱流

4章 植物油

目次

はじめに/ 植物油の主成分/ アブラナ/ ヒマワリ/ ベニバナ/ ワタ/ エゴマ/ ゴマ/ オリーブ/ アマ/ アブラヤシ/ WWFとRSPO認証/ ココヤシ/ サラダ油/ マーガリン/ 参考文献

はじめに

 植物油vegetable oilは植物の種子や果肉に含まれている油oil(生化学的には脂質lipidといいます)を搾油(圧搾や抽出)して得られるものです。脂質はすべての植物に含まれていますが、実際には脂質を多く含む植物体を原料に選んで、植物油は得られています。種子から得られるものとしては、2章穀類で述べた米油や小麦胚芽油、コーン油、3章豆類で述べた大豆油やピーナッツ油などがあり、果肉から得られるものにはパーム油やオリーブ油などがあります。世界ではその他にも多くの種類の植物油が生産されています。表4-12016年における世界の主要な植物油の生産量を示します。総生産量は約1.9億トンにもなります。世界で最も多く生産されている植物油はパーム油で、2番目が大豆油、3番目が菜種油となっています。単位面積(1ヘクタールha)当たりのパーム油の収穫量は約3,700kgであり、菜種油の約800kg、大豆油の約550kgと比べて飛び抜けて高いことが、生産量が多い要因です。

表4-1 世界の植物油の生産量(2016年)

植物油の主成分

 植物油の主成分は中性脂肪のトリアシルグリセロール(別名:トリグリセリド)です。トリアシルグリセロールはグリセリンという三価アルコールに種々の脂肪酸のアシル基が3つ結合したエステルです。表4-2に示すように、トリは3個を表す数の接頭辞です。脂肪酸はカルボキシ基(-COOH)をもち、炭化水素が直鎖状につながったものです。脂肪酸には炭素鎖に二重結合をもたない飽和脂肪酸と二重結合をもつ不飽和脂肪酸があります。脂肪酸の種類と性質を表4-3に示します。

 飽和脂肪酸は、炭素鎖が長くなるほど融点が高くなります。不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸より融点が低く、同じ炭素数の不飽和脂肪酸では二重結合の数が多いほど融点が低くなります。

 種々の植物油に含まれている各種脂肪酸の割合を表4-4にまとめて示します。例として米油をとりあげると、米油には融点の低い不飽和脂肪酸のオレイン酸とリノール酸が高い割合で含まれているため、常温(日本薬局方では常温は1525℃と定められています)では液体です。これに対して、ヤシ油は融点の高い飽和脂肪酸のラウリン酸とミリスチン酸を高い割合で含むので、常温では固体です。

表4-2 数の接頭辞
表4-3 主な脂肪酸の性状
表4-4 植物油に含まれている主な脂肪酸

アブラナ

 アブラナ(油菜、別名:菜の花、菜種、英名:turnip rape、学名:Brassica rapa var. nippo-oleifera)はアブラナ目アブラナ科アブラナ属(Brassica)の植物で、黄色一色に覆われる「菜の花畑」として日本の春の風物詩の1つに挙げられます。英名のturnipはカブを、rapeはアブラナを意味します。野生種はアフガニスタン、イラン、トルコなどの西アジアからウクライナ、ロシア西部、スカンジナビア半島にかけて分布しています。漢の時代の中国に伝播し栽培化され、様々な野菜を生み出したといわれています。日本には奈良時代に伝来し、長い間野菜として利用されました。アブラナの種子には40%程度の脂質が含まれており、菜種油を採取する方法が16世紀後半に摂津国で考案され、それ以降、江戸時代から昭和の初期まで油糧用として全国的に盛んに栽培されました。現在日本では、アブラナは野菜として栽培されており、開花前に収穫されています。カブやノザワナ、コマツナ、ミズナ、ハクサイ、チンゲンサイなどはアブラナと同じ種Brassica rapaですが、野菜として改良された変種variantです。これらについては5章野菜「アブラナ科の野菜①カブ・ハクサイ類」で詳しく説明します。

 現在、世界中で植物油の原料として広く栽培されているのはセイヨウアブラナ(西洋油菜、英名:rapeseed、学名:Brassica napus)です。学名から分かるように、セイヨウアブラナはアブラナと同属異種であり、西ヨーロッパで約1万年前にアブラナとヤセイカンラン(学名:Brassica oleracea)の種間交雑で生じたと考えられています(5章野菜「アブラナ科の野菜④セイヨウアブラナ類」を参照)。日本には明治初期に導入され、収量が多いことから在来のアブラナと置き換わり、全国的に広く栽培されるようになりました。アブラナは赤種、セイヨウアブラナは黒種とよばれています。従来のセイヨウアブラナには心臓障害を引き起こす恐れのあるエルカ酸(erucic acid:炭素数22の一価不飽和脂肪酸でエルシン酸ともよばれます)が多く含まれていたため、カナダでエルカ酸を含まないキャノーラ品種が開発されました。現在ではキャノーラ油が菜種油として市場にでています。キャノーラ油はオレイン酸を58%、リノール酸を19%含んでおり(表4-4を参照)、常温では液体です。

 菜種油はパーム油、大豆油に次いで世界で3番目に多く生産される植物油です(表4-1)。主要な生産国は中国、ドイツ、カナダ、インドなどです。日本で栽培されるセイヨウナタネの種子の生産量は4千トン程度で、それから得られる菜種油は僅かですが、カナダなどから日本に輸入されるキャノーラ種子から毎年百万トン以上の菜種油が生産されています。菜種油は日本で最も多く消費される植物油です。写真4-1は青森県横浜町で栽培されている「キザキノナタネ」というセイヨウアブラナの品種で、同町では毎年5月に菜の花フェスティバルが開催されています。

写真4-1 青森県横浜町の菜の花畑

ヒマワリ

 ヒマワリ(向日葵、英名:sunflower、学名:Helianthus annuus)は北アメリカ大陸西部原産のキク目キク科ヒマワリ属(Helianthus)の植物で、16世紀にアメリカからスペインに持ち込まれ、その後ヨーロッパ全域に伝播しました。日本には17世紀に伝来しました。現在では油糧用あるいは観賞用に世界中で広く栽培されています。

 ヒマワリの種子には4549%程度の脂質が含まれており、これから得られるヒマワリ油(サンフラワー油)は世界で4番目に多く生産される植物油です(表4-1)。主な生産国はウクライナ、ロシア、アルゼンチンなどです。ヒマワリ油にはリノール酸が多く含まれる(約58%)高リノール酸油、オレイン酸の割合が約57%の中オレイン酸油、ならびにオレイン酸の割合が約80%の高オレイン酸油があり、それぞれ異なる品種から採油されます。表4-4には高リノール酸油の脂肪酸組成のデータを示します。

ベニバナ

 ベニバナ(紅花、英名:safflower、学名:Carthamus tinctorius)はヒマワリと同じキク目キク科の植物ですが、属は異なりベニバナ属(Carthamus)です。原産地はエジプトのナイル川流域といわれており、紀元前2,500年頃のエジプトのミイラの墓から、紅花で染められた黄色や淡紅色の麻のリボンが見つかっています。西アジアからシルクロードを経て中国に伝えられました。奈良県桜井市の纒向(マキムク)遺跡(2世紀末〜4世紀初め)から大量の紅花花粉が見つかっており、弥生時代末期には中国から日本に伝わったと考えられています。奈良時代末期に成立したとみられる「万葉集」には紅花の歌がたくさん詠まれています。

 ♯1044: 紅に 深く染みにし 心かも 奈良の都に 年の経ぬべき

 ♯1297: 紅に 衣染めまく 欲しけども 着てにほはばか 人の知るべき

 ♯1993: よそのみに 見つつ恋ひなむ 紅の 末摘む花の 色に出でずとも

 江戸時代には染料や口紅原料用として現在の山形県の最上川流域で盛んに栽培されていました(「最上紅花」として有名)。紅花は山形県の県花としても知られています。花は咲き始めの頃は黄色ですが、次第に鮮紅色に変化します。黄色はサフラワーイエローsafflower yellowという水溶性色素(サフロミンsafflomin ABCの3種があります)、紅色はカルタミンcarthamin(属名Carthamusに由来)という脂溶性色素によります。いずれの色素もフラボノイドの一種カルコン(1章植物「植物の色」を参照)の仲間であり、染め物などに利用されています。口紅やほお紅にはカルタミンが使われます。江戸時代に紅花で作られた口紅は「小町紅」とよばれ、非常に高価であったようです。

 紅花種子には2040%の脂質が含まれており、食用油として紅花油が採取されます。紅花油はサフラワー油ともよばれますが、上述したサンフラワー油(ヒマワリ油)と間違わないよう注意しましょう。紅花油にはリノール酸が多く含まれる(約70%)高リノール酸油とオレイン酸が多い(約73%)高オレイン酸油があり、それぞれ異なる品種から採油されます。表4-4には高リノール酸油の脂肪酸組成のデータを示します。

ワタ

 ワタcotton plantはアオイ目アオイ科ワタ属(Gossypium)のなかで、綿花栽培に用いられる植物の総称です。主要な栽培種としては以下の4種があります。

  • シロバナワタ(白花綿、Gossypium herbaceum
  • キダチワタ(木立綿、Gossypium arboreum
  • カイトウメン(海島綿、Gossypium barbadense
  • リクチメン(陸地綿、Gossypium hirsutum

 シロバナワタとキダチワタはアジアメンともよばれ、インドが原産地です。インドのモヘンジョダロ遺跡から紀元前3,500年頃の綿糸が発掘されています。インドからシロバナワタは主に西方と北方に広がり、キダチワタは主に東方に広がりました。日本にはおそらくキダチワタが799年に伝来したといわれていますが、本格的に栽培されるようになったのは江戸時代に入ってからのようです。

 カイトウメンはペルーが原産地で、ペルー北部のワカプリエタ遺跡から紀元前4,000年頃の綿織物が見つかっています。リクチメンはメソアメリカが原産で、紀元前5,800年頃のメキシコ遺跡から綿実が発掘されています。現在では、世界の綿花生産の約90%をリクチメンが占めています。

 このようにワタは古くから人類に利用されており、インドやペルーでは織物が作られていたことが窺えます。

 ワタは黄色や白色、淡紅色の美しい花を咲かせます。朔果(サクカ)の内部には3〜5室あり、1室に7〜8個の種子ができます。成熟した朔果は裂開します。種子の表面から白い綿毛fluffが生じて塊状になるので、種子からこれを外して綿(木綿)として利用します。綿毛を除いた種子は綿実cottonseedといい、1824%の脂質を含んでいます。綿実油は世界で約440万トン生産されており(表4-1)、インドと中国がそのうちの約半分を占めています。

エゴマ

 エゴマ(荏胡麻、英名:beefsteak plant、学名:Perilla frutescens var. frutescens)はシソ目シソ科シソ属(Perilla)の植物で、シソとは同種の変種になります(5章野菜「シソ」を参照)。ゴマの名が付されていますが、後述するゴマ(シソ目ゴマ科)とは全く異なる種です。原産地はインド高地やネパール、中国雲南省の高地で、日本には縄文時代早期から前期に渡来したといわれています。エゴマは福島県ではジュウネン、青森県南部地方ではジュネ、岐阜県飛騨地方などではアブラエなどとよばれています。

 エゴマ種子には約43%の脂質が含まれています。エゴマから油が搾られるようになったのは平安時代に入ってからのようです。エゴマ油(荏の油ともよばれます)にはα-リノレン酸というω(オメガ)3脂肪酸が58%含まれており(表4-4)、健康志向からその価値が見直されています(10章水産物「ω3およびω6脂肪酸」を参照)。種子はエゴマ味噌などにして、五平餅やソバ餅につけたり、野菜と和えたりして食べられています。

 エゴマはシソと同種ですので緑色の葉も食べられそうですが、ペリラケトンやエゴマケトンという独特の香り物質が含まれているため、日本人には好まれないようです。ウシがエゴマの葉を食べると急性肺水腫や肺気腫(間質性肺炎)を引き起こしますので、食べさせないよう気を付けてください。

ゴマ

 ゴマ(胡麻、英名:sesame、学名:Sesamum indicum)はシソ目ゴマ科ゴマ属(Sesamum)の植物です。原産地はアフリカのサバンナ地帯といわれており、紀元前4,000年頃に古代エジプトで栽培化されていたようです。紀元前3,000年頃にはインドや中国に伝わり、日本には縄文時代晩期(紀元前1,200年頃)に渡来したとされています。学名の種小名がindicum(インド産)となっているのは、かつてインドで大量のゴマが生産されていたことによります。

 ゴマは白ゴマ、黒ゴマ、金ゴマのように種皮の色で分類されますが、これらは品種ではありません。黒ゴマの種皮にはアントシアニンという色素が含まれています。ゴマの栽培種には3,000品種位あるといわれています。ゴマは胡麻和えや胡麻だれ、胡麻塩、胡麻餡、胡麻煎餅など幅広い用途に利用されます。

 ゴマ油採取用には一般的に白ゴマ(脂質含量:約52%)が用いられます。ゴマは焙煎してから搾油するので、ゴマ油は通常茶褐色で独特の香味をもちます。焙煎しないで搾油したものは色や香りがほとんどなく、「太白胡麻油」などとよばれています。

 ゴマ油の脂肪酸組成はエゴマ油とは大きく異なり、α-リノレン酸が少なく、オレイン酸やリノール酸が多く含まれています(表4-4)。ゴマ油にはセサミンやセサミノールなどのゴマリグナンが含まれており、セサミンには肝臓機能の増強作用やアルコール分解促進作用、コレステロール低下作用など、セサミノールには活性酸素の働きを抑える抗酸化作用が認められています。

オリーブ

 ゴマ(胡麻、英名:sesame、学名:Sesamum indicum)はシソ目ゴマ科ゴマ属(Sesamum)の植物です。原産地はアフリカのサバンナ地帯といわれており、紀元前4,000年頃に古代エジプトで栽培化されていたようです。紀元前3,000年頃にはインドや中国に伝わり、日本には縄文時代晩期(紀元前1,200年頃)に渡来したとされています。学名の種小名がindicum(インド産)となっているのは、かつてインドで大量のゴマが生産されていたことによります。

 ゴマは白ゴマ、黒ゴマ、金ゴマのように種皮の色で分類されますが、これらは品種ではありません。黒ゴマの種皮にはアントシアニンという色素が含まれています。ゴマの栽培種には3,000品種位あるといわれています。ゴマは胡麻和えや胡麻だれ、胡麻塩、胡麻餡、胡麻煎餅など幅広い用途に利用されます。

 ゴマ油採取用には一般的に白ゴマ(脂質含量:約52%)が用いられます。ゴマは焙煎してから搾油するので、ゴマ油は通常茶褐色で独特の香味をもちます。焙煎しないで搾油したものは色や香りがほとんどなく、「太白胡麻油」などとよばれています。

 ゴマ油の脂肪酸組成はエゴマ油とは大きく異なり、α-リノレン酸が少なく、オレイン酸やリノール酸が多く含まれています(表4-4)。ゴマ油にはセサミンやセサミノールなどのゴマリグナンが含まれており、セサミンには肝臓機能の増強作用やアルコール分解促進作用、コレステロール低下作用など、セサミノールには活性酸素の働きを抑える抗酸化作用が認められています。

アマ

 アマ(亜麻、英名:flax、学名:Linum usitatissimum)はキントラノオ目アマ科アマ属(Linum)の植物で、紀元前8,000年頃西アジア(トルコやシリア)で、紀元前5,000年頃にはエジプトで栽培されていました。アマは古くから茎の繊維と種子が利用されてきました。日本では江戸時代元禄の頃に、小石川御薬園(現在の小石川植物園)で種子を薬用に利用するため栽培されていたようです。明治時代になると繊維生産のための国策として北海道でアマの栽培が始められましたが、太平洋戦争後は化学繊維に追いやられて衰退しました。しかしながら、21世紀に入ると「北海道亜麻ルネサンスプロジェクト」により亜麻産業が復活しつつあります。

 属名のLinumはラテン語でアマのことです。リネンlinen(フランス語ではリンネルlinière)はアマの繊維で織った布のことで、linumに由来します。エジプトのミイラはリネンで巻かれていました。ホテルや病院でシーツや枕カバーなどを保管する部屋をリネン室といいます。英語のlinelinumに由来)にはアマの繊維という意味がありますが、転じて糸とか線という意味にも使われます。

 アマの繊維を紡いだ糸は黄色がかった薄茶色をしており、この色を亜麻色とよんでいます。亜麻色は日本古来の色ではなく、明治以降に使われるようになった新しい色名です。

 アマの種子(亜麻仁といいます)には3238%の脂質が含まれており、アマニ油(亜麻仁油、flaxseed oilまたはlinseed oil)が採取されます。アマニ油にはエゴマ油と同じようにα-リノレン酸というω3脂肪酸が多く(約57%)含まれています(表4-4)。

アブラヤシ

 アブラヤシoil palmはヤシ目ヤシ科アブラヤシ属(Elaeis)の植物の総称です。アフリカ西部・南西部のガンビアからアンゴラにかけてのギニア地域を原産とするギニアアブラヤシ(Elaeis guineensis)と中南米の熱帯域原産のアメリカアブラヤシ(Elaeis oleifera)の2種が知られていますが、栽培の主力はギニアアブラヤシの方です。

 アブラヤシの果実の果肉と種子には50%程度の脂質が含まれており、果肉からはからパーム油palm oil、種子からはパーム核油palm kernel oilが採取されます。パーム油は世界で最も多く生産されている植物油です(表4-1)。主な生産国はインドネシアとマレーシアで、世界全体の80%以上を占めています。パーム核油も世界で5番目に多く生産されている植物油で(表4-1)、パーム油と同様にインドネシアとマレーシアが主な生産国であり、両国で世界の80%以上を占めています。。

 パーム油は果肉由来のカロテノイド色素を含むため赤色を呈し、また、飽和脂肪酸で融点の高い(63℃)パルミチン酸を多く含むため(41%、表4-4)、常温では固体です。パルミチン酸palmitic acidの名はパーム油palm oilに由来します。パーム核油はラウリン酸(45%)をはじめカプリル酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸などの飽和脂肪酸を合わせて76%含み(表4-4)、常温では半固体です。

 パーム油やパーム核油は食品(即席麺、マーガリン、パン、ポテトチップス、チョコレート菓子、スナック菓子、揚げ物の冷凍食品など)や調理用油、洗剤、塗料、ロウソク、化粧品など私たちの日常生活に欠かせない製品の原料として広く使われています。

WWFとRSPO認証

 人類が自然と調和して生きることができる未来を築くことを目標として世界自然保護基金(WWF: World Wide Fund for Nature)という国際自然保護団体が設立されています。この団体は1961年に設立され、1986年まではWorld Wildlife Fundとして活動していたため、現在もその略称が用いられています。WWFは①地球温暖化を防ぐ、②持続可能な社会を創る、③野生生物を守る、④森や海を守るという4つの活動テーマを柱に活動をしています。

 上述したように世界で最も多く生産されている植物油はパーム油です。インドネシアとマレーシアの2カ国で生産されるパーム油は世界の生産量の約85%を占めています。アブラヤシの栽培のために熱帯原生林が伐採されて環境破壊が進み、オラウータンやアジアゾウ、スマトラトラなどの希少な野生動物が絶滅の危機に瀕しており、生物多様性が失われようとしています。また、アブラヤシ農園における児童労働が問題となっています。

 世界各地で行なわれているパーム油の生産が、熱帯林の保全や、そこに生息する生物の多様性、森林に依存する人々の暮らしに深刻な悪影響を及ぼすことのないようにするために、WWFを含む7つの関係団体が中心となり2004年に「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」が設立されました。2017年6月現在、RSPOに加入している会員数は世界で約3,400社、日本では約60社です。RSPOには8つの原則と43の基準が設けられており、パーム油の生産過程や流通過程においてこれらの原則と基準が満たされれば、パーム油やパーム油製品にRSPO認証マークを表示できます。欧州連合(EU)においては、2020年までにEUで使用されるパーム油を100RSPO認証油に切り替えることが計画されています。

ココヤシ

 ココヤシ(英名:coconut palm、学名:Cocos nucifera)はヤシ目ヤシ科ココヤシ属(Cocos)の植物で、ポリネシアから熱帯アジアが原産と考えられています。

 ココヤシの果実であるココナツcoconut(いわゆるヤシの実)は内部に大きな胚乳があり、周縁部の固形胚乳と中心部の液状胚乳に分けられます。未熟果の液状胚乳はココナツジュース(ココナツ水ともよばれます)として飲用されます。成熟果の固形胚乳を乾燥したものはコプラとよばれ、脂質が約60%含まれており、ヤシ油(ココナツ油coconut oil)の原料になります。ヤシ油は世界で約340万トン生産されており、フィリピンやインドネシアが主要な生産国になっています。

 ヤシ油にはパーム核油と同じようにラウリン酸が多く含まれており(43%)、また、カプリル酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸などを合わせると飽和脂肪酸が83%を占め(表4-4)、常温では半固体です。

 ココナツジュース(糖質:3.7%、タンパク質:0.7%、脂質:0.2%)に酢酸菌の一種であるナタ菌(アセトバクター・キシリナム)を加えて発酵させると、凝固してゲル状物質のナタデココ(スペイン語:nata de coco、フィリピン発祥)になります。ナタデココはセルロースからなる食物繊維を含み、コリコリとした食感を楽しむことができ、特定保健用食品としても利用されています。

サラダ油

 サラダ油とは、低温下でも長時間結晶化しないように精製された植物油であり、サラダドレッシングやマヨネーズの原料に適しています。表4-3に示すように飽和脂肪酸は融点が高く、常温では固体です。したがって、飽和脂肪酸を多く含む植物油はサラダ油には不適です。一方、不飽和脂肪酸は融点が低く常温では液体なので、不飽和脂肪酸を多く含む植物油はサラダ油に適しています。菜種油(キャノーラ油)、大豆油、コーン油、米油などはサラダ油の原材料として用いられています。

マーガリン

 マーガリンは植物油を原料とした加工食品であり、バターのようにパンに塗って食べるために常温で固体にしています。多くの植物油は不飽和脂肪酸を多く含むため常温では液体です。そこで、不飽和脂肪酸を水素添加反応(水素化)により飽和化して飽和脂肪酸に変え、植物油を硬化させるわけです。この水素化の過程でトランス形の二重結合をもつトランス脂肪酸が生成され、これが冠動脈疾患や認知機能の低下の一因となる可能性が指摘されています。現在は、飽和脂肪酸であるパルミチン酸含量が高く、常温で固化しているパーム油を材料にしたマーガリンが製造されています。油脂含有率80%以上のものがマーガリンであり、80%未満のものはファットスプレッドとよばれています。市販のマーガリンの多くは実際にはファットスプレッドのようです。

参考文献

文部科学省 「日本食品標準成分表 2015年版(七訂) 脂肪酸成分表編」

http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365451.htm

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鬼頭 誠 「食用油脂構成脂肪酸の毒性−生体膜への作用」 化学と生物 21:162-167, 1983

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大澤俊彦 「リグナン類の機能性:特にゴマリグナンを中心に」 日本油化学会誌 48:1041-1048, 1999