枕石漱流

10章 水産物

目次

はじめに/ 世界の漁業と養殖業/ MSC・ASC認証/ 海藻①緑藻②褐藻③紅藻/ クジラ/ スズキ目の魚①スズキ・タイ・オオニベ類②ブリ・スギ類③ティラピア④アジ⑤サバ科の魚⑥カジキ⑦ブラックバス⑧ハタハタ/ サケ科の魚①シロザケ②ベニザケ③クニマス④ギンザケ⑤カラフトマス⑥ニジマス⑦サクラマス⑧マスノスケ⑨タイセイヨウサケ⑩イワナ・オショロコマ⑪イトウ/ カレイ目の魚①カレイ類②ヒラメ類③シタビラメ類/ タラ目の魚①タラ科の魚②メルルーサ科の魚③マクルロヌス科の魚④チコダラ科の魚/ ニシン目の魚①ニシン科の魚②ウルメイワシ科の魚③カタクチイワシ科の魚 /キュウリウオ目の魚①アユ②シシャモ・カラフトシシャモ③チカ・ワカサギ④シラウオ・イシカワシラウオ/ ウナギ目の魚①ウナギ②アナゴ③ハモ/ 参考文献

はじめに

水産物とは魚介類と海藻のことです。魚介類は水産動物の総称であり、クジラなどの海棲哺乳類を含みます。私たち人類は、海棲哺乳類、魚類(サケやマグロなどの硬骨魚類、サメやエイなどの軟骨魚類、ヤツメウナギなどの無顎類)、頭足類(イカやタコなど)、甲殻類(エビやカニなど)、ホヤ類、貝類、ウニ類、ナマコ類、クラゲ類、海藻類(ノリやワカメ、コンブなど)など実に多くの種類の魚介類や海藻類を食料としています。

世界の漁業と養殖業

 一般的に漁業というと水産動植物を獲り、また、これを養殖する事業をいいます。しかし、農林水産省の「漁業・養殖業生産統計」では、天然の水産動植物を獲ることを漁業とし、養殖業と分けています。そして、漁業は海面漁業と内水面漁業、養殖業は海面養殖業と内水面養殖業に分けて生産物の統計をとっています。

 国際連合食糧農業機関(FAO)がまとめた「世界漁業・養殖業白書2020年」によると、2018年の世界の魚介類(魚類、甲殻類、軟体動物類などで、海藻類を含まない)の総生産量は17,853万トンとなっています。内訳は天然魚介類が9,643万トン(海面:87.5%、内水面:12.5%)、養殖魚介類が8,210万トン(海洋:37.5%、内水面:62.5%)です。1990年以降、天然魚介類の漁獲量は殆ど伸びていませんが、一方、魚介類の養殖業は発展し続けており、総生産量に占める養殖生産量の割合は、1990年にはわずか13.4%でしたが、2000年には25.7%、2010年には39.8%と著しく増え、2018年には46.0%に達しています。特に中国における魚介類の養殖は著しく発展し、2018年の世界の養殖魚介類生産量の57.9%を中国が占めています。

 2018年の世界の海藻類生産量は3,335万トン(生重量)であり、そのうち養殖海藻が97.1%を占めています。養殖海藻の生産量は1990年には377万トンでしたが、2000年には1,060万トン、2010年には2,017万トン、2018年には3,239万トンに急増しています。特に中国とインドネシアにおける海藻養殖は大きく発展し、2018年の世界の養殖海藻類生産量の57.1%を中国、28.8%をインドネシアが占めています。

 日本に目を向けると、農林水産省の「令和元年漁業・養殖業生産統計」では、日本における水産物の総生産量は416.3万トンであり、その内訳は天然魚介類・海藻類が321.9万トン、養殖魚類(ブリ、マダイ、ウナギ、マスなど)が27.9万トン、養殖貝類(ホタテガイ、カキなど)が30.6万トン、その他の養殖水産動物類(クルマエビ、ホヤ類など)が1.4万トン、養殖海藻類(ノリ類、ワカメ類、コンブ類など)が34.6万トンとなっています。

MSC・ASC認証

 4章植物油「WWFとRSPO認証」で紹介したWWFは国際的な海洋保全活動の一環として、国際機関である海洋管理協議会(MSC)と水産養殖管理協議会(ASC)の認証制度の普及をサポートしています。

 MSCは責任ある漁業を推奨するために1997年に設立された独立した非営利団体です。MSCは世界の水産物市場を変革し、持続可能な漁業を推進するという取り組みを行なっており、魚種資源の減少から増加への転換、漁業者の生計維持、世界の海洋環境の保全などを目指しています。ある漁業がMSC認証を得るためには、漁獲する漁業の現場だけでなく、水産物の加工・流通の過程もMSC基準に則って厳しい審査を受けます。審査に合格し認証が得られると「持続可能な漁業で獲られた水産物であることを認証した海のエコラベル」というMSCの青いマークをつけて製品を販売することができます。消費者もMSCマークにより、それが水産資源や海洋環境に配慮した製品であることが分かり、安心して水産物を買うことができるわけです。MSC年次報告書2018年度によると、2019年3月31日時点において世界41カ国で361の漁業がMSC認証を受けており(MSC認証が一時停止されている13の漁業を含む)、その漁獲量は1,180万トンで世界の天然水産物漁獲量の約15%に達しています。

 日本では2020年9月1日現在、5つの漁業がMSC認証を取得しています。1つ目は北海道漁業協同組合連合会のホタテガイ漁業(認証取得年:2013年)、2つ目は宮城県塩釜市明豊漁業株式会社のカツオ・ビンナガマグロ一本釣り漁業(認証取得年:2016年)、3つ目は静岡県焼津市石原水産株式会社のカツオ・ビンナガマグロ一本釣り漁業(認証取得年:2019年)、4つ目は兵庫県相生市マルト水産株式会社の垂下式カキ漁業(認証取得年:2019年)、5つ目は宮城県気仙沼市臼福本店のタイセイヨウクロマグロ漁業(認証取得年:2020年)です。水産業の盛んな日本においても、今後MSC認証漁業が増えていくことが期待されます。

 前述したように、世界における魚介類の養殖業は発展し続けており、漁業総生産量に占める養殖生産量の割合は50%に迫っています。しかしながら、養殖業のグローバルな発展に伴い様々な問題が浮かび上がってきています。養殖場を造るための沿岸マングローブ林の急速な破壊、養殖に必要な餌となる小魚の乱獲、養殖場における過剰な餌や養殖個体の排泄物の蓄積、薬物投与による水質汚染などです。そこで、これらの現状を改善し、自然環境と地域社会に対し「責任ある養殖」を推進する国際機関として、2010年にASCが設立されました。ASCは持続可能な養殖を目指し、2019年9月現在、サケ、淡水マス、ティラピア、パンガシウス(ナマズ類)、アワビ、二枚貝(ホタテ、カキ、アサリ、ムール貝)、エビ、ブリ・スギ類、スズキ・タイ・オオニベ類、ヒラメ、熱帯魚類の11魚介類について、その養殖形態に応じて個別の原則と基準を設けています。なお、2018年3月に海藻(藻類)についてASCMSCの初の共同策定基準が設けられました。MSCと同様に基準に則って厳しい審査を受けてパスすると、「責任ある養殖管理のもとで育てられた水産物であることを認証したASCマーク」を付けて製品を販売することができます。消費者はこのマークにより、自然環境への負荷を最小限に抑え、法令・人権・労働といった社会的な側面でも責任ある経営・管理を行なっている養殖場で生産された製品であることが分かります。2019年3月時点で、世界で39ヶ国、848ヶ所の養殖場がASCの認証を取得しています。

 日本においては2016年3月に宮城県漁業協同組合志津川支所のカキ養殖が日本で初めてASC認証を取得しました。その後、ブリやカンパチ、サケ、サクラマスの養殖が次々にASC認証を取得しています。特異なものとして、株式会社ユーグレナが2019年1月に世界で初めて取得した微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)とヤエヤマクロレラの「ASC-MSC海藻(藻類)認証」が挙げられます(ユーグレナとクロレラについては1章植物「植物プランクトンと海藻」を参照)。

海藻

 海藻は多細胞藻類であり、ほとんどの種が付着器官の仮根で岩場などに固着して生活しています(1章植物「植物プランクトンと海藻」を参照)。日本をはじめ東アジアでは海の野菜sea vegetableとして好んで食べられていますが、西洋では海の雑草seaweedと称して食卓に上ることはほとんどありません。海藻は1章植物「光合成」で説明した光合成色素により緑藻、褐藻、紅藻の3つのグループに大きく分類されます。日本で食用とされている海藻のうち、代表的なものを表10-1に示します。

①緑藻

 緑藻は地上の植物の葉と同じようにクロロフィルとカロテノイドを光合成色素としてもっており、緑色をしています。一般的にアオノリ(青海苔)とよばれているものは、アオサ目アオサ科アオサ属(Ulva)のアナアオサ(穴青藻、英名:holey sea lettuce、学名:Ulva pertusa)やスジアオノリ(筋青海苔、英名:green laver、学名:U. prolifera)、ヒビミドロ目ヒトエグサ科ヒトエグサ属(Monostroma)のヒトエグサ(一重草、英名:green laver、学名:Monostroma nitidum)などです(表10-1)。

 アナアオサは藻体が硬いため、乾燥させて、ふりかけなどに利用されます。スジアオノリはアオノリの中では最も味がよいとされ、一般的には乾燥させて「抄きあおのり」や粉末の「青粉」などに加工されます。スジアオノリは徳島県や千葉県などで養殖されています。

 ヒトエグサは一般に「あおさ」または「あおさのり」(沖縄では「アーサー」)とよばれ、主に「のり佃煮」に加工されたり、生のまま味噌汁の具として利用されたりしています。三重県の伊勢志摩ではヒトエグサの養殖が盛んで、全国の生産量の約70%を占めています。

②褐藻

 褐藻はクロロフィルaとクロロフィルc(クロロフィルbはもちません)、ならびに少量のカロテンと大量の赤褐色の色素フコキサンチン(カロテノイドの一種)を光合成色素として葉緑体にもつため褐色を呈しています。わが国ではコンブ目のワカメやコンブ、シオミドロ目のモズク、ヒバマタ目のヒジキやアカモクなどの褐藻がよく食べられています(表10-1)。

 ワカメ(若布、学名:Undaria pinnatifida)はコンブ目チガイソ科ワカメ属(Undaria)の海藻で、北海道以南から九州にかけ生育し、縄文の時代から日本人にはよく食されています。ワカメ以外のワカメ属のアオワカメ(U. peterseniana)やヒロメ(U. undarioides)も食用とされています。採りたてのワカメを湯通しすると褐色から緑色に劇的に変化します(写真10-1)。これは、フコキサンチンという褐色色素はタンパク質と結合していると呈色しますが、加熱によりタンパク質を変性させると遊離して色を失い、熱に安定なクロロフィルの緑色が残るためです。コンブやモズクなどの褐藻類も採れたては褐色をしていますが、湯通しするとやはり緑色に変わります。

 2019年の日本におけるワカメ類の養殖生産量は4.46万トン(生重量)で、主な産地は宮城県(シェア:39.9%)、岩手県(28.3%)、徳島県(13.5%)、兵庫県(7.4%)などです。

 コンブ(昆布)はコンブ目コンブ科コンブ属(Saccharina)の褐藻の総称で、マコンブ(Saccharina japonica)、ナガコンブ(S. longissima)、ミツイシコンブ(S. angustata)などがあります。マコンブにはオニコンブ(別名:ラウスコンブ、S. j. var. diabolica)、リシリコンブ(S. j. var. ochotensis)、ホソメコンブ(S. j. var. religiosa)という変種があります。コンブは寒い気候の北海道や青森県、岩手県、宮城県沿岸でよく育ちます。北海道昆布の商品としては「羅臼昆布」(オニコンブ:知床半島の根室海峡側で収穫)、「利尻昆布」(リシリコンブ:宗谷岬を中心に収穫)、「日高昆布」(ミツイシコンブ:襟裳岬を中心に収穫)、「長昆布」(ナガコンブ:釧路から根室にかけて収穫)、「山出し昆布」(マコンブ:函館を中心に道南で収穫)などが有名です。マコンブは道南のみならず、青森県の津軽海峡沿岸から岩手県沿岸まで分布し、ホソメコンブは北海道の石狩湾沿岸から渡島半島日本海沿岸にかけてと、青森県の津軽海峡沿岸から宮城県の金華山沿岸にかけて広く分布しています。

 歴史的には、「続日本紀」(797年)に昆布が蝦夷から平城京へ献上されたとあります。また、「延喜式」(927年)には陸奥国の交易品に昆布が記載されており、平安時代には昆布が京の都に運ばれ、珍重されていたようです。

 近年、コンブ(マコンブ系)は中国、韓国などで盛んに養殖されています。2018年における世界の養殖コンブ生産量は1,145万トン(生重量)であり、養殖海藻類の中で最も多く生産されています。2019年の日本におけるコンブ類の生産量は、天然コンブ類が4.65万トン(シェア:北海道96.1%、青森県2.4%)、養殖コンブ類が3.26万トン(北海道73.3%、岩手県23.6%、宮城県2.8%)となっています。

 モズク(水雲)はシオミドロ目ナガマツモ科に属する糸状で、分枝する褐藻の総称です。古くから日本各地の沿岸で採取され、食べられてきた種としてのモズク(別名:イトモズク、Nemacystus decipiens)はモズク属(Nemacystus)の海藻で、ホンダワラなどの藻類に付着して生育することから「藻付く」とよばれ、本来ならモヅクと命名されるべきところです。しかしながら、藻に付くモズクは少なく、石や岩などに付着するモズクの方が多いようです。現在日本で食べられているモズクとしては、イトモズクの他にオキナワモズク属(Cladosiphon)のオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus)、イシモズク属(Sphaerotrichia)のイシモズク(Sphaerotrichia firma)、フトモズク属(Tinocladia)のフトモズク(Tinocladia crassa)、クロモ属(Papenfussiella)のクロモ(Papenfussiella kuromo)などがあります。これらのモズクのうち、沖縄県で養殖されているオキナワモズクが、わが国のモズク生産量の90%以上を占めており、日本全国に流通しています。その他のモズクは日本各地の沿岸で採取され、それぞれの産地で消費されています。

 ヒジキ(鹿尾菜、Sargassum fusiforme)はヒバマタ目ホンダワラ科ホンダワラ属(Sargassum)の長さ1mを超える褐藻で、北海道以南の太平洋沿岸、瀬戸内海、日本海西部沿岸、九州から南西諸島までの磯の岩場などに群生しています。日本では天然ものが採取されていますが、中国や韓国で養殖されたものが大量に輸入されています(国内流通量の約90%が輸入です)。採れたてのヒジキは苦味や渋味が強いため生で食べるには適さないので、3〜4時間釜茹でして苦味などを抜いた後乾燥して製品化されます。生のヒジキは茶色から褐色をしていますが、加工するにつれ黒くなります。ひと昔前までは鉄釜で茹でていたためヒジキの鉄含量は乾物100g当たり58.2mgと非常に高かったのですが、最近はステンレス釜で茹でているため乾物100g当たりの鉄含量は6.2mgと少なくなっています。黒コンニャクはヒジキの粉末を加えて作られます。

 ヒジキと同じホンダワラ属のアカモク(赤藻屑、Sargassum horneri)は、長さが4mにもなる藻類で日本各地に生息しています。肥料の原料に利用されています。食用としては日本海側の秋田県や山形県、新潟県などの限られた地域でのみ利用されていましたが、最近は食品としての人気が上昇しており、加工品の流通量が増えています。

 ワカメ、コンブ、モズク、ヒジキ、アカモクなどの褐藻類にはヌメリ成分として水溶性食物繊維のアルギン酸やフコイダンが含まれています。

 アルギン酸は1883年スコットランドの化学者スタンフォードにより褐藻類から単離された粘質多糖で、マンヌロン酸とグルロン酸という2種類のウロン酸から構成されています。藻類algaeから得られる酸性物質という意味からalginic acid(アルギン酸)と名付けられました。アルギン酸自身やアルギン酸カルシウムは水に不溶性ですが、アルギン酸のナトリウムあるいはカリウム塩は水溶性です。食品分野では増粘剤や安定化剤、ゲル化剤、乳化剤、麺質改良剤、成形肉の結着剤などとして利用されています。低分子化アルギン酸ナトリウムはコレステロールの吸収を抑える働きがあるので、血清コレステロール値の高めのヒト用の特定保健用食品の成分として許可されています。人工イクラの皮膜にはアルギン酸が使われています。医療分野では手術糸や創傷被覆剤などとして、化粧品分野では増粘剤や保水剤などとして利用されています。

 フコイダンは1913年スウェーデンのウプサラ大学教授キリンによりヒバマタ目ヒバマタ科ヒバマタ属(Fucus)の褐藻(ブラダーラックFucus vesiculosusなど)から発見され、当初はフコイジンと命名されましたが、後に多糖の国際命名基準によりフコイダンと変更されました。フコイダンは硫酸化フコースを主な構成成分とする高分子多糖で、フコース以外にグルクロン酸、ガラクトース、マンノース、キシロースなども結合しています。フコースの名前はフコイダンから発見されたことに由来します。褐藻の種類により構成成分の異なるフコイダンが存在します。抗腫瘍作用が認められ、現在盛んに基礎研究と臨床研究が進められています。

③紅藻

 紅藻の葉緑体にはクロロフィル(クロロフィルa)とカロテノイド(カロテンとルテイン)のほかにフィコビリンという第三の光合成色素が含まれています。フィコビリンにはフィコエリトロビリンやフィコシアノビリンなどがあり、これらの色素自身には色がありませんが、タンパク質と共有結合してフィコビリンタンパク質となり発色します。タンパク質と結合することにより、フィコエリトロビリンは紅色のフィコエリトリンに、フィコシアノビリンは青色のフィコシアニンになります。このように紅藻には3種類の光合成色素が全て含まれており、赤紫色をしています。日本で食用にされている紅藻にはウシケノリ目のアサクサノリやスサビノリ、スギノリ目のフノリやアカバギンナンソウ、テングサ目のマクサやオニクサなどがあります(表10-1)。

 アマノリ(甘海苔)あるいはノリ(海苔)はウシケノリ目ウシケノリ科アマノリ属(Pyropia)の紅藻の総称で、アサクサノリ(Pyropia tenera)やスサビノリ(P. yezoensis)などがあり、有明海、瀬戸内海、伊勢湾・三河湾、東京湾、松島湾などで養殖されています。現在は、ナラワスサビノリというスサビノリの品種がノリ養殖の主流になっています。主として板海苔に加工され(規格サイズ:縦21cm×横19cm)、おにぎりや巻き寿司などに使われています。焼く前の板海苔は黒紫色や黒褐色をしていますが、焼くことにより熱に弱いフィコビリンタンパク質が色を失い、熱に安定なクロロフィルの緑色が出てきます。

 フノリ(布海苔)はスギノリ目フノリ科フノリ属(Gloiopeltis)の紅藻の総称で、フクロフノリ(Gloiopeltis furcata)やマフノリ(G. tenax)などがあります。日本各地に分布していますが、フクロフノリは樺太や千島など寒い海域にも生息する北方系であり、マフノリは比較的暖かい海域に生息する南方系です。生のフノリは湯通しすると緑色に変わります。赤紫色した乾物が流通しており、味噌汁の具などに利用されています。

 アカバギンナンソウ(別名:仏の耳、Mazzaella japonica)はスギノリ目スギノリ科アカバギンナンソウ属(Mazzaella)の紅藻で、北海道や東北地方北部太平洋沿岸に生息しています。加熱すると赤色から緑色に変わります。青森県八戸地方では春先に採れるこの海藻を蒸した後、つぶして練り込み「アカハタモチ」という郷土料理をつくり、磯の香りとモチモチの食感を楽しんでいます。

 テングサ(天草)はテングサ目テングサ科テングサ属(Gelidium)のマクサ(Gelidium elegans)やオニクサ(G. japonicum)、オオブサ(G. pacificum)などの紅藻の総称です。テングサを茹でて溶かし、煮汁を冷まして固めた食品を「ところてん」(心太あるいは心天と書きます)といい、天突きという道具で突き出して細い糸状とし、辛子醤油や酢、黒蜜などをかけて食べます。ところてんは、かなり昔(奈良・平安時代)から食べられていたようです。

 江戸時代のある冬の極寒の時期に、使い残しのところてんを戸外に置いたところ凍ってしまい、しばらく放置しておいたところ水分が無くなり乾物状態になっていたそうです(いわゆる凍結乾燥されたのです)。これに水を加えて煮ると再び溶け、冷やすとまた固まるという現象が発見されました。この乾物がいわゆる「寒天」です。

 寒天の主成分はアガロースとアガロペクチンという2種類の多糖で、構成比はアガロース:アガロペクチン≒7030です。アガロースはD-ガラクトースと3,6-アンヒドロ--ガラクトースからなる二糖のアガロビオースが直鎖状に多数結合した中性多糖であり、アガロペクチンはアガロビオース単位に硫酸基が結合し、更にグルクロン酸やピルビン酸を含む複雑な酸性多糖です。寒天は羊羹やゼリーなどの菓子材料ならびに工業用材料として用いられています。科学の分野では、寒天ゲルは細菌の培養実験などに、アガロースゲルは核酸の電気泳動実験などに用いられています。

 寒天は上述したテングサ以外にオゴノリ目のオゴノリ(Gracilaria vermiculophylla)、スギノリ目のサイミ(Ahnfeltiopsis concinna)、イギス目のエゴノリ(Campylaephora hypnaeoides)などの紅藻からも製造されています。エゴノリ(恵胡海苔)は日本海沿岸に多く生息し、これを煮溶かしてコンニャクのように固めたものが各地の郷土料理として作られており、青森県では「えご天」、山形県では「えご」、新潟県佐渡では「いごねり」、京都府では「うご」、山口県や福岡県では「おきゅうと」などとよばれています。

 オゴノリは元来寒天の原料としては利用されていなかったのですが、アルカリ処理することにより寒天の原料になることが日本で発見されました。現在はテングサよりオゴノリの方が寒天の原料として多く利用されるようになっています。寒天原藻のオゴノリは中国やインドネシアなどで盛んに養殖されています。2018年の世界の養殖オゴノリ生産量は345万トン(生重量)であり、養殖海藻類の中で前述したコンブ、後述するキリンサイに次いで第3位となっています。

 寒天と並んでもう1つ紅藻から抽出される多糖にカラギナンがあります。カラギナンはアイルランド南東部の海沿いの町カラギーンCarragheenで集積されたスギノリ目スギノリ科ツノマタ属(Chondrus)のヤハズツノマタ(別名:トチャカ、英名:Irish moss、学名:Chondrus crispus)から1844年に初めて抽出され、町名に因んで名付けられました。カラギナンはD-ガラクトースと3,6-アンヒドロ-D-ガラクトースが交互に直鎖状に多数結合した多糖であり、硫酸基を有します。一見すると寒天の成分であるアガロースに似ていますが、硫酸基を有する点と、アンヒドロガラクトースがアガロースではL型ですが、カラギナンではD型である点が異なります(L型とD型は鏡像異性体のことです)。カラギナンは日本では寒天ほどよく知られていませんが、デザートや乳製品などの増粘・ゲル化剤、ハミガキの粘度調整剤、芳香剤のゲル化剤、医薬品のカプセルなどに幅広く利用されています。上述したアカバギンナンソウから作られるアカハタモチはカラギナンのゲル化を利用したものと考えられます。

 現在、カラギナンは主にスギノリ目ミリン科キリンサイ属(Eucheuma)のキリンサイ(麒麟菜、Eucheuma spinosumE. cottonii)から得られています。カラギナン原藻のキリンサイは東南アジア(インドネシア、フィリピン、ベトナムなど)やアフリカ(タンザニア、モザンビーク、マダガスカルなど)、南太平洋諸国(フィジー、キリバスなど)、カリブ海諸国、ブラジルなど世界の多くの国で養殖されています。2018年における世界の養殖キリンサイ生産量は924万トン(生重量)であり、養殖海藻類の中でコンブに次いで第2位です。

④ヨウ素

 海藻にはヒトにとって必須元素であるヨウ素(ヨードともいいます)が豊富に含まれています(乾物100g当たりのヨウ素含量:マコンブ200mg、ヒジキ45mg、アカモク27mg)。ヨウ素は甲状腺ホルモン(チロキシンとトリヨードチロニン)を合成するのに必要です。日本人は海藻などからヨウ素を十分に摂取しているので欠乏症になることはほとんどありませんが、土壌にヨウ素が欠乏している国や海藻を食べる習慣のない国では、食塩にヨウ素を添加するなどして欠乏症を防いでいます。ヨウ素が欠乏すると甲状腺機能低下が起こり、強い全身倦怠感、無力感、皮膚の乾燥、体のむくみなどの症状が現れ、小児の場合には発育障害や知的障害にいたる場合があります。

表10-1 日本で食用とされている代表的な海藻
写真10-1 加熱によるワカメの色の変化 左:加熱前、右:加熱後

クジラ

 今から5,000万年くらい前に、陸生偶蹄類(9章畜産物を参照)の一群が水中生活に適応し、海に進出してクジラへと進化したと考えられています(写真10-2)。進化の過程で前足は胸鰭へ、尾は尾鰭へと形態変化し、後足は退化しました。魚の尾鰭は縦方向に伸びており、左右の方向に動かして推進するのに対して、クジラの尾鰭は横方向に伸び、上下方向に動かして推進力を得ています。

 クジラ類は遺伝子解析から偶蹄類のカバに近縁であることが明らかにされ、旧来のクジラ目と偶蹄目は鯨偶蹄目に統合されました。クジラとカバの共通の特徴としては、①水生である、②水中で交尾や出産、育児をする、③ほとんど毛がない、④汗腺や皮脂腺がない、などが挙げられます。ただし、カバは体表から赤色のヒポスドール酸やオレンジ色のノルヒポスドール酸を含む粘液(しばしば「血の汗」とよばれます)が分泌されており、これらの物質には紫外線を遮断する効果や、抗菌作用が認められています。

 クジラは歯をもつハクジラと、歯をもたず上顎から生えた鯨ひげをもつヒゲクジラの2つに大きく分類されます。ハクジラは60種以上いますが、ヒゲクジラは15種(亜種は除きます)しかいません。表10-2に代表的なハクジラとヒゲクジラを示します。ハクジラは魚やイカ、カニなどを主に捕食しますが、ヒゲクジラは鯨ひげを使ってオキアミ、コペポーダ(カイアシ類)などの動物プランクトンやイワシ、ニシンなどの小魚を大量に濾しとり食べます。

 ハクジラのなかで比較的小型のもの(成体で体長4m程度以下)をイルカ(海豚)とよんでいます。マイルカ科マイルカ属(Delphinus)のマイルカ(真海豚、common dolphinDelphinus delphis)やハンドウイルカ属(Tursiops)のハンドウイルカ(半道海豚、bottlenose dolphinTursiops truncatus)、カマイルカ属(Lagenorhynchus)のカマイルカ(鎌海豚、Pacific white-sided dolphinLagenorhynchus obliquidens)などはよく知られています。ハンドウイルカとカマイルカは水族館のイルカショーの人気ものです。カマイルカは青森県の陸奥湾内でカーフェリーに並んで泳ぐ姿をしばしば見ることができます。

 アマゾンカワイルカ(Amazon river dolphinInia geoffrensis)は南米アマゾン川に生息するアマゾンカワイルカ科アマゾンカワイルカ属(Inia)の淡水性カワイルカです。インドカワイルカ(ガンジスカワイルカとインダスカワイルカの2亜種がいます)やヨウスコウカワイルカも淡水性カワイルカですが、ヨウスコウカワイルカはすでに絶滅したといわれています。ラプラタカワイルカは南米ラプラタ川の河口汽水域やその沿岸海域に生息しています。

 マイルカ科シャチ属(Orcinus)のシャチ(別名:オルカ、英名:killer whale、学名:Orcinus orca)は食性が広く、魚やイカから、海鳥、ペンギン、ラッコ、アザラシ、オタリア、クジラにいたるまで捕食します。クジラまで殺して食べるので、killer whaleという英名が付けられています。

 イッカク科にはイッカク属(Monodon)のイッカク(一角、narwhalMonodon monoceros)やシロイルカ属(Delphinapterus)のシロイルカ(別名:ベルーガ、white whaleあるいはbelugaDelphinapterus leucas)がいます。イッカクの雄には歯が変形した1本の長い牙があります。シロイルカは体長が5m以上になりますので英名のようにシロクジラとよんだ方がよいかもしれません。ベルーガは様々な鳴き声を発することから「海のカナリア」ともよばれています。

 ナガスクジラ科ナガスクジラ属(Balaenoptera)のナガスクジラ(fin whaleBalaenoptera physalus)やミンククジラ(別名:コイワシクジラ、minke whaleB. acutorostrata)、クロミンククジラ(Antarctic minke whaleB. banaerensis)、ニタリクジラ(Bryde’s whaleB. brydei)、イワシクジラ(sei whaleB. borealis)ならびに同科ザトウクジラ属(Megaptera)のザトウクジラ(humpback whaleMegaptera novaeangliae)などには下顎から腹部にかけて畝(ウネ)とよばれる伸縮性のある組織があります。食物を食べるときに大きな口を開けると海水が口の中に入ってきます。すると畝の部分が風船のように膨らむため一度に大量の海水とともに食物を取込むことができます。口を閉じ海水を外に押し出すと食物だけが鯨ひげにひっかかるわけです。このようなろ過方式により集めた食物を飲み込みます。

 セミクジラ科セミクジラ属(Eubalaena)のセミクジラ(North Pacific right whaleEubalaena japonica)やホッキョククジラ属(Balaena)のホッキョククジラ(bowhead whaleBalaena mysticetus)などセミクジラ科のクジラには畝がありません。口の先端部には鯨ひげがないので、口を開けて泳ぐと、食物が海水とともに口の中に入ってきます。口の両側にある鯨ひげを通して海水はろ過され出て行きます。このとき食物は鯨ひげの内側にひっかかるので、これを集めて飲み込みます。

 コククジラ科コククジラ属(Eschrichtius)のコククジラ(gray whaleEschrichtius robustus)は沿岸部の海底の泥の中に生息しているヨコエビなどの小さな甲殻類やゴカイの仲間、軟体類などを食べます。このクジラは頭部の先端で海底の泥を掘りおこします。まき上げられた泥や食物を海水とともに口に含み、鯨ひげで食物を濾しとり食べるのです。

 クジラにはウシと同じように胃袋が4つあります。第一胃は食道が変化したもので、食道胃または前胃とよばれ、消化液を分泌しません。第一胃は大量の食べたものを貯蔵しておく場所です。ウシなどは食べたものを第一胃から口に戻し噛み直すという反芻をしますが、クジラは反芻しません。第二胃は主胃、第三胃は幽門胃とよばれ、これら2つの胃が組織学的に真の胃袋です。主胃と幽門胃からは消化酵素(ペプシンやリパーゼなど)や粘液(ムチン)が分泌されます。第四胃は十二指腸の前半が変化した十二指腸膨大部であり、膵管(消化酵素を含む膵液を分泌する管)が開口しています。

 クジラは黒皮とよばれる薄い表皮の内側にある脂皮とよばれる厚い脂肪層で全身が包まれています。脂皮は水中で生活するクジラが体温を奪われるのを防ぐ断熱材として働いており、その厚さは南極海から赤道近くまで回遊するクロミンククジラの3〜5cmから、北極海とその周辺で暮らすホッキョククジラの50cm位までクジラの種により様々です。また、脂肪は体内でエネルギー(ATP)産生のために代謝されて水(代謝水)が生成されますので、水を飲まないクジラにとり重要な水分の供給源となります。脂皮に含まれる脂質成分はヒゲクジラとハクジラで異なっています。ヒゲクジラではトリグリセリドが主成分ですが、ハクジラではロウ(ワックス)がかなり多く含まれており、特にマッコウクジラ科マッコウクジラ属(Physeter)のマッコウクジラ(sperm whalePhyseter macrocephalus)では皮下脂肪の約66%をロウが占めています。ロウは長鎖脂肪酸と長鎖アルコールのエステルです。人類はトリグリセリドを消化吸収できますが、ロウは消化できません。

 黒皮と脂皮の部分は本皮とよばれ、刺身として、あるいは、熱湯を通して酢みそ和えなどとして食べられています。本皮に須の子(脂肪層の内側についている肉の部分)がついたものは皮須とよばれます。上述したナガスクジラなどの畝の部分も表皮と厚い脂肪層からできており、これに須の子がついたものは畝須とよばれます。皮須や畝須はベーコンの原料になります。クジラの脂皮にはエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのω(オメガ)3脂肪酸が多く含まれていることが知られています。ミンククジラの脂皮を含む可食部100g当たりのω3脂肪酸含量は、本皮でEPA 4,300mgDHA 3,400mg、畝須でEPA 2,200mgDHA 1,800mgと報告されています(後述する「ω3およびω6脂肪酸」を参照)。

 クジラの背肉や胸肉、腹肉などの赤肉は家畜の肉に比べて低脂肪で高タンパク質です。後述するように日本は2019年7月1日から商業捕鯨を再開したので、新鮮なクジラ赤肉を食卓で食べられるようになりました。クジラ赤肉には抗疲労効果や抗酸化作用が認められるイミダゾールジペプチドのバレニンやアンセリン、カルノシンが高濃度に含まれており、鯨肉は機能性食材としても利用できます。

 マッコウクジラの筋肉には大量のミオグロビンという酸素結合タンパク質が存在し、大量の酸素を貯蔵できるので、信じられないほど長い時間(1時間以上)の無呼吸潜水が可能です。骨格筋のミオグロビン含量はウシで約0.5%であるのに対して、マッコウクジラではウシの10倍の約5%もあります。マッコウクジラを含むハクジラ類において、筋肉のミオグロビン含量と潜水時間の間には正の相関性が存在すると報告されています。すなわち、ミオグロビン量が多いほど長い時間潜水できるということです。アカボウクジラ科アカボウクジラ属(Ziphius)のアカボウクジラ(Cuvier’s beaked whaleZiphius cavirostris)やトックリクジラ属(Hyperoodon)のキタトックリクジラ(northern bottlenose whaleHyperoodon ampullatus)は筋肉にそれぞれ約4%および6%のミオグロビンがあり、両者とも1時間以上潜水できることが知られています。

 乱獲によりクジラの数が急激に減少したことから、1946年に鯨資源の保存及び捕鯨産業の秩序ある発展を図ることを目的として国際捕鯨取締条約が結ばれ、これに基づき1948年に国際捕鯨委員会(IWC)が設立されました。日本は1951年にIWCに加盟しましたが、その後も商業捕鯨を続けました。1982年にIWCで商業捕鯨停止が決議され、日本は1987年から南極海での商業捕鯨、1988年から太平洋ならびに沿岸での商業捕鯨を停止しました。商業捕鯨停止後はIWC管理対象の大型鯨類(ミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラ、マッコウクジラ、ナガスクジラ)の調査捕鯨とIWC管理対象外のアカボウクジラ科ツチクジラ属(Berardius)のツチクジラ(Baird’s beaked whaleBerardius bairdii)の捕獲が行なわれていましたが、2019年6月30日に日本はIWCから脱退し、同年7月1日から商業捕鯨を再開しました。捕獲対象クジラはヒゲクジラのミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラならびにハクジラのツチクジラです。世界的には、ノルウェーがミンククジラを、アイスランドがミンククジラとナガスクジラを、デンマーク(グリーンランド)がミンククジラを、アメリカがホッキョククジラを、ロシアがコククジラをそれぞれ捕獲しています。

写真10-2 クジラの祖先アンブロシータスの全身骨格複製標本(岩手県立博物館所蔵) 後ろ足はまだ退化していない
表10-2 代表的なクジラ

スズキ目の魚

 スズキ目は160153910,033種から構成されており、魚類の中で最大の目です。淡水域、汽水域、海水域などほとんどすべての水圏に分布しています。表10-3にスズキ目の代表的な魚を示します。

 水産養殖管理協議会(ASC)の認証基準が設けられている①スズキ・タイ・オオニベ類、②ブリ・スギ類、③ティラピアはスズキ目の魚です。その他のスズキ目の魚は④アジ、⑤サバ科の魚、⑥カジキ、⑦ブラックバス、⑧ハタハタとしてまとめました。

①スズキ・タイ・オオニベ類

 スズキ(鱸、Japanese seabassLateolabrax japonicus)はスズキ科スズキ属(Lateolabrax)の魚類で、北海道南部から九州南部までの太平洋・日本海・東シナ海沿岸、瀬戸内海、内湾、汽水域、淡水域に生息しています。若魚は汽水域から淡水域に入るといわれています。スズキは、いわゆる出世魚(成長するに従って名の変わる魚)で、セイゴ→フッコ→スズキとよばれます。

 飛鳥時代から奈良時代にかけて詠まれた歌を編纂した日本最古の和歌集「万葉集」には8種の魚(鱸、鯛、鮪、鰹、つなし、鮎、鰻、鮒)しか登場しません。クジラは鯨魚(イサナ)とよばれ、万葉集には海、浜、灘にかかる「鯨魚とり」という枕詞(マクラコトバ:和歌の特定の語にかかって修飾または口調を整えるのに用いることば)として

 #3852鯨魚とり 海や死にする 山や死にする 死ぬれこそ 海は潮干て
      山は枯れすれ

 #3893: 昨日こそ 船出はせしか 鯨魚とり 比治奇の灘を 今日見つるかも

などと使われていますが、鯨そのものを詠んだ歌はありません。鱸は柿本人麻呂により

 #252: 荒たへの 藤江の浦に 鱸釣る 海人(あま)とか見らむ 旅行く我を

と詠まれています。

 スズキの主な漁場は仙台湾、東京湾、伊勢湾、若狭湾、有明海などの内湾や瀬戸内海です。2019年における日本の漁獲量は6,000トンで、千葉県、兵庫県、愛知県、宮城県、福岡県などが主な産地です。

 ヨーロッパスズキ(European seabassDicentrarchus labrax)は上述したスズキ科とは異なるモロネ科のヨーロッパスズキ属(Dicentrarchus)の魚類で、東部大西洋沿岸や地中海・黒海に分布しています。

 タイ(鯛、seabream)はタイ科の海水魚の総称で、マダイ属(Pagrus)のマダイ(真鯛、red seabreamPagrus major)、キダイ属(Dentex)のキダイ(黄鯛、yellowback seabreamDentex hypselosomus)、クロダイ属(Acanthopagrus)のクロダイ(黒鯛、blackhead seabreamAcanthopagrus schlegelii)、ヘダイ属(Sparus)のヨーロッパヘダイ(Gilt-head breamSparus aurata)などを含みます。

 マダイは北海道以南の日本各地、朝鮮半島から黄海・東シナ海・南シナ海に分布し、日本では古来「おめでたい魚」として祝い膳には欠かせない魚の代表です。「万葉集」に長意吉麻呂(ながのおきまろ)の鯛を詠んだ短歌が見られます。

 #3829: 醤酢(ひしほす)に 蒜(ひる)搗(つ)き合(か)てて 鯛願ふ

      我にな見えそ 水葱(なぎ)の羹(あつもの)

 キダイはレンコダイともよばれ、太平洋側では千葉県以南、日本海側では新潟県以南および東シナ海に分布しますが、瀬戸内海には生息していないようです。クロダイは南日本、朝鮮半島、中国北部沿岸などに分布しています。ヨーロッパへダイは東部大西洋沿岸域や地中海に生息しています。

 2019年の日本における天然タイ類の漁獲量は2.50万トンで、主な生産地は長崎県、福岡県、島根県、愛媛県、兵庫県などです。マダイの養殖は盛んに行なわれており、同年の生産量は6.20万トンで、天然マダイ(1.59万トン)の約4倍です。主な養殖地は愛媛県、熊本県、高知県、三重県、長崎県などで、特に愛媛県は57%を占めています。クロダイも三重県、石川県、長崎県、福井県、高知県などで養殖されていますが、生産量は少ないようです。

 ヨーロッパへダイは上述したヨーロッパスズキとともには地中海や黒海(ギリシャやトルコなど)で盛んに養殖されています。エーゲ海やイオニア海に接するギリシャは養殖業の盛んな国で、ヨーロッパスズキおよびヨーロッパヘダイの世界の養殖生産量のそれぞれ3割および5割をギリシャが占めています。

 ニベ科オオニベ属(Argyrosomus)のオオニベ(大鮸、Japanese meagreArgyrosomus japonicus)は西太平洋やインド洋に広く分布しています。体長2m位まで成長する大型のニベ類です。日本では千葉県から九州南部の太平洋沿岸や瀬戸内海などに生息しており、宮崎県で養殖されています。

 日本語で愛嬌や思いやりがないことを「にべもない」といいますが、この「にべ」は漢字では鮸膠あるいは鰾膠と表記します。これはニベ(鮸)という魚の浮き袋(鰾)を煮つめて作る膠(ニカワ)すなわち鰾膠(ニベニカワ)に由来し、粘着力の強いところから転じて、愛想とか愛嬌という意味があります。現在では、「にべもなく断られた」、「にべもない態度」など否定形で使われることが多いようです。

②ブリ・スギ類、

 アジ科ブリ属(Seriola)のブリ(鰤、Japanese amberjackSeriola quinqueradiata)、カンパチ(間八、S. dumerili)、ヒラマサ(平政、S. lalandi)はブリ類とよばれます。ブリは北西太平洋にのみ分布しています。カンパチは太平洋と大西洋の東西両岸の他に地中海やインド洋にも分布しています。ヒラマサは太平洋と大西洋の東西両岸に分布しています。ブリはいわゆる出世魚で、関東地方ではワカシ→イナダ→ワラサ→ブリとよばれ、関西地方ではツバス→ハマチ→メジロ→ブリとよばれています。

 2019年の日本における天然ブリ類の漁獲量は10.9万トンであり、主に長崎県、島根県、岩手県、北海道、千葉県などで水揚げされています。ブリ類の養殖は盛んに行なわれており、同年の生産量は13.6万トン(ブリ:10.3万トン、カンパチ:2.9万トン)であり、天然ブリ類を凌いでいます。2019年の日本の海面養殖魚類生産量は24.7万トンであり、第1位はブリ(41.7%)、第2位は上述したマダイ(25.1%)、第3位はカンパチ(11.6%)が占めています。ブリの主な養殖地は鹿児島県、大分県、愛媛県、宮崎県、高知県など、カンパチの主な養殖地は鹿児島県、愛媛県、宮崎県、大分県、香川県などです。

 日本において、魚の臭みを消すために果物を混ぜた餌で育てた養殖魚をフルーツ魚とよんでいます。大分県では「かぼすブリ」や「かぼすヒラマサ」など、また、愛媛県では「みかんブリ」などのフルーツ魚が養殖されています。

 日本水産株式会社の連結子会社である黒瀬水産は20171216日付けで、世界で初めてブリのASC認証を取得しました(宮崎県と鹿児島県の養殖場)。その後、グローバルオーシャンワークスと福山養殖(鹿児島県)、マルハニチログループのアクアファーム(大分県)、東町漁業協同組合(鹿児島県)もブリのASC認証を取得しています。また、マルハニチログループの奄美養魚(鹿児島県)は2019年7月25日付けで、世界で初めてカンパチのASC認証を取得しました。

 スギ(須義、cobiaRachycentron canadum)はスギ科スギ属(Rachycentron)の海水魚で、スギ科は本種のみで構成されています。スギは東部太平洋を除く世界中の温暖な海に広く分布し、日本近海では南日本に多く生息しています。日本では沖縄でのみ養殖されています。世界では中国やパナマ、ベトナム、台湾、エクアドル、ドミニカ共和国など多くの国で養殖されています。

③ティラピア

 ティラピアはカワスズメ科カワスズメ属(Oreochromis)の淡水魚の総称で、ナイルティラピア(Nile tilapiaOreochromis niloticus)やカワスズメ(別名:モザンビークティラピア、Mozambique tilapiaO. mossambicus)などが含まれます。ナイルティラピアの原産地はアフリカ西部のニジェール川水系やアフリカ東部のナイル川水系、ならびにイスラエルのヤルコン川などとされています。カワスズメの原産地はアフリカ南東部のザンベジ川・リンポポ川水系を中心とする河川域です。両種ティラピアとも世界の多くの地域に移入されています。ティラピア類は日本ではチカダイやイズミダイとよばれています。2018年の世界におけるナイルティラピアの養殖生産量は453万トンで、養殖魚類の中では第3位にランクされています。主要な養殖生産国は中国、インドネシア、エジプト、バングラデシュ、ブラジルなどです。

④アジ

 アジ(鯵)はアジ科アジ亜科(20属から構成)の海水魚の総称で、マアジ属(Trachurus)のマアジ(真鯵、Japanese horse mackerelTrachurus japonicus)やニシマアジ(西真鯵、Atlantic horse mackerelT. trachurus)、シマアジ属(Pseudocaranx)のシマアジ(縞鯵、white trevallyPseudocaranx dentex)などが含まれます。マアジは北西太平洋の沿岸域に、ニシマアジは北東大西洋沿岸域や地中海に分布しています。シマアジは全世界の亜熱帯・温帯海域の沿岸部に広く分布していますが、東部太平洋には分布していないようです。

 2019年における日本のアジ類漁獲量は11.3万トンであり、主な産地は長崎県、島根県、宮崎県、愛媛県、鳥取県などです。特に長崎県の水揚げが多く、全国の漁獲量の38.9%を占めています。

 天然シマアジの水揚げは少なく、流通しているシマアジの殆どは養殖ものです。2019年の養殖シマアジの生産量は4,400トンで、主な養殖地は愛媛県、熊本県、大分県、高知県などです。特に愛媛県は全国の養殖生産量の45.5%を占めています。

⑤サバ科の魚

 サバ科にはサバやマグロ、カツオ、サワラなどが含まれます。

 サバ(鯖、mackerel)はサバ科サバ属(Scomber)の海水魚の総称で、マサバ(真鯖、Pacific chub mackerelScomber japonicus)やゴマサバ(胡麻鯖、blue mackerelS. australasicus)、タイセイヨウサバ(別名:ノルウェーサバ、Atlantic mackerelS. scombrus)などが含まれます。マサバは北太平洋に分布しています。ゴマサバはマサバより暖かい海域を好み、南北太平洋の温帯・熱帯海域、紅海、アデン湾、オマーン湾、ペルシャ湾などに分布しています。タイセイヨウサバは北大西洋の温帯海域、地中海、黒海に分布しています。

 2018年における世界のサバ類の漁獲量は、マサバが156万トン、タイセイヨウサバが105万トンとなっています。

 2019年における日本のサバ類の漁獲量は44.5万トンであり、マサバの漁獲量はゴマサバの約7倍です。主な産地は長崎県、茨城県、三重県、静岡県、宮崎県などです。また、近年日本各地でマサバの養殖が始まっており、「唐津Qサバ」(佐賀県)、「長崎ハーブ鯖」(長崎県)、「ひむか本さば」(宮崎県)、「酔っぱらいサバ」(福井県)、「お嬢サバ」(鳥取県)、「ぼうぜ鯖」(兵庫県)などのブランド名で販売されています。日本はかつてサバの輸入国でしたが、2006年を境にして輸出国に変わりました。2019年の輸出量は16.9万トン(漁獲量の38%)で、ナイジェリア、エジプト、ガーナなどのアフリカ諸国や東アジア・東南アジア諸国などに輸出されています。現在も7万トン程輸入されており、その9割程度はノルウェー産です。サバにはエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が豊富に含まれており、健康食材として見直されています(後述する「ω3およびω6脂肪酸」を参照)。

 マグロ(鮪、tuna)はサバ科マグロ属(Thunnus)に分類される回遊性魚類の総称で、キハダ(キハダマグロ、yellowfin tunaThunnus albacares)、ビンナガ(ビンナガマグロ、albacoreT. alalunga)、メバチ(メバチマグロ、bigeye tunaT. obesus)、ミナミマグロ(southern bluefin tunaT. maccoyii)、タイヘイヨウクロマグロ(別名:ホンマグロ、Pacific bluefin tunaT. orientalis)、タイセイヨウクロマグロ(Atlantic bluefin tunaT. thynnus)などが含まれます。キハダとメバチは世界中の熱帯・温帯海域に、ビンナガは世界中の温帯海域に、ミナミマグロは南半球の温帯海域にそれぞれ分布しています。クロマグロには太平洋に分布するタイヘイヨウクロマグロと大西洋(地中海・黒海を含む)に分布するタイセイヨウクロマグロの2種があり、両種とも北半球の温帯海域に生息しています。

 マグロは古くはシビとよばれ、「万葉集」に大伴家持が

 #4218: 鮪(しび)突くと 海人(あま)の燭(とも)せる いざり火の

      穂にか出(い)ださむ 我が下思(したもひ)を

と詠んでいます。

 2018年の世界におけるマグロ類の漁獲量は217万トンで、内訳はキハダ67.7%、メバチ19.6%、ビンナガ10.3%、クロマグロ1.8%、ミナミマグロ0.7%となっています。

 2019年の日本におけるマグロ類の漁獲量は16.3万トンで、内訳はキハダ49.9%、メバチ21.0%、ビンナガ18.6%、クロマグロ6.3%、ミナミマグロ3.8%となっています。静岡県、宮城県、高知県、宮崎県、東京都、鹿児島県、沖縄県などで多く水揚げされています。本章の「MSCASC認証」で述べたように、宮城県や静岡県のビンナガの一本釣り漁業ならびに宮城県のタイセイヨウクロマグロ漁業はMSC認証を取得しています。クロマグロの養殖が長崎県や鹿児島県、高知県、三重県などで行なわれており、2019年の生産量は1.96万トンでした。日本はマグロ類の輸入が多く、2018年には国内生産量に相当する18.3万トンが輸入されています。マグロ類は主に刺身として利用されますが、キハダやビンナガは缶詰の原料になります。

 カツオ(鰹、skipjack tunaKatsuwonus pelamis)はサバ科カツオ属(Katsuwonus)の海水魚で、世界中の熱帯・温帯海域に分布しています。英名がskipjack tunaskipとは「水面を飛び跳ねる」の意味)となっているように、マグロ類に含まれることがあります。

 鹿児島近海のカツオは春から夏にかけて黒潮に乗って日本沿岸を北上して三陸沖に達し、秋になるとUターンして南下します。春獲りの「初鰹」は脂が少なく、鰹節に適しているといわれます。秋獲りの「戻り鰹」は脂が多いためトロカツオともよばれ、刺身として人気があります(後述する「ω3およびω6脂肪酸」を参照)。カツオは節や刺身の他、たたき、缶詰などに利用されます。鰹節とは、おろしたカツオの身をゆでるか、または蒸し、焙って乾かし、カビ付けをした後、日光で乾燥したものです。

 奈良時代の「古事記」(712年)には、古墳時代の雄略天皇の御代(5世紀末頃)のところに「堅魚(カタウオ)を上げて舎屋を作れる家ありき」と記されています。堅魚とは神社や宮殿の棟木(ムナギ)の上に並べる鰹木(カツオギ)のことであり、その形は鰹節に似ています。「大宝律令」(701年)の海産物調腑の制によると、堅魚(素干したカツオ)、煮堅魚(煮て日干したカツオ)、堅魚煎汁(カタウオイロリ:カツオの煮汁をさらに煮つめた調味料)が租税として課せられていました。また、鰹は「万葉集」には浦島伝説に関する長歌に

 #1740: ・・・水江(みづのえ)の 浦島子(うらのしまこ)が 堅魚釣り
         鯛釣り誇り 七日まで 家にも来ずて 海界(うなさか)を
         過ぎて漕ぎ行くに・・・

と詠まれています。鰹節には「勝男武士」の漢字があてられ、戦国時代の武士の縁起かつぎとして戦陣に携帯されたといわれています。「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」は江戸時代中期の俳人山口素堂の作ですが、初鰹は当時の江戸っ子には大人気だったようです。このように鰹は古くから日本人の生活に密着した魚のようです。

 2018年の世界のカツオ漁獲量は316万トンで、アンチョベータ(ペルーカタクチイワシ:705万トン)、スケトウダラ(340万トン)に次いで第3位となっています。2019年における日本のカツオ漁獲量は23.3万トンであり、主な産地は静岡県、宮城県、東京都、三重県、高知県、宮崎県などです。本章の「MSCASC認証」で述べたように、宮城県や静岡県のカツオの一本釣り漁業はMSC認証を取得しています。

 サワラ(鰆、Japanese Spanish mackerelScomberomorus niphonius)はサバ科サワラ属(Scomberomorus)の海水魚であり、北海道南部から九州南部までの太平洋・日本海・東シナ海沿岸や瀬戸内海、中国・台湾・韓国の東シナ海沿岸などに生息しています。出世魚であり、成長に伴いサゴシ(またはサゴチ)→ナギ→サワラと呼び名が変わります。2019年の日本の漁獲量は1.58万トンであり、主な産地は福井県、京都府、石川県、鳥取県、島根県などです。

⑥カジキ

 カジキ(梶木、marlin)はマカジキ科とメカジキ科の魚類の総称です。マカジキ科はマカジキ属(Kajikia)のマカジキ(真梶木、striped marlinKajikia audax)やクロカジキ属(Makaira)のクロカジキ(黒梶木、Indo-Pacific blue marlinMakaira mazara)など5属11種で構成されていますが、メカジキ科はメカジキ属(Xiphias)のメカジキ(目梶木、swordfishXiphias gladius)1種のみで構成されています。カジキは上顎が剣状に長く鋭く伸びて吻(フン)を形成しているのが特徴です。メカジキ(目梶木)の名はマカジキなどと比べて目が大きいことに由来します。「梶木通し」はメカジキの方言で、とがった吻で船の加敷(カジキ)を突き通すという意味からきています。

 マカジキはインド洋、太平洋の熱帯・温帯海域に分布し、その赤身肉はカジキ類の中では最高級品といわれています(マカジキの刺身は絶品)。クロカジキはインド洋、太平洋の熱帯・温帯海域に分布しており、大西洋の熱帯・温帯海域に分布するニシクロカジキ(西黒梶木、Atlantic blue marlinMakaira nigricans)とは区別されています。アーネスト・ヘミングウェイの有名な小説「老人と海」で老漁師サンチャゴがキューバ沖で3日間にわたって死闘を繰り広げる魚はニシクロカジキだといわれています。メカジキは太平洋、大西洋、インド洋の熱帯・温帯海域に広く分布しています。

 2018年において世界でカジキ類の漁獲量が多かった国はスペイン(2.50万トン)、台湾(2.32万トン)、イラン(1.86万トン)、スリランカ(1.77万トン)などです。

 2019年の日本におけるカジキ類の漁獲量は1.09万トン(メカジキ:54.1%、クロカジキ類:22.0%、マカジキ:17.4%)であり、宮城県、高知県、宮崎県、神奈川県などで主に水揚げされています。

⑦ブラックバス

 サンフィッシュ科オオクチバス属(Micropterus)の淡水魚はブラックバス(black bass)とよばれています。これにはオオクチバス(大口バス、largemouth bassMicropterus salmoides)やコクチバス(小口バス、smallmouth bassM. dolomieu)などが含まれます。これらのブラックバスの原産地は北アメリカですが、世界各地に移入されています。日本には1925年に箱根の芦ノ湖にオオクチバスが初めて放流されました。その後日本各地に放流され、全国の淡水域に生息しています。コクチバスも日本に移入されています。両ブラックバスとも魚食性が強いため日本在来魚を減少させるなど問題視され、2005年に環境省により特定外来生物に指定されています。しかしながら、悪い面ばかりではなく、ブラックバスフィッシングなどのビジネスが展開されています。また、魚自体は白身で美味であるため、琵琶湖周辺や芦ノ湖周辺などではフライや天ぷらなどのバス料理が提供されています。

⑧ハタハタ

 ハタハタ(鰰あるいは鱩、sailfin sandfishArctoscopus japonicus)はハタハタ科ハタハタ属(Arctoscopus)の魚類で、主に日本海やオホーツク海などに分布しています。日本では乱獲により漁獲量が激減したため、1992年9月から1995年8月まで全面禁漁が実施され、その後は資源量が回復しています。

 2019年の日本における漁獲量は5,400トンであり、主な産地は鳥取県、兵庫県、秋田県、石川県などです。「しょっつる」は秋田県で江戸時代初期からハタハタを原料にして作られてきた魚醤です。このしょっつるとハタハタで作る鍋料理が秋田名物「しょっつる鍋」です。ハタハタの卵は「ぶりこ」とよばれ、非常に美味です。

表10-3 スズキ目の代表的な魚

サケ科の魚

 サケ目はサケ科のみから成り、サケ科は1166種から構成されています。表10-4にサケ科の代表的な魚を示します。サケはサケ科の魚類の総称と定義されています。一般的にサケ類・マス類とよび分けられていますが、両者の間に明白な線引きはありません。サケ・マス類は元々淡水魚でしたが、氷期に餌の豊富な海を求めて降海性を強め、イワナ型→ニジマス型→サケ型に進化したと考えられています。

 タイヘイヨウサケ属(Oncorhynchus)にはシロザケ、ベニザケ、クニマス、ギンザケ、カラフトマス、ニジマス、サクラマス、マスノスケなどが含まれます。その他に、タイセイヨウサケ属(Salmo)のタイセイヨウサケ、イワナ属(Salvelinus)のイワナやオショロコマ、イトウ属(Hucho)のイトウなどがよく知られています。

①シロザケ

 シロザケ(白鮭、英名:chum salmonまたはdog salmon、学名:Oncorhynchus keta)は日本では縄文時代から食糧とされてきたサケで、単にサケと言えばこのシロザケを指します。平安時代の「延喜式」には、サケを租税として貢納している国(信濃、越後、越中)が列記されています。

 シロザケは北太平洋、日本海、オホーツク海、ベーリング海、北極海に広く分布しています。海洋で成熟したサケは母川(生まれた川)を遡上し、繁殖行動を終えると雌雄とも全て死んでしまいます。繁殖期の雄の吻部は伸びて先端が曲がる「鼻曲がり」になります。タイヘイヨウサケ属Oncorhynchusは、ギリシャ語のoncos「鉤」とrynchos「鼻」すなわち鉤鼻に由来します。鼻曲がりはシロザケだけでなく、繁殖期のベニザケやギンザケ、カラフトマスなどの雄にも見られます。

 河川の川床の砂礫で孵化した仔魚は砂礫中にとどまり、腹部の卵黄のうを吸収しながら成長します。孵化後しばらくすると仔魚の体側には黒い斑紋(パーマーク)が現れます。卵黄のうの吸収がほぼ終わった稚魚は砂礫から浮上し、摂餌を開始します。餌は河川を流下する水生昆虫や陸生昆虫です。河川から海に下る(降海といいます)時期になると、鱗にグアニン色素が蓄積し、体色が銀白色になります。これをスモルト化(銀化)といい、海水適応能を獲得します。また、降海の頃にはパーマークが消失します。降海した幼魚はしばらくの間は河口付近の沿岸海域で生活し、その後次第に沖合に移動して、若魚期の回遊生活に移行すると考えられています。

 シロザケには後述するベニザケのヒメマスやサクラマスのヤマメなどのように河川残留型や陸封型は知られていません。

 日本の河川を降海し、沿岸滞留期を過ごしたサケの若魚は日本列島に沿って北上し、最初の夏をオホーツク海で過ごすようです。その後、北太平洋、ベーリング海、アラスカ湾などを数年かけて回遊・成熟し、日本沿岸に回帰します。通常4年魚(海洋年齢3年)の回帰が最も多く、これに次ぐ5年魚(海洋年齢4年)と合わせると全体の9割程度を占めます。母川への遡上(9月〜12月)がみられるのは、日本海側は山口県(粟野川)、太平洋側は千葉県(栗山川)が南限といわれています。但し、九州の福岡県、佐賀県、宮崎県、鹿児島県あるいは四国の高知県の沿岸や河川で日本海由来と思われる迷いサケが捕獲されたとの報告があります。上記のような生活史を有するサケは遡河回遊魚とよばれます。

 現在、シロザケの養殖は行なわれていませんが、人工孵化放流が全国の多くの遡上河川で行なわれています。日本で最初のサケの人工孵化は、関沢明清により1877年(明治10年)1月に茨城県那珂川産のサケの受精卵を用いて行なわれました。育成された稚魚はサケの遡上しない荒川や多摩川、相模川に移植放流されたといわれています。その後、瞬く間にサケの人工孵化放流が全国に広まりました。日本にはニジマスは生息していませんでしたが、1877年6月にアメリカからニジマスの受精卵(発眼卵)が関沢明清のもとに届き、孵化・飼育に成功しました。これが日本におけるニジマス養殖の原点です。彼は187812月に「養魚法一覧」を発刊し、日本のサケ・マス人工孵化技術の普及に努めました。

 人工授精した受精卵は水温8℃において約60日で孵化します。孵化した仔魚は日光を嫌うため、卵黄を吸収し終わって浮上するまで(水温8℃において約60日間)、遮光した環境で管理されます。浮上した稚魚は人工配合飼料で体長4〜5cm程度まで飼育された後、3月〜5月頃に河川に放流されます。放流された稚魚は天然稚魚と同様に降海し、海洋での回遊生活に移ります。天然産卵の孵化率は3040%ですが、人工孵化の孵化率は95%以上あるようです。天然産卵のサケの回帰率は約0.5%ですが、人工孵化されたサケの回帰率は約4%といわれています。

 2017年の世界におけるシロザケの漁獲量は26.2万トンであり、世界の天然サケ・マス類漁獲量全体(92.1万トン)の28.4%を占めています(後述するカラフトマスに次いで第2位です)。2018年における日本のシロザケの漁獲量は海面が8.40万トン、内水面が0.67万トンで、総量は9.07万トンです。主な産地は北海道、岩手県、青森県、宮城県、秋田県、新潟県、山形県などです。

 イクラや筋子はサケやマスの卵巣から得られる水産物です。イクラは成熟卵を卵巣からバラバラに取り出して、醤油漬けなどにしたものであり、筋子は未熟な卵を卵巣のまま取り出して、塩漬けなどにしたものです。シロサケのイクラや筋子にはω3脂肪酸(EPADHA)やビタミンDが豊富に含まれています(後述する「ω3およびω6脂肪酸」、「ビタミンDと骨粗鬆症」を参照)。また、シロサケの切り身にもビタミンDが豊富に含まれています。

②ベニザケ

 ベニザケ(紅鮭、sockeye salmonまたはred salmonOncorhynchus nerka)は、北緯40度以北の北太平洋、ベーリング海ならびにオホーツク海に分布しています。ベニザケは生まれてから数年を湖沼で過ごした後降海し、海洋生活を1〜4年(多くは2〜3年)送ります。産卵のために河川や湖沼に遡上し、一生を終えます。ベニザケの遡上・産卵水系の主な分布域は、北アメリカでは南はコロンビア川から北はアラスカのクスコックウィン川におよび、アジア側ではカムチャッカ半島から北はアナディール川にかけてです。日本の河川には遡上しません。養殖はされておらず、天然ものが漁獲されています。2017年の世界におけるベニザケの漁獲量は18.0万トンで、世界の天然サケ・マス類漁獲量全体(92.1万トン)の19.5%を占めています。2016年における日本のベニザケ輸入量は3.7万トンで、ほとんどがロシアとアメリカから輸入されています。

 ベニザケの陸封型はヒメマス(姫鱒、kokaneeOncorhynchus nerka nerka)とよばれています。日本では北海道東部の阿寒湖と網走川水系のチミケップ湖に自然分布しています。ヒメマスの移植は1894年(明治27年)に阿寒湖から支笏湖へ種卵が導入されたのが最初です。1902年(明治35年)に支笏湖から十和田湖へ、1906年(明治39年)には十和田湖から中禅寺湖に種卵が導入されています。その後、ヒメマスが移植されたこれら3つの湖を拠点として、種卵が北海道や本州北中部地方の60以上の湖沼に移植されましたが、現在ヒメマスが生息している湖沼やダム湖は22程度といわれています。

③クニマス

 クニマス(Oncorhynchus kawamurae)は上述したヒメマスの亜種としてO. nerka kawamuraeとされることがありましたが、近年遺伝的研究によりヒメマスとの生殖隔離が示唆されたことから、別種とされています。秋田県田沢湖の固有種でしたが、1940年に発電事業のため、玉川の強酸性水(玉川温泉由来)が導入されて湖水の酸性化が進み、1948年頃絶滅しました。しかしながら、2010年に山梨県の富士五湖のうちの西湖でクニマスが再発見されました。これは絶滅前の1935年に田沢湖から移植されたものの子孫と考えられています。

④ギンザケ

 ギンザケ(銀鮭、coho salmonまたはsilver salmonOncorhynchus kisutch)は、北太平洋、オホーツク海、ベーリング海に広く分布しています。遡上・産卵水系の主な分布域はアジア側においてはロシアのハバロフスク地方からカムチャッカ半島、チュコト半島にかけてとサハリン、クリル列島など、北米側においてはアラスカ州南西部からカリフォルニア州モンテレー湾にかけてとアリューシャン列島などです。日本では索餌回遊中の個体が沿岸で漁獲されたり、北海道の河川に迷いザケとして遡上したりしますが、恒常的な産卵はみられていません。

 春に川で生まれた稚魚は普通1年間淡水生活を送ります。翌春、体長10cm以上に成長した幼魚はスモルト化し、降海します。ほとんどの個体は海洋で一冬過ごした後、翌年の秋に(成熟年齢3年)母川に回帰・遡上します。産卵期は11月〜1月です。繁殖行動を終えると雌雄とも死にます。ギンザケには海で一夏過ごしただけで成熟して川にもどる早熟な雄(2年魚)が現れますが、これはジャック(jack)とよばれています。ジャックも繁殖行動を示します。

 ギンザケの資源量は比較的少なく、世界の漁業漁獲量は2000年以降年間2万トン前後で推移しています。ギンザケの海面養殖技術が確立されており、主な養殖生産国はチリや日本などです。2017年における世界の養殖生産量は18.0万トンで、世界のサケ・マス類養殖量全体(335.1万トン)の5.4%を占めています。日本はチリから8.8万トンを2016年に輸入しています。2019年の日本における養殖量は1.59万トンであり、主に宮城県(シェア:89.3%)で生産され、「みやぎサーモン」のブランド名で流通しています。その他の県でも養殖されており、新潟県の「佐渡荒海サーモン」や鳥取県の「境港サーモン」などのブランド名で知られています。

⑤カラフトマス

 カラフトマス(樺太鱒、別名:セッパリマス、pink salmonまたはhumpback salmonOncorhynchus gorbuscha)は北緯36度以北の太平洋、ベーリング海、オホーツク海、日本海ならびに北極海の一部にまで広範囲に分布しています。遡上する河川はアジア側では朝鮮半島北東部からシベリアのレナ川まで、北米側ではカリフォルニア州のサクラメント川からカナダのマッケンジー川までです。

 日本では北海道と北東北の河川に遡上がみられますが、中心はオホーツク沿岸と根室海峡沿岸の河川です。8月〜10月に産卵し、産卵後は寿命を終えます。翌年の3月下旬〜6月に稚魚は砂礫中から夜間に浮上し、河川では殆ど摂餌することなく降海します。カラフトマスの稚魚にはパーマークがありません。降海直後は沿岸域で過ごし、成長とともに沖合に移動し、8月〜9月にはオホーツク海で生活するようになります。海水温が低下する10月〜12月にオホーツク海からクリル列島を抜け、北太平洋へ移動します。回遊範囲は東経175度付近までの北太平洋西部とされ、シロザケと比べると狭いようです。約1年間の海洋生活の後(通常2年魚)、夏から秋にかけて産卵回帰しますが、母川回帰性は低いようです。繁殖期の雄の背は著しく張り出してきます。このため別名でセッパリマス、英名でhumpback salmonとよばれています。

 2017年の世界における天然カラフトマスの漁獲量は43.6万トンで、世界の天然サケ・マス類漁獲量全体(92.1万トン)の47.3%を占めており、第1位です。2018年の日本における漁獲量は9,715トンで、殆どが沿岸で捕獲されています。

⑥ニジマス

 ニジマス(虹鱒、rainbow troutOncorhynchus mykiss)は、北米太平洋側のメキシコ北西部からアラスカ半島にかけてとロシアのカムチャッカ半島を中心に分布し、一生を河川・湖沼で生活する河川型(淡水型)と川と海を回遊する遡河回遊型(スチールヘッドsteelheadとよばれます)の2つのタイプに分けられます。河川型は平均3歳で成熟し、およそ8年の寿命に達するまでに数回産卵します。遡河回遊型は生後2〜3年で降海し、1〜4年北太平洋で生活した後成熟します。夏から冬にかけて河川に回帰し、夏に遡上した群は冬から春に、冬に遡上した群は春に産卵します。スチールヘッドの多くは繁殖行動後死亡しますが、一部は降海し再び繁殖のために遡上するといわれています。

 ①シロザケのところで述べたように日本にはニジマスは生息していませんでしたが、1877年(明治10年)にアメリカから日本にニジマスの河川型が移植され、今では全国で盛んに養殖されています。山梨県のブランド「甲斐サーモンレッド」は、山梨県特産のブドウの果皮粉末を添加した飼料を与えて養殖した1kg以上の大型ニジマスです。

 アメリカのワシントン大学のローレン・ドナルドソン博士が海水で飼育できるように改良した大型のニジマスはドナルドソンニジマスとよばれています。青森県の津軽海峡で養殖されているドナルドソンニジマスは「海峡サーモン」というブランド名で販売されています。

 ドナルドソンニジマスのメスとスチールヘッドのオスをかけ合わせて作り出されたものがトラウトサーモン(あるいはサーモントラウト)です。トラウトサーモンは世界各国で海面養殖されており、日本にはチリやノルウェーなどから輸入されています(20161.8万トン)。近年、日本においても海面養殖されるようになり、青森県の「青森サーモン」、新潟県の「佐渡トラウトサーモン」、福井県の「ふくいサーモン」、広島県の「広島サーモン」、香川県の「讃岐さーもん」などのブランド名で流通しています。「青森サーモン」を生産している日本サーモンファーム(深浦町)は今別沖の養殖場で、201912月に国内のサーモン養殖場では初めてASC認証を取得しました。

 2017年の世界におけるニジマスの養殖生産量は81.2万トン(内水面:64.5万トン、海面:16.7万トン)であり、世界のサケ・マス類養殖量全体(335.1万トン)の24.2%を占めています(海面養殖されているニジマスはトラウトサーモンです)。2019年の日本におけるニジマスの内水面養殖生産量は4,775トンであり、主な産地は静岡県、長野県、山梨県、群馬県、栃木県、福島県などです。

⑦サクラマス

 サクラマス(桜鱒、masu salmonまたはcherry salmonOncorhynchus masou masou)はタイヘイヨウサケ属の中で唯一アジア側にのみ分布し、日本をはじめカムチャッカ半島西岸、沿海州、サハリン、朝鮮半島東岸に生息しています。日本においては北海道、本州日本海側のほぼ全域、房総半島以北の太平洋側などに分布し、ホンマスとよばれることもあります。サクラマスの名前は桜の咲く時期に沿岸から母川に遡上することに由来するといわれています。富山の郷土料理「ます寿司」はサクラマスを酢で味付けした押し寿司です。

 一生を淡水河川で過ごす河川型(陸封型)個体群と降海型個体群があり、降海型をサクラマス、河川型をヤマメ(山女魚)とよびます。河川で孵化・浮上した稚魚は少なくとも1年間は河川で生活し、スモルト化した個体は4月〜6月に降海し、海洋生活に移ります。北の方ほど降海型の出現率が高く、カムチャッカ半島ではほぼすべてが降海するようです。1年間の海洋生活を過ごしたサクラマスは春に母川に回帰します。産卵期は北海道では8月〜10月、東北地方では9月〜11月です。繁殖行動後、全てのサクラマスは死亡します。

 サクラマスは日本とロシアの沿岸だけで漁獲されており、2018年の漁獲量は日本が1,254トン、ロシアが19トンでした。日本の主な産地は北海道(シェア:75.3%)と青森県(15.8%)です。資源の維持・増大のために人工孵化放流が行なわれています。

 サクラマスの海面養殖は兵庫県淡路島や宮崎県、富山県などで行なわれています。マルハニチログループは山形県遊佐町で行なっているサクラマスの陸上養殖(循環・濾過した海水を使用)において2020年3月にサケ基準のASC認証を取得しています。

 サツキマス(皐月鱒、red-spotted masu salmonOncorhynchus masou ishikawae)とビワマス(琵琶鱒、Biwa troutO. masou rhodurus)はサクラマスの亜種です。サツキマスは静岡県以南の太平洋側と瀬戸内海に分布し、ビワマスは琵琶湖とその流入河川(安曇川や姉川など)に分布しています。サツキマスの名前はサツキツツジの咲く頃(5月〜6月)に母川に戻ってくることに由来するようです。サツキマスの河川型(陸封型)はアマゴ(雨魚)とよばれています。アマゴの資源量の方がサツキマスより圧倒的に多いようです。アマゴやサツキマスには体表に朱色の点がありますが、ヤマメやサクラマスにはこれがありません。ビワマスの稚魚や幼魚には朱色の点がありますが、成魚になると消えます。

 ミトコンドリアゲノム解析により、サクラマスとサツキマスの分岐以降にビワマスはサツキマスから分岐したと考えられています。すなわち淀川水系を利用していたサツキマスのうち琵琶湖に陸封された個体群がビワマスになったというわけです。

 河川の産卵床中で孵化したサツキマスの仔魚は3〜4ヶ月間産卵床内で過ごし、春に浮上します。河川で夏を過ごし成長した幼魚のなかから11月頃にスモルト化する個体が出現し、降海します。秋にスモルト化するサケ科魚類はサツキマスの幼魚だけで、スモルト化する割合は雌が多いそうです。冬から春にかけて沿岸域あるいは汽水域で生活し急成長したサツキマスは5月〜6月に母川回帰し、夏は大きな淵で生活します。10月〜11月に産卵し、繁殖行動後は雌雄とも死亡します。現在、サツキマスの漁獲量は非常に少なくなっているようです。

 琵琶湖流入河川で孵化したビワマスの稚魚は2月〜4月に産卵床から浮上し、しばらく河川生活を送った後、5月〜6月に琵琶湖に降下します。琵琶湖で生活し満3年〜5年で成熟すると、親魚は9月頃から産卵河川への遡上を開始します(ビワマスにも母川回帰性はあるようです)。産卵期は10月〜12月で、繁殖行動後は雌雄とも死んでしまいます。

 ビワマス資源を増やす目的で、人工孵化放流が1883年から行なわれています。近年の漁獲量は25トン前後で推移しています。

⑧マスノスケ

 マスノスケ(鱒之介、chinook salmonまたはking salmonOncorhynchus tschawytscha)はキングサーモンともよばれ、サケ・マス類の中では最も大型です。北緯40度以北の北太平洋、オホーツク海、ベーリング海に分布し、河川型と海洋型の2つのタイプが存在します。河川型は孵化後1〜2年淡水中で生活してから降海し、沖合を数年回遊した後、春から夏にかけて母川回帰します。産卵時期は夏から秋にかけてです。海洋型は孵化・浮上後3ヶ月以内に降海し、大部分を沿岸域で生活した後、産卵直前に母川回帰します。産卵時期は秋から冬にかけてです。両タイプとも繁殖行動後に全て死亡します。

 マスノスケの漁業資源は他のサケ・マス類と比較して少ないといわれており、2016年の世界における漁業漁獲量は7,522トンです。日本での水揚げはほとんどありません。

 1870年代にカリフォルニアからニュージーランド(NZ)に移入され、現在、NZは世界のマスノスケ養殖の主要産地となっています。2018年のNZにおける養殖量は14,339トンと報告されており、海面養殖が83%、内水面養殖が17%を占めています。内水面養殖の特徴はマウントクック(海抜3,724m)の氷河から流れる水を利用して養殖が行なわれている点です。世界で2番目に多くマスノスケを養殖しているのはカナダのブリティッシュコロンビアで、2016年に2,346トンを生産しています。日本にはNZから輸入されています。

⑨タイセイヨウサケ

 タイセイヨウサケ(別名:アトランティックサーモン、Atlantic salmonSalmo salar)はタイセイヨウサケ属(Salmo)の魚類で、北太平洋沿岸の温帯域から北極海域に分布しています。学名のsalmoは「サケ」を、salarは「飛び越える」を意味します。

 成熟した個体は春から初秋にかけて母川を遡上し(母川回帰性は強い)、9月〜11月に産卵します。シロザケやカラフトマスとは異なり、産卵した親の中には再び降海し、複数年に亘って繁殖行動を示すものもいます。受精した卵は平均水温が約4℃の場合、約110日で孵化し、仔魚は1〜2ヶ月間砂利の間で過ごした後、水面に浮上し摂餌を始めます。幼稚魚は河川や湖沼でプランクトンや水生昆虫、小エビなどを食べながら1〜4年間を過ごし、体長が140mm程度に成長するとスモルト化し、降海します。降海しないで、一生を淡水で過ごす残留型も現れるようです。降海した幼魚は概ね2〜4年間海洋生活を送り、産卵のために母川に回帰します。

 タイセイヨウサケは乱獲の影響で資源量が激減し、アメリカでは商業捕獲が全国的に禁止されています。現在世界市場に流通しているタイセイヨウサケの大部分は養殖魚です。タイセイヨウサケは水産養殖管理協議会(ASC)認証の対象魚になっています。2017年の世界における養殖量は234.6万トンであり、世界のサケ・マス類養殖量全体(335.1万トン)の70%を占めています。主な養殖生産国はノルウェー、チリ、イギリス、カナダなどです。日本のスーパーの店頭には、ノルウェーやチリ産の養殖アトランティックサーモンの刺身や切り身が毎日のように並んでいます。養殖アトランティックサーモンにはω3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が豊富に含まれています(後述する「ω3およびω6脂肪酸」を参照)。

⑩イワナ・オショロコマ

 イワナは(岩魚、char)はイワナ属(Salvelinus)の淡水魚の総称で、主に河川の上流の冷水域などに生息しています。イワナ類の種としては、イワナ(whitespotted charSalvelinus leucomaenis)、オショロコマ(別名:カラフトイワナ、Dolly VardenS. malma)、カワマス(brook troutS. fontinalis)、レイクトラウト(lake troutS. namaycush)などが知られています。

 イワナにはアメマス(Salvelinus leucomaenis leucomaenis)、ニッコウイワナ(S. l. pluvius)、ヤマトイワナ(S. l. japonicus)、ゴギ(S. l. imbrius)の4亜種が認められ、ロシア東岸、サハリン、日本などに分布しています。日本における亜種の地理的分布は、アメマスが北海道から東北、ニッコウイワナが太平洋側では山梨県富士川以北、日本海側では鳥取県日野川以北の本州各地、ヤマトイワナが本州中部と紀伊半島、ゴギが中国地方に大別されますが、分布域の重複も認められています。アメマスは河川と海洋を回遊する遡河回遊型ですが、その他は一生を淡水で過ごす河川型です。ニッコウイワナは近年、養殖もされており、都市部の店頭などにも並んでいるようです。紀伊半島の熊野川水系上流域にのみ生息しているヤマトイワナの地域個体群はキリクチとよばれています。

 イワナは多回産卵性で、河川上流域で9月〜11月に産卵が行なわれます。遡河回遊型のアメマスは孵化後すぐに降海せず、2〜3年程度河川で生活し、スモルト化した個体のみが降海します。スモルト化しないアメマスは河川に残留し、エゾイワナとよばれます。降海したアメマスはシロザケのように外洋へ大回遊することはなく、沿岸域を回遊するようです。

 オショロコマには同名亜種のオショロコマ(Salvelinus malma malma)とミヤベイワナ(S. m. miyabei)が知られています。オショロコマは北太平洋沿岸域に広く分布しており、アメリカ側ではアラスカ州北部からワシントン州にかけて、アジア側ではチュコト半島からカムチャッカ半島、ハバロフスク地方を経て朝鮮半島北部まで、ならびにサハリン、北海道などに生息しています。山岳地帯の源流域から河口域、湖、ならびに海洋まで多様な生息環境に適応しています。降海型のオショロコマは高緯度地域に生息する個体群に多くみられるようです。北海道のオショロコマは殆どが河川型ですが、知床半島周辺の河川では海から遡上してきた降海型が捕獲されるようです。ミヤベイワナは北海道の然別湖(シカリベツコ)とその流入河川にのみ生息するオショロコマの亜種です。然別湖は約1万5千年前に大雪山系の火山噴火で川が堰き止められてできた堰止め湖で、そのとき湖に陸封されたオショロコマが独自に進化を遂げたものがミヤベイワナです。

 カワマスは北アメリカ東部原産のイワナ類の仲間で、降海型もいます。1902年にアメリカから日光湯ノ湖に移入され、その後、日本各地に移植されました。

 レイクトラウトは北アメリカ北部原産の淡水魚で、1966年にカナダから日光中禅寺湖などに移入されました。

⑪イトウ

 イトウ(伊富、Sakhalin taimenあるいはJapanese huchenHucho perryi)はイトウ属(Hucho)の遡河回遊魚で、極東ロシアの沿海地方・ハバロフスク地方、サハリン、北海道などに分布しています(Parahucho属に分類されることがあります)。イトウ属のほとんどは純淡水魚ですが、イトウは降海性を示し、河川上流域から河口の汽水域、沿岸域にまで分布しています。成熟したイトウの生活拠点は汽水域・沿岸域のようです。イトウは多回産卵性で、春期(4月〜5月)に汽水域から河川上流に遡上・産卵し、その後速やかに汽水域に降河するようです。稚魚は7月〜8月頃に産卵床から浮上し、水生昆虫などを摂餌します。上流域で1〜2年間過ごし、体長が30cmを超える頃になると魚類(フクドジョウなど)、両生類(カエルなど)、時にはネズミなどを捕食するようになり、下流域に生息場所を移して行きます。

 イトウは食用としては非常にマイナーですが、近年、北海道(阿寒湖漁協と南富良野町)ならびに青森県(鰺ヶ沢町)で養殖されるようになり、日本人の口に入る機会が増えると思われます。

表10-4 サケ科の代表的な魚

カレイ目の魚

 カレイ目は14134678種から構成されており、一般的にカレイ(鰈、righteye flounder)、ヒラメ(鮃、large-tooth flounder)、シタビラメ(舌鮃、sole)とよばれる多くの魚が食用になります。表10-5にカレイ目の代表的な魚を示します。カレイはカレイ科の魚類の総称、ヒラメはヒラメ科とスコプタルムス科の魚類の総称、シタビラメはウシノシタ科とササウシノシタ科の魚類の総称です。これらは稚魚の間は、両目は体の左右に位置していますが、成長するとともにカレイでは左目が体の右側に移動し、ヒラメでは右目が体の左側に移動します。俗に、「左ヒラメに右カレイ」といわれます。但し、ヌマガレイは例外的に日本では左側に目があり、北米では左側にあるものと右側にあるものが混在しています。シタビラメではウシノシタ科は体の左側に目があり、ササウシノシタ科は体の右側に目があります。

 カレイ目の魚は両目のある側(有眼側)を上にして海底に横向きになり、砂や泥に潜るなどして生活しているため底生魚とよばれています。一般的に、有眼側は黒褐色から褐色を、無眼側は白色を呈しています。

 えんがわ(縁側)とはカレイやヒラメの体全体を囲むようにある長い背鰭(セビレ)と臀鰭(シリビレ)の付け根に並んでいる担鰭骨(タンキコツ)に沿って付いている筋肉のことです。脂ののったこくのある味とコリコリとした食感があり、刺身や寿司のネタの1つとして珍重されます。

①カレイ類

 マガレイ属(Pseudopleuronectes)のカレイにはマガレイ(真鰈、yellow striped flounderPseudopleuronectes herzensteini)やマコガレイ(真子鰈、marbled soleP. yokohamae)、クロガレイ(黒鰈、black plaiceP. obscurus)、クロガシラガレイ(黒頭鰈、cresthead flounderP. schrenki)などがあります。

 マガレイはオホーツク海沿岸、北海道〜福島県の太平洋沿岸、北海道〜長崎県の日本海・東シナ海沿岸などに分布しており、カレイ類の代表格です。塩焼きや煮つけ、唐揚げにして食べられます。干したものは適度に身がしまり、より美味しくなります。

 マコガレイは北海道〜土佐湾の太平洋沿岸、瀬戸内海、北海道〜九州の日本海・東シナ海沿岸、渤海〜東シナ海北部沿岸などに分布しています。内湾性で関東、中部、関西の大都市圏の近くでまとまって獲れるので、人気のあるカレイです。活け締めの刺身は最高といわれています。

 クロガレイやクロガシラガレイは有眼側が黒いのが特徴で、主として本州北部から北海道沿岸に分布しています。両魚種は市場では混同して取り扱われることがあります。ムニエル、潮汁、塩焼き、煮付け、唐揚げなどにして食べられます。

 オヒョウ(halibut)は漢字で大鮃すなわち大きな鮃と書きますが、カレイの仲間です。体長は3m前後になります。オヒョウ属(Hippoglossus)にはタイヘイヨウオヒョウ(太平洋大鮃、Pacific halibutHippoglossus stenolepis)とタイセイヨウオヒョウ(大西洋大鮃、Atlantic halibutH. hippoglossus)の2種があり、前者は主にオホーツク海、ベーリング海、アラスカ湾〜カリフォルニア半島に分布し、後者は北大西洋西部・東部に分布しています。カナダでは大西洋におけるオヒョウ漁が2013年にMSC認証を取得しています。北海道産やアメリカ・カナダからの輸入ものの切り身がスーパーなどで手に入ります。オヒョウのムニエルやフライは大変美味です。

 アカガレイ属(Hippoglossoides)にはアカガレイ(赤鰈、flathead flounderHippoglossoides dubius)やソウハチガレイ(宗八鰈、pointhead flounderH. pinetorum)が含まれます。両魚種ともオホーツク海、日本海、渤海、黄海、東シナ海、福島県以北の太平洋沿岸などに分布しています。アカガレイの名は無眼側が内出血したように赤いことに由来します。京都府機船底曳網漁業連合会のアカガレイ漁は2008年9月にアジアで初めてのMSC認証を取得しました。2013年には認証の継続が認められていましたが、201712月より認証が一時停止されています。アカガレイの活け締めした鮮度のよいものは、刺身が非常に美味だそうです。ソウハチガレイは主に干物として流通しています。

 アブラガレイ属(Atheresthes)のアブラガレイ(油鰈、Kamchatka flounderAtheresthes evermanni)は体長1m前後になる大きなカレイで、古くは油をとっていたためこの名が付けられたようです。東北以北の太平洋・日本海沿岸、オホーツク海、ベーリング海に分布しており、アメリカ(アラスカ)・カナダ産のものが日本に輸入されています。身には脂が多く含まれ、煮付けにすると非常に美味です。寿司の縁側としても人気があります。

 カラスガレイ属(Reinhardtius)のカラスガレイ(烏鰈、Greenland halibutReinhardtius hippoglossoides)はアブラガレイと同様に体長が1mを超える大型のカレイです。左目が完全に右側に移動しておらず、頭部側縁にあるのが特徴です。有眼側は全体に黒褐色から黒色、無眼側も薄墨色をしていることが名の由来です。北太平洋北部ならびに北大西洋北部の冷たい海域に分布しており、日本では主に北海道や青森県で漁獲されています。アブラガレイと同様に身に脂が多く、冷凍切り身として出回っています。縁側の寿司ネタとしての利用も多いようです。

 シュムシュガレイ属(Lepidopsetta)のアサバガレイ(浅場鰈、dusky soleLepidopsetta mochigarei)は日本海、オホーツク海南部、千島(クリル)列島から福島県にかけての太平洋沿岸に分布しています。子持ちガレイとして売られていることが多く、煮付けが美味です。

 ババガレイ属(Microstomus)のババガレイ(婆鰈、別名:ナメタガレイ、slime flounderMicrostomus achne)は体の表面の粘液が多く、薄汚れていて、皮がブヨブヨして老婆に見えるところから名付けられたそうです。東シナ海から渤海、日本海、サハリン沿岸、クリル列島南部、北海道から本州常磐にかけての太平洋沿岸に分布しています。煮付け、塩焼き、干物などにすると非常に美味です。

 ヌマガレイ(沼鰈、starry flounderPlatichthys stellatus)はヌマガレイ属(Platichthys)の魚類で、汽水域から河川や湖沼の淡水域にも生息し、時には河川の中流域まで遡上することからカワガレイ(川鰈)とよばれることもあります。産卵は海に下って行われます。日本海、オホーツク海、ベーリング海ならびに北太平洋の北西部千葉県沿岸からアリューシャン列島を経て東部南カルフォルニア沿岸にかけて分布しています。日本沿岸のヌマガレイはほぼ100%ヒラメのように両目が左側にありますが、アラスカ沿岸のものは約70%が、カリフォルニア沿岸のものは約50%が左側に両目があります。背鰭、臀鰭、尾鰭に黒色の帯模様があるのが特徴です。身に脂が少なく、味の評価は低いですが、活け締めして刺身で食べるのが一番美味しいようです。

 2019年の日本におけるカレイ類の漁獲量は39,800トンです。主な生産地は北海道、島根県、鳥取県、兵庫県などで、北海道が全国の漁獲量の約60%を占めています。

②ヒラメ類

 ヒラメ科ヒラメ属(Paralichthys)のヒラメ(鮃、bastard halibutParalichthys olivaceus)は北太平洋西部、オホーツク海、日本海、東シナ海、南シナ海に分布する体長1m前後になる海水魚です。2019年の日本におけるヒラメの漁獲量は6,900トンであり、北海道、宮城県、青森県、福島県などで主に水揚げされています。刺身や寿司ネタになる高級食材で、養殖もされています。2019年のヒラメの養殖量は2,000トンであり、大分県、鹿児島県、愛媛県などで主に生産されています。大分県の養殖ヒラメはカボス果汁を混ぜた餌で育てられており、「かぼすヒラメ」というブランド名で知られています。

 ヒラメ科ガンゾウビラメ属(Pseudorhombus)にはガンゾウビラメ(雁瘡鮃、cinnamon flounderPseudorhombus cinnamoneus)やタマガンゾウビラメ(玉雁瘡鮃、fivespot flounderP. pentophthalmus)が含まれています。雁瘡(ガンガサあるいはガンソウ)とは雁が飛来する頃に発症し、帰る頃に治癒するという湿疹性皮膚病の俗称です。ガンゾウビラメ(雁瘡鮃)の名は、皮が雁瘡のようにガサガサしていることに由来するようです。ガンゾウビラメは千葉県から南九州にかけての太平洋沿岸、青森県から長崎県にかけての日本海・東シナ海沿岸、朝鮮半島から中国広東州にかけての渤海・黄海・東シナ海・南シナ海沿岸に分布しています。ヒラメより小さく(体長3040cm程度)、有眼側に輪郭のある1つの斑紋があります。非常に美味だそうですが、日本における漁獲量は多くなく、産地周辺で消費されているようです。

 タマガンゾウビラメは南北海道から南九州にかけての太平洋・日本海・東シナ海沿岸、瀬戸内海、朝鮮半島・中国・台湾の東シナ海沿岸に分布しています。魚体はガンゾウビラメより小さく、体長は2025cm程度です。有眼側に5つの斑紋があるのが特徴で、英名のfivespot flounderの由来になっています。産地などでは刺身や煮付けなどで食べられていますが、一般には干物が流通しているようです。

 スコプタルムス科スコプタルムス属(Scophthalmus)のイシビラメ(石鮃、turbotScophthalmus maximus)は北大西洋の北東部、バルト海、地中海、黒海に分布するヨーロッパ産ヒラメで、ヨーロッパの重要な魚種です。体長は日本のヒラメと同じくらいで1m前後になります。乱獲により漁獲量が激減したため、現在はヨーロッパ各国で養殖が進んでいます。中国、韓国、チリでも盛んに養殖されています。

③シタビラメ類

 ウシノシタ科とササウシノシタ科の魚類はシタビラメ(舌鮃)とよばれていますが、これは形がウシの舌に似ていることに由来します。ウシノシタ科は両目が左側にあり、ササウシノシタ科は右側にあります。シタビラメは非常に美味であり、ムニエルにして食べるのが定番のようです。

 日本で食用になっているウシノシタ科のシタビラメとしてはイヌノシタ属(Cynoglossus)のイヌノシタ(犬之舌、robust tonguefishCynoglossus robustus)やアカシタビラメ(赤舌鮃、red tonguefishC. joyneri)、タイワンシタビラメ属(Paraplagusia)のクロウシノシタ(黒牛舌、black cow-tongueParaplagusia japonica)の3種が主流だといわれています。これらのシタビラメはいずれも南シナ海、東シナ海、黄海に分布していますが、日本近海での分布域に多少違いが見られます。イヌノシタは太平洋側では房総半島辺りまで、日本海側では新潟県辺りまで分布しており、アカシタビラメは太平洋側では岩手県辺りまで、日本海側では新潟県辺りまで分布しています。クロウシノシタは北海道南部までの日本海・太平洋沿岸に生息し、3種の中では最も北にまで分布しています。イヌノシタとアカシタビラメの有眼側は赤みがかった褐色をし、無眼側は血がにじんだように赤い色をしています。体長はイヌノシタが4045cmであるのに対して、アカシタビラメは2530cmとやや小型です。クロウシノシタの有眼側は黒褐色で、無眼側は白く、鰭が黒くて白縁があるという特徴があり、体長はイヌノシタと同程度で4045cmです。

 ヨーロッパのシタビラメとしてはササウシノシタ科ソレア属(Solea)のヨーロッパソール(common soleSolea solea)が代表格で、最も人気のある高級魚の1つです。ソール(sole)は靴底の意味で、体長は最大70cm程度になります。ノルウェー南部から北西アフリカのセネガルにかけての北大西洋沿岸(北海やバルト海西部を含む)や地中海、黒海に分布しています。かつてドーバー海峡に臨むイギリス南東部の港町ドーバーで盛んに水揚げされたため、ドーバーソール(Dover sole)の別名があります。2016年の世界における漁獲量は3.2万トンで、オランダやフランスが主な産地です。養殖も行われており、2010年以降の生産量は100トン前後で推移しています。
表10-5 カレイ目の代表的な魚

タラ目の魚

 タラ(鱈、cod)はタラ目の魚類の総称です。タラ目は9科75555種に分類されており、そのうちのタラ科、メルルーサ科、マクルロヌス科、チゴダラ科の魚が主に食用にされています。表10-6に代表的なタラ目の魚を示します。

①タラ科の魚

 マダラ属(Gadus)にはマダラ(真鱈、Pacific codGadus macrocephalus)やスケトウダラ(介党鱈、Alaska pollockまたはwalleye pollockG. chalcogrammus)、タイセイヨウダラ(大西洋鱈、Atlantic codG. morhua)が含まれます。スケトウダラは、かつてスケトウダラ属(Theragra)に分類されていましたが、2014年にマダラ属に変更されました。マダラやスケトウダラは日本海、オホーツク海、ベーリング海、日本の本州北部からアリューシャン列島を経てアメリカのカリフォルニア州までの北太平洋沿岸に分布しています。タイセイヨウダラはアメリカのノースカロライナ州からグリーンランド・アイスランドを経てスペインのビスケー湾までの北大西洋沿岸ならびにバルト海、北海、ノルウェー海、バレンツ海に分布しています。

 日本で古くからタラといえばマダラを指していました。マダラはタラ類の中では大型で、体長は1m前後になります。スケトウダラは中型で、体長は60cm程度です。マダラの白子(精巣)は大変美味ですが、非常に高価です。スケトウダラの白子は手頃な値段で買えます。一般的に「たらこ」といえばスケトウダラの卵巣のことで、「塩蔵たらこ」や「辛子明太子」は人気食品です。マダラの卵巣は「真鱈子」とよばれており、たらこより安く手に入ります。マダラの身を使った鍋料理「たらちり」やフライ、粗(アラ)を使った「じゃっぱ汁」(青森県の郷土料理)などは非常に美味です。スケトウダラは漁獲後に船上ですり身にして冷凍する技術が確立され、蒲鉾や竹輪、薩摩揚げ、鳴戸巻き、はんぺん、ソーセージなどの練り製品に利用されています。「棒鱈」は内蔵をとったスケトウダラを水にさらし、凍結乾燥を繰り返して干し上げたもので、長期保存が可能です。マクドナルドで販売されている「フィレオフィッシュ」という商品はスケトウダラのフライを使ったものです。

 2019年における日本のマダラ漁獲量は5.32万トン、スケトウダラ漁獲量は15.38万トンです。マダラの主な産地は北海道、岩手県、青森県、宮城県であり、北海道が74.2%のシェアを占めています。スケトウダラの主要な産地は北海道であり、シェアは95.0%です。

 世界におけるスケトウダラの漁獲量は2011年以降年間300万〜350万トン程度で推移しており、2018年においてはアンチョベータ(ペルーカタクチイワシ)の705万トンに次いで第2位の340万トンです。

 タイセイヨウダラはヨーロッパ近海で最も古くから獲られていた魚の1つです。マダラと同様に大型のタラで、体長は1m程度になります。タイセイヨウダラも世界における漁獲量の比較的多い魚種で、2018年には122万トンの水揚げ量がありました。

 コマイ属(Eleginus)のコマイ(氷下魚、saffron codEleginus gracilis)は体長30cm前後の小型のタラで、北太平洋およびその縁海の黄海、日本海、オホーツク海、ベーリング海に分布しています。主に干物として流通しています。冬期に獲れたコマイを上述した棒鱈のように氷点下の屋外で凍結乾燥したものは「かんかい」とよばれています。

 ミナミダラ属(Micromesistius)にはミナミダラ(Southern blue whitingMicromesistius australis)やプタスダラ(blue whitingM. poutassou)が含まれます。ミナミダラは体長50cm程度になる中型のタラで、ニュージーランド南部やチリ、アルゼンチンなどの沿岸に分布しています。スケトウダラの代替品としてすり身にして利用されます。ニュージーランドのミナミダラ漁業は2012年にMSC認証を取得しています。

 プタスダラは体長30cm程度の小型のタラで、バレンツ海(北極海のヨーロッパ側の一部)からアイスランド周辺、ならびに北大西洋東部(地中海西部を含む)に分布しています。2018年におけるプタスダラの漁獲量は171万トンと多く、海水魚の世界における漁獲量としては第5位です。多くがフィッシュミール(魚粉)や魚油の原料として利用されています。

②メルルーサ科の魚

 メルルーサ(merluza:スペイン語)はメルルーサ科の魚類の総称で、英名はヘイクhakeです。メルルーサ属(Merluccius)にはケープヘイク(Cape hakeMerluccius capensis)やアルゼンチンヘイク(Argentine hakeM. hubbsi)、ヨーロッパヘイク(European hakeM. merluccius)、キタタイヘイヨウヘイク(North Pacific hakeM. productus)などが含まれます。

 ケープヘイクはアフリカのアンゴラから南アフリカ共和国にかけての南大西洋大陸棚に分布し、アルゼンチンヘイクは南米のブラジルからフォークランド諸島にかけての南大西洋大陸棚に分布します。両種は体長4060cm程度の中型のタラです。

 ヨーロッパヘイクはノルウェー・アイスランドから西アフリカのモーリタニアにかけての北大西洋東部海域ならびに地中海に分布する体長1m程度の大型の魚です。西ヨーロッパの重要な魚で、主に鮮魚として流通しています。

 キタタイヘイヨウヘイクは北米西岸のバンクーバー島からカリフォルニアにいたる北太平洋東部海域に分布し、体長は60cm程度になります。鮮魚や冷凍フィレとして流通する他、すり身にも加工されます。

③マクルロヌス科の魚

 ホキ属(Macruronus)はかつてメルルーサ科に分類されていましたが、最近マクルロヌス科として独立しました。ホキ(blue grenadierMacruronus novaezelandiae)やデコラ(Patagonian grenadierM. magellanicus)はホキ属の魚です。ホキの学名Macruronus novaezelandiaeは「ニュージーランドの大きな尾」を意味するそうです。ホキもデコラも体長120cm前後になる大型のタラ類で、ホキはニュージーランド南島周辺、オーストラリア南部・タスマニア島近海に分布し、デコラはアルゼンチン・チリ近海に分布ます。ホキもデコラも主に冷凍フィレとして流通しており、日本にも輸入されています。フライにして食べると美味しいようです。

④チゴダラ科の魚

 チゴダラ(稚児鱈、Japanese codlingPhysiculus japonicus)は、体長40cm前後のチゴダラ属(Physiculus)の魚で、北海道から高知県までの太平洋沿岸、北海道から山口県までの日本海沿岸などに分布します。エゾイソアイナメと同じだといわれています。水揚げ地周辺で、みそ汁や煮付けとして食べられています。

表10-6 タラ目の代表的な魚

ニシン目の魚

 ニシン目は6科80400種に分類されており、そのうちのニシン科、ウルメイワシ科、カタクチイワシ科の魚が主に食用にされています(表10-7)。

 ニシン目にはアンチョベータ(ペルーカタクチイワシ)やタイセイヨウニシン、ヨーロッパマイワシ(ニシイワシ)、カタクチイワシなど漁獲量の多い魚種が含まれています。日本でイワシ3種といわれるものはマイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシです。

①ニシン科の魚

 ニシン属(Clupea)にはニシン(鰊または鯡、Pacific herringClupea pallasii)やタイセイヨウニシン(大西洋鰊、Atlantic herringClupea harengus)が含まれます。ニシンは体長35cm前後の海水魚で、日本からアリューシャン列島・アラスカ湾を経てカリフォルニア半島に至る北太平洋(日本海、オホーツク海、ベーリング海を含む)に広く分布しています。一方、タイセイヨウニシンは前述した太平洋のニシンよりやや大きく(体長:45cm程度)、米国のノースカロライナ州からアイスランドを経てヨーロッパのビスケー湾までの北大西洋(ノルウェー海や北海を含む)に広く分布しています。

 ニシンは春(2月〜5月)に産卵のために北海道西岸に大群で近づくことから「春告魚(ハルツゲウオ)」とよばれ、また、このニシンの大群を群来(クキ)とよんでいます。沿岸の浅い海域の海藻が繁茂した場所にメスが産卵し、同時にオスが一斉に放精することにより海は乳白色に濁ります。ニシンの卵が一面に付着したコンブやワカメは「子持ちこんぶ」、「子持ちわかめ」とよばれ、大変珍味です。

 ニシンやタイセイヨウニシンの卵巣を塩漬けしたものは「数の子」とよばれ、頭と尾と内蔵を取り去り、身を2つに裂いて干したものは「身欠きにしん」とよばれます。「にしん漬け」は身欠きにしんを米のとぎ汁などにつけて戻し、大根、人参、キャベツなどの野菜と塩、麹で漬け込んだもので、にしんの旨味が野菜にしみ込みんで、なかなか美味です。身欠きにしんを戻して昆布に巻いて煮た「昆布巻き」は、スーパーなどで市販されています。「にしん棒煮」は身欠きにしんを戻して軟らかく甘辛く煮たもので、これを「かけそば」にのせたものが京都名物の「にしんそば」です。

 明治20年(1887年)頃から昭和の初期頃までは日本におけるニシンの年間漁獲量は40万トンを超えていましたが、その後急激に減少し、昭和30年代には5万トン以下になり、平成初期には2千トン前後に落ち込みました。近年回復傾向に転じ、2017年に0.92万トン、2018年に1.24万トン、2019年に1.49万トンの漁獲がありました。北海道が99.3%のシェアを占めています。

 2018年の世界におけるタイセイヨウニシンの漁獲量は182万トンであり、アンチョベータ、スケトウダラ、カツオに次いで第4位です。

 北海道産のニシンは鮮魚として流通していますが、数の子や身欠きにしんのほとんどはアメリカやカナダ、ロシア、ノルウェーから輸入されています。

 マイワシ(真鰯、Japanese pilchardSardinops melanostictus)は体長20cm程度のマイワシ属(Sardinops)の魚類で、サハリンから南シナ海までの東アジア沿岸域に分布しています。2019年の日本におけるマイワシの漁獲量は53.53万トンであり、イワシ類の中では最も多く水揚げされています。主な産地は茨城県、千葉県、福島県、宮城県など東日本の太平洋沿岸ですが(これら4県で総漁獲量の62%を占めます)、鳥取県や石川県などの日本海側や、愛媛県、長崎県などでもかなりの水揚げがあります。鮮魚や開き干し、丸干し、缶詰などとして流通しています。

 シラスとはイワシ類の稚魚のことで、主にマイワシのシラス(マシラス)とカタクチイワシのシラス(カタクチシラス)に分けられます。日本における2019年のシラスの漁獲量は5.95万トンであり、主な産地は愛知県、静岡県、大阪府、茨城県、愛媛県、高知県、大分県などです。カタクチシラスの方がマシラスより多く水揚げされています。シラスは「釜揚げしらす」、「しらす干し」、「ちりめんじゃこ(縮緬雑魚)」として販売されています。シラスを塩茹で後、放冷しただけのものが「釜揚げしらす」、軽く乾かしたものが「しらす干し」、強く干したものが「ちりめんじゃこ」とよばれています。

 ヨーロッパマイワシ(別名:ニシイワシ、European pilchardSardina pilchardus)は体長20cm程度のサルディナ属(Sardina)の海水魚です。分布域はアイスランド・ノルウェーから西アフリカのセネガル辺りまでの北大西洋の東部沿岸(北海、地中海、黒海を含む)です。2018年の世界におけるヨーロッパマイワシの漁獲量は161万トンであり、単一魚種としては第6位です。ビスケー湾におけるヨーロッパマイワシ漁業についてはイギリス、フランス、スペインでMSC認証が取得されています。

 コノシロ(鰶、dotted gizzard shadKonosirus punctatus)は体長25cm前後になるコノシロ属(Konosirus)の魚です。出世魚で4〜5cmのものをシンコ(新子)、7〜10cm程度のものをコハダ(小鰭)、13cm程度のものをナカズミ、15cm以上のものをコノシロとよんでいます。コノシロは成長するに従って値段が安くなり、シンコが最も高く、コノシロは非常に安いそうです。古くはコノシロの幼魚をツナシとよんでおり、「万葉集」の大伴家持の長歌に

 #4011: ・・・汝(な)が恋ふる その秀(ほ)つ鷹は 松田江の
         浜行き暮らし つなし捕る 氷見(ひみ)の江過ぎて
         多祜(たこ)の島 飛びたもとほり・・・

と詠まれています。日本では仙台湾辺りから九州南岸にかけての太平洋沿岸、新潟県から九州南岸にかけての日本海・東シナ海沿岸、瀬戸内海に分布し、内湾や河口の汽水域に生息します。コノシロは煮付けや塩焼き、酢締めなどにして食されます。酢締めのコハダ寿司は美味です。2019年の日本におけるコノシロの漁獲量は4,900トンで、主に千葉県、熊本県、大阪府、神奈川県などで水揚げされています。

 サッパ(別名:ママカリ、Japanese sardinellaSardinella zunasi)はサッパ属(Sardinella)の海水魚で、体長12cm前後になります。日本においては北海道から九州南部までの太平洋・日本海・東シナ海沿岸および瀬戸内海に分布しています。主に瀬戸内海沿岸で漁獲され、焼いたり、酢漬けにしたり、佃煮にしたりして食されます。煮ないで生のまま干した「素干し」も作られます。

 キビナゴ(黍魚子、silver-stripe round herringSpratelloides gracilis)は体長10cm前後になるキビナゴ属(Spratelloides)の魚です。日本においては伊豆半島辺りから九州南部にかけての太平洋沿岸や中国・九州の日本海・東シナ海沿岸、南西諸島沿岸の暖流域に分布しています。刺身や唐揚げ、魚すきなどにして食べます。また、成魚の一夜干し、素干し、煮干し、稚魚の「きびなごちりめん」などの干物にも加工されます。

②ウルメイワシ科の魚

 ウルメイワシ(潤目鰯、Western Pacific red-eye round herringEtrumeus micropus)は体長30cm程になるウルメイワシ属(Etrumeus)の海水魚で、眼に厚い脂瞼(シケン)があり潤んだように見えるため潤目鰯と名付けられました。分布域は富山県辺りから長崎県までの日本海沿岸、宮城県辺りから鹿児島県までの太平洋沿岸、東シナ海、南シナ海などです。主に丸干しとして流通しており、「目ざし」や「頬ざし」として知られています。

 ウルメイワシ属にはE. micropus以外にハワイ諸島周辺に分布するE. makiawaHawaiian red-eye round herring)や北東太平洋に分布するE. acuminatusEastern Pacific red-eye round herring)、北西大西洋に分布するE. sadina(またはE. teresAtlantic red-eye round herring)などが含まれます。

 2019年の日本におけるウルメイワシの漁獲量は6.07万トンで(イワシ3種の中では最も少ない)、主な産地は島根県、宮崎県、長崎県、高知県、鹿児島県などの西日本です。

③カタクチイワシ科の魚

 カタクチイワシ科の魚はアンチョビ(anchovy)と総称され、カタクチイワシ属(Engraulis)、エツ属(Coilia)、ツマリエツ属(Setipinna)などに分類されます。主要なものはカタクチイワシ属のカタクチイワシ(片口鰯、別名:セグロイワシ、Japanese anchovyE. japonicus)、アンチョベータ(別名:ペルーカタクチイワシ、anchovetaE. ringens)、ヨーロッパカタクチイワシ(European anchovyE. encrasicolus)などです。

 カタクチイワシは体長14cm前後で、沿岸性の強い海水魚です。分布域はカムチャッカ半島南部から日本・台湾を経て、フィリピン諸島辺りまでの北太平洋西部沿岸(日本海、東シナ海、南シナ海を含む)です。成魚は鮮魚での流通は少なく、多くは「煮干し」や「焼き干し」、「目ざし」、「みりん干し」などの干物に加工されます。マイワシのところで述べたように、カタクチイワシの稚魚はシラス(カタクチシラス)とよばれ、「釜揚げしらす」や「しらす干し」、「ちりめんじゃこ」として流通しています。

 2019年の日本におけるカタクチイワシの漁獲量は13.3万トン(マイワシの約1/4)で、主な産地は長崎県、三重県、愛知県、愛媛県、広島県、香川県、千葉県などです。世界における2018年のカタクチイワシ漁獲量は95.7万トンで、イワシ類では後述するアンチョベータ、前述したヨーロッパマイワシに次いで3番目に多くなっています。

 アンチョベータは南太平洋東部のペルー・チリ沖に分布するカタクチイワシで、体長20cm程度にまで成長します。アンチョベータの漁獲量は1970年頃には年間1,000万トンを超えていましたが、その後急激に減少し、1990年頃までは年間400万トン以下あるいは年により100万トン以下に落ち込むことがありました。これにはエルニーニョと乱獲が大きく関与していると考えられています。エルニーニョが発生してペルー沖の海水温が上昇すると、高水温に弱いアンチョベータの資源量は低迷し、更に不十分な資源管理(乱獲)がこれに拍車をかけたという訳です。資源管理が十分に行われるようになると資源は回復し、2005年〜2014年の平均年間漁獲量は652万トンでした。2015年は431万トン、2016年は319万トン、2017年は392万トンとやや低調でしたが、2018年には705万トンとなり、単一魚種としてはだんトツでした(2位のスケトウダラ:340万トン)。漁獲される多くのアンチョベータから魚粉や魚油が生産され、これらは世界中で急伸する養殖魚類の餌の原料などとして供給されています。また、魚油にはヒトの健康を維持・改善する機能のあるω3脂肪酸(EPADHA)が多く含まれているので、機能性食品や医薬品の原料としても利用されています(後述する「ω3およびω6脂肪酸」を参照)。

 ヨーロッパカタクチイワシは体長15cm程度の海水魚で、北はノルウェー南部から南はナイジェリア辺りまでの北大西洋東部沿岸(地中海や黒海などを含む)に分布しています。スペインのカンタブリア海におけるヨーロッパカタクチイワシ漁業は、2015年に同魚種としてはヨーロッパで最初のMSC認証を取得しています。

表10-7 ニシン目の代表的な魚

キュウリウオ目の魚

 キュウリウオ目は4科2288種に分類されており、主に表10-8に示すキュウリウオ科とシラウオ科の魚が食用に供されています。

①アユ

 アユ(鮎、ayuまたはsweetfishPlecoglossus altivelis)は東アジアに分布するキュウリウオ科アユ属(Plecoglossus)の魚で、日本においては北海道から沖縄までの河川や湖沼、ダム湖などに生息しています。また、大陸では朝鮮半島辺りから中国とベトナムの国境辺りにかけての沿岸、ならびに台湾に分布しています。アユはオオアユ(P. altivelis altivelis)、リュウキュウアユ(P. altivelis ryukyuensis)、チャイニーズアユ(P. altivelis chinensis)の3亜種に分類されています。オオアユは北海道から九州に分布するいわゆるアユで、リュウキュウアユは奄美大島や沖縄に分布しています。琵琶湖に生息するアユはコアユ(小鮎)とよばれ、遺伝的にはオオアユと異なるようですが、正式には亜種として分類されていません。

 アユは秋に川の下流域で産卵し、孵化した仔魚は数日のうちに海に下ります。塩分濃度の比較的低い河口から4kmを超えない海域で、カイアシ類などの動物性プランクトンを捕食して成長し、稚魚期には動・植物性プランクトンや小型水生昆虫などを捕食します。アユの稚魚は「氷魚(ヒウオまたはヒオ)」あるいは「シラスアユ」とよばれます。冬を海で過ごし、5〜10cm程度に成長した幼魚は春になると川を遡上します。川の中流から上流域に辿り着いた幼魚は水生昆虫なども捕食しますが、川底の石や岩などに付着した藻類(藍藻、珪藻、緑藻)を主食として成長します。川で生活するアユは1匹につき約1m2の縄張りをもちます。体長は2025cm程度になり、秋に産卵のため下流に下ります。この子持ち鮎は「落ち鮎」とよばれます。鮎は普通産卵後に死んでしまい、寿命が1年であることから「年魚(ネンギョ)」ともよばれます。一部は年を越すものもあり、「止まり鮎」あるいは「通し鮎」とよばれます。

 アユは上述したように川で孵化し、海で仔・稚魚期を過ごし、幼魚期に川に遡上して成長し、産卵後寿命を終えます。このような生活史をもつアユは淡水性の両側回遊魚とよばれ、サケのように川で孵化し、海で成長して川で産卵する遡河回遊魚とは区別されます。

 琵琶湖に生息するコアユは海に下らないで、琵琶湖を海の代わりに利用して生活しています(いわゆる陸封型です)。長い間、淡水で世代交代を繰り返したため、海水適応能を失っていると考えられています。湖ではミジンコなどの浮遊動物を捕食します。稚魚の一部は春に琵琶湖の流入河川に遡上し、藻類を食べることによりオオアユと同程度にまで成長しますが、大部分は湖内に留まりミジンコなどしか食べないので10cm程度にしか成長しません(コアユとよばれる所以です)。コアユは秋になると川に遡上して産卵するか、あるいは湖岸に近いところで産卵し、一生を終えます。川で孵化した仔魚は湖に下り冬を過ごします。

 鮎漁には友釣りや鮎汲み、投網漁、梁漁、鵜飼などがあります(長良川の鵜飼は有名)。塩焼きにして食べるのが基本ですが、天ぷらやムニエルにしても美味です。卵巣や白子を塩漬けにした「うるか」は大層美味で、酒の肴に珍重されています。アユにはキュウリ様香気成分(2,6-ノナジエナール)やスイカ・メロン様香気成分(3,6-ノナジエン-1-オール)が含まれており、刺身や背越しなど生食も好まれますが、アユは横川吸虫という寄生虫の中間宿主であるため、内閣府食品安全委員会は生食を避けるよう注意喚起しています。琵琶湖で12月〜3月頃に水揚げされる氷魚は佃煮や釜揚げなどにして、4月〜8月頃に獲られる小鮎は山椒煮や煮付け、天日干しなどにして食されます。

 アユは古来日本人に親しまれてきた魚であり、「万葉集」には鮎を詠んだ歌が数多くあります。また、万葉の時代に鵜飼はすでに行われており、大伴家持の長歌や短歌に

 #4156: ・・・流る辟田(さきた)の 川の瀬に 鮎子さ走る

         島つ鳥 鵜養伴なへ 篝(かがり)さし なづさひ行けば・・・

 #4158: 年のはに 鮎し走らば 辟田川 鵜八つ潜(かづ)けて 川瀬尋ねむ

などと詠まれています。

 日本における天然アユの漁獲量は平成初期には18,000トン前後ありましたが、その後は減少を続け2019年は2,051トンでした。主な産地は神奈川県、茨城県、栃木県、岐阜県、愛媛県などです。アユの養殖は1909年(明治42年)に石川千代松により琵琶湖のコアユを用いて行われたのが最初といわれています。2019年の養殖アユの生産量は4,067トンであり、天然アユの約2倍でした。主な産地は愛知県、岐阜県、和歌山県、栃木県、滋賀県などです。

②シシャモ・カラフトシシャモ

 シシャモ属(Spirinchus)のシシャモ(柳葉魚、shishamo smeltSpirinchus lanceolatus)は北海道南東部の太平洋側だけに生息する日本固有種で、遺伝的に分化した日高系(鵡川、沙流川など)と十勝・釧路系(十勝川、新釧路川など)の両系群に分類されています。サケと同じ遡河回遊魚で、海で育った成魚は秋(10月〜12月)に川の下流域に遡上・産卵し、翌年の4月〜5月に孵化した仔魚は直ちに降海します(産卵から孵化まで約6ヶ月を要します)。沿岸域で、仔・稚魚の間は動・植物性プランクトンを捕食し、ある程度大きくなるとゴカイや潮虫の仲間を捕食して成長します。海で越冬し、1歳半で体長15cm程度になった成魚は秋に川に遡上し、繁殖行動後は海に下り死んでしまいます。メスの一部は生き残り、翌年2歳半で再び産卵に加わるものもいるようです。未成魚のオスは1歳半になっても遡河せず海で再び越冬し、秋に繁殖のため川に遡上します。

 シシャモは秋に産卵のため川に上る時期が漁期です。1966年〜1968年頃は3,0004,000トン程度獲れていたようですが、近年は1,000トン前後しか水揚げがありません。鮮魚は刺身や塩焼き、ムニエルにして食され、干物にもされますが、非常に高価です。

 カラフトシシャモ(樺太柳葉魚、capelinMallotus villosus)はカラフトシシャモ属(Mallotus)の海水魚であり、上述したシシャモと異なり遡河回遊魚ではありません。北太平洋北部から北極海、北大西洋北部にかけて世界的に広く分布しています。3〜4年で成熟し、沿岸で産卵し一生を終えます。体長は20cm前後になります。世界の漁獲量は1977年頃には年間300400万トンもありましたが、その後は乱獲により急激に減少し、近年は年間30万トン前後に落ち込んでいます。日本のスーパーなどで普段見かけるシシャモ類のほとんどは輸入カラフトシシャモ(子持ちシシャモ)の干物です。2010年〜2018年の間はアイスランドやノルウェー、カナダなどから年間2万トン前後が輸入されていましたが、アイスランドとノルウェーは資源保護のために2019年から禁漁となっているため、輸入量は激減しています。

③チカ・ワカサギ

 チカ(千魚、Japanese smeltHypomesus japonicus)とワカサギ(公魚、wakasagiまたはpond smeltHypomesus nipponensis)はワカサギ属(Hypomesus)の魚類です。ワカサギを公魚と書くのは、江戸時代に常陸国麻生藩が11代将軍徳川家斉に霞ヶ浦のワカサギを年貢として納め、公儀御用魚としたことに由来します。

 チカは海水魚で、日本の北海道や三陸以北の本州(陸奥湾を含む)、大陸の朝鮮半島からカムチャッカ半島、サハリン、クリル列島の沿岸域に生息しています。寿命は4年前後で、体長は25cm前後になります。フライや天ぷら、塩焼きが美味です。鮮度がよければ、刺身や酢締め、昆布締めなど生食もお勧めです。

 ワカサギは本州日本海側の島根県以北、太平洋側では千葉県以北、ならびに北海道の河川の下流や河口の汽水域、汽水湖(宍道湖、八郎湖、霞ヶ浦、小川原湖、網走湖など)に生息しています。ロシアのハバロフスクのウスリー川やサハリンのオホーツク海に面した河川、ベーリング海に面したアナジリ川、東シベリア海に面したコリマ川などにも分布しています。

 ワカサギは本来、河川で孵化した後、海に下り成長し、産卵のために河川に遡上する遡河回遊魚です。淡水域だけでも生きられるため日本各地の湖沼(阿寒湖、洞爺湖、芦ノ湖、山中湖、諏訪湖、琵琶湖など)やダム湖に移植されています。冬期に結氷する湖沼におけるワカサギの氷上穴釣りは人気があります。網走湖や小川原湖、宍道湖などの汽水湖では湖内滞留型と遡河回遊型が存在することが知られています。繁殖期には湖に流入する河川に上り産卵するケースと湖内で産卵するケースがあります。産卵時期は関東以西(霞ヶ浦や河北潟、宍道湖など)では1月〜2月(諏訪湖や西湖では2月〜5月)、東北地方(八郎湖や小川原湖など)では3月〜4月、北海道(網走湖や阿寒湖など)では4月〜6月であり、秋に産卵するアユとは異なります。孵化した仔魚は海あるいは湖に流れ下り、約1年で成熟し、体長10cm程度になります。産卵後は多くが死にますが、2年あるいは3年生きるものもいるようです。

 2019年の日本におけるワカサギの漁獲量は981トンであり、主な産地は青森県、北海道、秋田県、茨城県などです。青森県小川原湖のワカサギ水揚げ量は後述するシラウオと並んで全国トップです(ワカサギ:42%、シラウオ:51%)。フライや天ぷら、素焼き、塩焼き、佃煮、甘露煮などにして食されます。

④シラウオ・イシカワシラウオ

 シラウオ(白魚、shirauoまたはJapanese icefishSalangichthys microdon)は北海道から九州南部(鹿児島県)にかけて、ならびに朝鮮半島東岸から沿海州、サハリンにかけての極東アジアに分布するシラウオ科シラウオ属(Salangichthys)の魚類で、スズキ目ハゼ科シロウオ属のシロウオ(素魚、ice gobyLeucopsarion petersii)とは異なる種です。生きている間は半透明ですが、死ぬと全体が白くなることが和名の由来だそうです。シラウオは遡河回遊魚で、河川の河口や汽水湖(サロマ湖、網走湖、小川原湖、霞ヶ浦、宍道湖など)の汽水域あるいは海洋沿岸域に生息しています。体長10cm前後になる1年魚で、2月〜5月に産卵し、一生を終えます。

 網走湖や小川原湖のシラウオはワカサギと同じように湖内滞留型と遡河回遊型が存在しますが、涸沼(ヒヌマ)では湖内滞留型のみが存在するようです。

 2019年の日本におけるシラウオの漁獲量は565トンであり、主な産地は青森県、茨城県、島根県などです。天ぷらや唐揚げ、刺身、卵とじ、佃煮、吸物などにして食されます。シラウオはアユとともに横川吸虫という寄生虫の中間宿主であるため、生食は避けましょう。

 イシカワシラウオ(石川白魚、Ishikawa icefishNeosalangichthys ishikawae)は元来シラウオ属に分類されていましたが、2012年に新たにイシカワシラウオ属(Neosalangichthys)として再分類されました。和名はアユの養殖のところで述べた石川千代松への献名ではないかといわれています。日本固有の海水魚で、青森県から和歌山県に至る太平洋沿岸に生息し、淡水域には入らないとされています。体長6cm前後になる1年魚で、2月〜5月に産卵し、一生を終えます。刺身やかき揚げ、卵とじ、吸物、釜揚げなどにして食されます。海水魚なので横川吸虫の心配はいりません。

表10-8 キュウリウオ目の代表的な魚

ウナギ目の魚

 ウナギ目は15141790種に分類されており、そのうちのウナギ科、アナゴ科、ハモ科の魚が主に食用に供されています(表10-9)。

①ウナギ

 ウナギ(鰻、eel)はウナギ科ウナギ属(Anguilla)の魚類の総称です。ウナギ類は海で生まれ、河川や湖沼に遡上して成長した後、海に下って産卵するという生活史をもつため降河回遊魚とよばれます。食用になる主なものはニホンウナギ(Japanese eelAnguilla japonica)、ヨーロッパウナギ(European eelA. anguilla)、アメリカウナギ(American eelA. rostrata)、ビカーラウナギ(Indonesian shortfin eelA. bicolor bicolor)の4種です。ニホンウナギは東アジア(日本、朝鮮半島、中国、台湾など)の沿岸域に、ヨーロッパウナギはユーラシア大陸西部やアフリカ大陸北部の沿岸域に、アメリカウナギは北アメリカ大陸の大西洋沿岸域(メキシコ湾・カリブ海沿岸域を含む)や西インド諸島などに、ビカーラウナギは東南アジアやインド、アフリカ東部などの沿岸域にそれぞれ分布しています。

 ニホンウナギの産卵場は東京から約2,300km離れたマリアナ諸島の西方海域にあるスルガ海山近傍であることが東京大学海洋研究所の塚本勝巳らにより特定されています。4月〜8月頃にかけて新月の日前後に産卵され、受精卵は36時間という短い期間で孵化します。仔魚期(体長1〜6cm)のウナギは透明で柳の葉のような形をしており、レプトセファルスとよばれ、北赤道海流に乗り西へと輸送されます。北赤道海流はフィリピン東方沖で黒潮とミンダナオ海流に分かれます。黒潮に乗り換えたレプトセファルスは北へと輸送される過程でシラスウナギとよばれる稚魚に変態します(体長5〜6cm)。一方、南下するミンダナオ海流に入ったレプトセファルスは死滅すると考えられています。スルガ海山近傍で生まれ、約6ヶ月をかけて東アジアの沿岸域に辿り着いたシラスウナギ(日本の沿岸には12月〜翌年4月頃に到達)は汽水域や淡水域に進入し、体表に色素が発現したクロコとよばれる幼魚になり、底生生活に移行します。クロコは河川や湖沼で成長し、腹側が黄味を帯びた黄ウナギになります。5〜10年かけて体長50100cmに成長した黄ウナギは目が大きくなり、金属光沢をもった銀ウナギに変態し、秋から冬にかけて産卵のために降河し、回遊を始めるとされています。銀ウナギの平均年齢はオスで7歳、メスで9歳程度といわれています。海に出た銀ウナギは約半年をかけて産卵場に到達し、4月〜8月頃にかけて産卵・放精を行うと、その一生を終えると考えられています。

 日本の代表的なウナギ料理は蒲焼きであり、うな丼やうな重、ひつまぶし、う巻き(うなぎ巻き卵)などにして食べられます。鰻は古くは「むなぎ」とよばれ、「万葉集」に大伴家持が

 #3853: 石麻呂に 吾(われ)物申(まを)す

      夏痩せに 良しといふものそ 鰻(むなぎ)捕(と)り喫(め)せ

と詠んでいるように、古来夏バテ防止に食されていたようです。

 ウナギや後述するアナゴ、ハモなどウナギ目の魚の血液にはイクシオトキシンというタンパク質性毒素が含まれています。中毒症状としては、血液を大量に飲んだ場合に、下痢、嘔吐、不整脈、麻痺、呼吸困難などが引き起こされ、死亡することもあるといわれています。また、血液が目や口、傷口に入ると局所的な炎症が引き起こされます。イクシオトキシンは加熱により失活し、毒性がなくなりますので、ウナギ目の魚は加熱調理して食べれば安全です。刺身など生食は避けるべきです。

 日本の河川や湖沼における天然ウナギの漁獲量は1960年代には年間3,000トン前後ありましたが、その後は減少の一途を辿り、1993年には1,000トンを下回り、2019年は66トンでした。主な産地は茨城県、島根県、岡山県などです。

 ウナギの養殖は1879年にクロコを用いて始まりました。大正時代にシラスウナギを池で養殖する技術が発展し、1920年代にはシラスウナギからの養殖が可能となり、1930年以降養殖生産量は天然漁獲量を上回るようになりました。シラスウナギは冬から春にかけて日本の河口付近に到達するものを採捕しますが、現在、採捕に当たっては都道府県知事の特別採捕許可(採捕期間・漁法・場所等が制限されています)が必要です。ウナギ養殖産業は太平洋戦争末期から1950年にかけて低迷しましたが、それ以降復興し、1988年から1991年にかけて年間養殖量は約4万トンのピークに達しました。その後減少に転じましたが、1997年以降は2万トン前後で推移しており、2019年は17,073トンでした。主な養殖生産地は鹿児島県、愛知県、宮崎県、静岡県などです。東アジアでは中国や台湾、韓国などにおいてウナギの養殖が盛んに行われており、日本は2019年に中国から29,270トン(活鰻換算値)、台湾から1,985トン(活鰻換算値)を輸入しています。

 上述したように、日本における天然ウナギの漁獲量は養殖生産量の1%以下であり、ウナギの供給のほとんどは養殖に依存しています。養殖に必要なシラスウナギは乱獲などにより激減しており(ニホンウナギは2014年に国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種に指定されました)、養殖産業を脅かしています。この現状を打開するには、ウナギの完全養殖が求められます。完全養殖とは親ウナギから得られた受精卵を孵化し、誕生した仔魚(レプトセファルス)を飼育して稚魚(シラスウナギ)に変態させ、さらに親ウナギになるまで飼育して次世代の受精卵・仔魚を得るという養殖技術です。ニホンウナギの完全養殖の実験が2010年に水産総合研究センター(現在の水産研究・教育機構)において世界で初めて成功しました。完全養殖のサイクルの中で、レプトセファルスをシラスウナギに飼育する過程が最も困難な段階だといわれていますが、レプトセファルスにサメの卵を食べさせることでこれは克服されました。現在は完全養殖の大量生産の実験が進められており、完全養殖されたウナギを食べることができる日は近いでしょう。

 ヨーロッパウナギとアメリカウナギの産卵場は長い間北アメリカ大陸東方のサルガッソー海であるとされてきましたが、卵や産卵中のウナギ成魚がこの海域で直接確認されたことはありませんでした。最近、海流データによる稚仔魚回遊シミュレーションにより、産卵場がサルガッソー海の東側にある大西洋中央海嶺の海山である可能性が示唆されています。ヨーロッパウナギはオランダ、ドイツ、イタリア、デンマーク、ギリシャ、スペインなどで養殖されており、薫製やトマト煮込みなどにして食されています。スペインではシラスウナギをニンニクと唐辛子の香りをつけたオリーブ油で炒めたアヒージョが人気です。ヨーロッパウナギは2009年に動植物保護のため輸出入を規制するワシントン条約の対象になり、輸入する際は輸出国の証明書が必要になりました。また、2010年にIUCNの絶滅危惧種にも指定され、201012月からEU(ヨーロッパ連合)からのヨーロッパウナギの輸出入が全面的に禁止されています。かつて中国で養殖されたヨーロッパウナギが日本に大量に輸入されていましたが、現在は少なくなっています(ヨーロッパウナギの稚魚が違法に中国に輸入され、養殖されている可能性があります)。中国ではアメリカウナギの稚魚も輸入し、養殖しているようです。

 ビカーラウナギの産卵場は現在明らかになっていません。本種はフィリピンやインドネシアなどで養殖されており、日本にも輸入されています。

②アナゴ

 アナゴ(穴子、conger)はアナゴ科の海水魚の総称です。海に棲み、ウナギに似ているため漢字で海鰻とも書かれます。主にアナゴ属(Conger)のマアナゴ(真穴子、whitespotted congerあるいはcommon Japanese congerConger myriaster)が流通しており、一般にアナゴといえばマアナゴを指します。マアナゴの天ぷらやフライ、蒲焼き、煮物、寿司などは大変美味です。

 マアナゴは北海道以南の日本の沿岸域、東シナ海に分布し、浅い海の砂泥底に生息しています。体長はオスで40cm、メスで90cm程になります。産卵場は沖ノ鳥島南方沖の九州パラオ海嶺付近で、産卵時期は6月〜9月頃とされています。アナゴの仔魚もウナギと同じように透明で柳の葉のような形をしており、レプトセファルスとよばれます。春先に日本沿岸に辿り着くレプトセファルス(体長5〜8cm程度)は一般的に「のれそれ」とよばれていますが(もともとは高知県土佐地方の呼び名だったようです)、岡山県では「べらた」、兵庫県淡路島辺りでは「はなたれ」とよばれています。「のれそれ」の刺身は海の珍味として人気があります。大阪府泉南市の岡田浦漁業協同組合は平成27年度から近畿大学水産研究所と連携し、大阪湾で採捕したマアナゴの稚魚(レプトセファルスが変態したシラスアナゴ)の養殖に取り組み、養殖アナゴは「泉南あなご」として商品化されています。マアナゴの完全養殖の実験・研究が行われていますが、現時点では成功していません。

 マアナゴのほかに、クロアナゴ(黒穴子、beach congerConger japonicus)やギンアナゴ属(Gnathophis)のギンアナゴ(銀穴子、bucktooth congerGnathophis heterognathos)などが僅かに流通しているようです。

 日本における2019年のアナゴ類の漁獲量は3,300トンで、主な産地は島根県や長崎県、宮城県、福島県、茨城県、愛知県、兵庫県、山口県、福岡県などです。

③ハモ

 ハモ(鱧、daggertooth pike congerMuraenesox cinereus)はハモ科ハモ属(Muraenesox)の海水魚で、大きな尖った口(英語のpikeは「尖った先」の意)に鋭い歯(英語のdaggerは「短剣」の意)をもち、荒い性質です。西太平洋とインド洋の熱帯・温帯域に広く分布し、日本では福島県以南の太平洋沿岸、青森県以南の日本海沿岸、九州の東シナ海沿岸、瀬戸内海の砂泥底に生息しています。ウナギやアナゴのように海洋への大回遊はせず、産卵は沿岸水域の砂泥底で行われます。産卵時期は5月〜9月頃で、卵は2日以内に孵化します。1年ほど浮遊仔魚期(レプトセファルス)を過ごした後変態し、稚魚(シラスハモ)になります。メスはオスよりも成長が早く、オスは成長しても体長70cm程度ですが、メスは2m以上になります。ハモ漁は紀伊水道や瀬戸内海などで盛んですが、近年は漁獲量の全国的な統計が取られていません。

 ハモは雌が旨く、雄はまずいので、雌を選びます。ハモの筋肉中には筋間骨という小骨が多数存在するため、3枚に下ろした後「骨切り」をしてから調理します。はもちり(落とし)、ぼたんはも、はもすき、フライ、天ぷら、唐揚げなどにして食されています。また、ハモの卵巣(鱧子)の煮付けも非常に美味だそうです。ハモは京都の祇園祭や大阪の天神祭に欠かせない夏の食材です。

 ハモ属にはスズハモ(鈴鱧、common pike congerM. babio)がいますが、ハモに比べて味が落ちるとされています。漁獲量は少なく、地域的に食されているようです。

表10-9 ウナギ目の代表的な魚

参考文献

国際連合食糧農業機関(FAO) 「世界漁業・養殖業白書2020年」

農林水産省 「令和元年漁業・養殖業生産統計」 令和2年5月28日公表

MSC(海洋管理協議会) 「MSC年次報告書2018年度」

ASC(水産養殖管理協議会) 「ASC認証:国内外での認証の広がりと最新情報」 2019

公益社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 こんぶ」 平成8年3月

文部科学省 「日本食品標準成分表 2015年版(七訂)」

(http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365297.htm)

松本義信ら 「ひじき加工時の加熱時間の違いによる鉄含有量の変化」 川崎医療福祉学会誌 27:147-152, 2017

JANUS Expert Columns 徳田先生の部屋 「第10回 海藻特有のぬるぬる、ぷるぷるの正体は?」

(http://www.janus.co.jp/tokuda/tabid/87/Default.aspx)

公益社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 のり」 平成16年3月

唐澤幸司・阿部健一 「海藻多糖類(1) 寒天」 食品と容器 53:546-551, 2012

田川昭治 「寒天の製造に関する化学的研究」 水産大学校研究報告 17:35-86, 1968

唐澤幸司・阿部健一 「海藻多糖類(2) カラギナン、アルギン酸」 食品と容器 53:610-614, 2012

大隅清治 「クジラは昔 陸を歩いていた」 PHP文庫 1997

小西健志 「ヒゲクジラはコスト至上主義?−クジラの体と食性と栄養のつながり−」 鯨研通信 438:10-17, 2008

安永玄太・藤瀬良弘 「ヒゲクジラの栄養学−栄養成分から見る捕獲調査副産物の特徴について−」 鯨研通信 423:1-5, 2004

文部科学省 「日本食品標準成分表 2015年版(七訂) 脂肪酸成分表編」 

(http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365297.htm)

辻 浩司ら 「鯨類捕獲調査で得られた鯨類体内におけるイミダゾールジペプチド類の比較(短報)」 北海道水産試験場研究報告 74:25-27, 2009

藤野嵩大ら 「ツチクジラ赤肉の成分ならびにメタノール抽出液の抗酸化性」 日本水産学会誌 83:607-615, 2017

Noren, S. R. and Williams, T. M. “Body size and skeletal muscle myoglobin of cetaceans: adaptations for maximizing dive duration” Comparative Biochemistry and Physiology Part A 126:181-191, 2000

Schorr, G. S. et al. “First long-term behavioral records from Cuvier’s beaked whales (Ziphius cavirostris) reveal record-breaking dives” PLoS One 9:e92633, 2014

水産庁 「令和元年度水産白書参考図表」

池添博彦 「万葉集の食物文化考 Ⅱ 動物性の食を中心にして」 帯広大谷短期大学紀要 27:59-77, 1990

公益社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 たい」 平成5年3月

崎田誠志郎 「ギリシャ・アテネにおける水産物市場の特徴と現状」 E-journal GEO 13:439-451, 2018

公益社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 ぶり」 平成9年3月

公益社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 まぐろ」 平成7年3月

公益社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 かつお」 平成2年3月

公益社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 はたはた」 平成22年6月

水産庁 水産研究・教育機構 「令和元年度 国際漁業資源の現況 60 さけ・ます類の漁業と資源調査(総説)」 2020

小関右介 「サケ科魚類のプロファイル-10 サケ」 SALMON情報 6:22-25, 2012

水産庁 水産研究・教育機構 「令和元年度 国際漁業資源の現況 62 サケ(シロザケ) 日本系」 2020

四宮明彦ら 「鹿児島県西岸で捕獲された成熟サケ」 魚類学雑誌 50:147-151, 2003

野原精一・佐竹研一 「渓流−森林系の物質移動と鮭の遡上」 地球環境 9:61-74, 2004

加藤文男 「福井県河川に遡上するサケOncorhynchus keta (Walbaum)の初期生活史」 福井市自然史博物館研究報告 54:63-74, 2007

鈴木俊哉 「サケ科魚類のプロファイル-1 ベニザケ」 さけ・ます資源管理センターニュース 7:12-13, 2001

山本祥一郎 「ヒメマス−複雑な移植の歴史をもつ水産重要種」 魚類学雑誌 62:195-198, 2015

青柳敏裕 「サケ科魚類のプロファイル-15 クニマス」 SALMON情報 11:36-39, 2017

小関右介 「サケ科魚類のプロファイル-11 ギンザケ」 SALMON情報 7:34-37, 2013

加賀敏樹 「サケ科魚類のプロファイル-7 カラフトマス」 さけ・ます資源管理センターニュース 15:12-13, 2005

水産庁 水産研究・教育機構 「令和元年度 国際漁業資源の現況 61 カラフトマス 日本系」 2020

鈴木俊哉 「サケ科魚類のプロファイル-5 ニジマス」 さけ・ます資源管理センターニュース 12:9-10, 2004

日本海深浦サーモン 「日本・世界のサーモン」 http://fukaurasalmon.jp/salmon.html

水産庁 水産研究・教育機構 「令和元年度 国際漁業資源の現況 63 サクラマス 日本系」 2020

坪井潤一 「サケ科魚類のプロファイル-12 サツキマス・アマゴ」 SALMON情報 8:38-41, 2014

藤岡康弘 「サケ科魚類のプロファイル-14 ビワマス」 SALMON情報 10:49-52, 2016

石黒直哉 「サクラマス3亜種のミトコンドリアゲノム全塩基配列の比較」 福井工業大学研究紀要 37:243-250, 2007

浦和茂彦 「サケ科魚類のプロファイル-3 マスノスケ」 さけ・ます資源管理センターニュース 9:9-10, 2002

Seafood Watch “Chinook (King) salmon-New Zealand” 2020

伴 真俊 「サケ科魚類のプロファイル-9 タイセイヨウサケ」 SALMON情報 5:33-35, 2011

斉藤寿彦・太田洋昌 「サケ科魚類のプロファイル-4 イワナ」 さけ・ます資源管理センターニュース 10:12-14, 2003

斉藤寿彦 「サケ科魚類のプロファイル-6 オショロコマ」 さけ・ます資源管理センターニュース 13:9-12, 2004

福島路生 「サケ科魚類のプロファイル-13 イトウ」 SALMON情報 9:35-38, 2015

福島路生ら 「イトウ:巨大淡水魚をいかに守るか」 魚類学雑誌 55:49-53, 2008

公益社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 ひらめ・かれい」 平成元年3月

公益社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 たら」 平成4年3月

水産庁 水産研究・教育機構 「令和元年度 国際漁業資源の現況 64 スケトウダラ(総説)」 2020

公益社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 いわし」 昭和59年3月

永野一郎ら 「ペルーアンチョベータの資源管理」 日本水産学会誌 79:1061-1065, 2013

公益社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 あゆ」 平成10年3月

平野敏行・章超樺 「淡水魚の香気−アユの香りはどのように生成されるか−」 化学と生物 3:426-428, 1993

内閣府食品安全委員会 「平成22年度食品安全確保総合調査:食品により媒介される感染症等に関する文献調査報告書 30.横川吸虫」 平成23年3月

新居久也ら 「シシャモSpirinchus lanceolatusの遡上河川における産卵場所と物理環境条件の関係」 日本水産学会誌 72:390-400, 2006

藤川裕司ら 「耳石Sr:Caと採集調査から推定された宍道湖産ワカサギの回遊パターン」 水産増殖 62:1-11, 2014

是枝伶旺ら 「八代海南部から得られた南限記録のシラウオ」 Nature of Kagoshima 47:101-104, 2020

片山知史ら 「耳石微量成分分析から推定された青森県小川原湖におけるシラウオの遡河回遊群」 水産増殖 56:121-126, 2008

水産庁 水産研究・教育機構 「令和元年度 国際漁業資源の現況 77 ニホンウナギ」 2020

塚本勝巳 「海の研究と仮説」 比較内分泌学 39:130-134, 2013

独立行政法人 水産総合研究センター 「特集 ウナギ完全養殖達成」 FRANEWS 23:4-21, 2010

Chang, Y.-L. K. et al. “New clues on the Atlantic eels spawning behavior and area: the Mid-Atlantic Ridge hypothesis” Scientific Reports 10:15981, 2020

Kurogi, H. et al. “Discovery of a spawning area of the common Japanese conger Conger myriaster along the Kyushu-Palau Ridge in the western North Pacific” Fisheries Science 78:525-532, 2012

上田幸男 「全国1位の生産額を誇る徳島産ハモ」 徳島水研だより 59:1-9, 2009